卑弥呼亡き後の乱世で、神々に選ばれた少年が国を救う!
天城 英臣
序章:闇に沈む邪馬台国
雷鳴が空を切り裂き、邪馬台国の大地に轟音が響いた。遠くの山々に雷光が瞬くたび、村々の人々は恐怖に身を震わせ、空を仰いで祈りを捧げていた。女王・卑弥呼が亡くなったという知らせが届いてから、邪馬台国は暗雲に包まれていた。
混乱が広がる中、カズラは孤独な戦士として荒野を歩んでいた。剣を握りしめる手が少し震えているのを感じ、彼は自分の力不足に苛立っていた。
「俺は、まだ……足りないのか?」
そう呟いたその時、カズラの前に二人の人影が現れた。
「カズラ様、ここにおられましたか。」
カズラの親友であり、忠実な戦友のアカリが駆け寄ってきた。彼女の顔は険しく、いつも冷静な彼女が珍しく焦っているのがわかる。
「アカリ、何があった?」
カズラは剣を納めながら問いかけた。
「狗奴国の兵が動き出しました。辺境の村が次々と襲われています。このままでは、邪馬台国全体が彼らの手に落ちるかもしれません……。」
アカリの声には、緊迫感が漂っていた。
「くそ……もう動き出したのか……。」
カズラは歯を食いしばり、拳を握りしめた。
すると、もう一人の人物がゆっくりと歩み寄ってきた。巫女であり、卑弥呼の後継者とされる壱与だった。彼女の表情は静かで、しかし瞳には深い憂いが浮かんでいた。
「カズラ、あなたが動かねば、この国は滅びてしまうわ。」
壱与の言葉には、霊的な力が宿っているかのような重みがあった。
「だが、俺一人で何ができる?」
カズラは振り返り、剣を地面に突き立てた。「俺には、まだ何も見えていない。戦士としての力はあるが、この国をどう救えばいいのか、答えが出ないんだ。」
「あなたは一人ではありません、カズラ様。」
アカリは彼の肩に手を置いた。「私も、壱与様も、そしてこの国を信じる者たちがあなたのそばにいます。」
「それでも、俺は……」
カズラが言いかけたその時、突如、夜空に再び強烈な雷鳴が響き渡り、三人の頭上に光の柱が立ち上った。その光の中に、姿が浮かび上がる。天照の姿だ。
「天孫の末裔よ……」
天照の声が、空気を震わせた。「お前は、神々の力を受け継ぐ者。だが、その力は、お前が己の運命を受け入れるまで眠ったままだ。今、この国は崩壊の危機に瀕している。内からは権力争い、外からは狗奴国の脅威が迫っている。お前が立ち上がらねば、この国は二度と光を見ることはない。」
カズラは天照の姿に圧倒され、立ち尽くした。彼の心の奥深くで、何かが目覚めようとしていた。しかし、その力を受け入れるには、まだ勇気が足りなかった。
「どうすれば……俺はこの運命に立ち向かえるんだ?」
カズラは天照に問いかけた。
「お前には、まだ出会うべき仲間たちがいる。彼らと共に力を合わせ、倭国を救うための旅が始まるだろう。だが、気をつけるがよい……。」
天照の声が低くなる。「この闇の中には、お前を裏切り、国を支配しようとする者も潜んでいる。敵は外だけではない。内にもいるのだ。」
その言葉を聞いた瞬間、カズラの胸に鋭い痛みが走った。彼は心のどこかで感じていた。卑弥呼の死後、邪馬台国の内部で不穏な動きが始まっていることを。
「敵は、内に……?」
カズラは声を失った。
「そうだ。難升米(なしめ)、彼がこの国を支配しようと動き出している。お前がこの国を救うのを待ってはいない。お前が出遅れれば、彼はすべてを奪い去るだろう。」
天照の言葉が、カズラの胸に重くのしかかった。難升米――かつての友であり、戦友だった彼が、今では倭国を自らの野望で満たそうとしている。彼はカズラにとってのライバルであり、最大の障害となる。
カズラは剣を握りしめた。「俺は……やる。俺の力で、この国を守る。」
「そうか、カズラ。」
天照は微笑み、光がゆっくりと消えていった。「覚悟を決めたなら、運命はお前に味方するだろう。だが、その覚悟が本物かどうか、試練が待っているぞ。」
カズラは雷鳴の中に一人立ち尽くし、運命の重さを感じていた。壱与とアカリが彼のそばに寄り添い、その肩に手を置いた。
「カズラ、私たちはあなたを信じている。あなたの力を、そしてあなたの心を。」
壱与が静かに囁いた。
「行きましょう、カズラ様。」
アカリが前を向き、闇に覆われた荒野を見つめる。
「俺たちの旅が、今始まる。」
カズラは剣を高く掲げ、夜空に向かって力強く叫んだ。
その叫びは、大地に轟き渡り、倭国全体に新たな希望の光が射し込むようだった。しかし、彼らの行く先には、数多の困難と裏切り、そして血の運命が待ち受けていた。
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