メニエル病の、女の娘(こ)!
崔 梨遙(再)
1話完結:900字
社会人になってスグに付き合った女性は景子、病院の事務をやっていた。景子は決してビジュアルに恵まれていたわけではなかった。胸は無かった。スレンダー、というか痩せていた。痩せているのは良い、僕は細い女性は好きな方だ。しかし、ショートカットが男の子みたいに見えた。色気が無い。
僕が初めて出会った時は長い黒髪だった。その時の方が、まだ色気が多少あった。何故、僕と付き合うタイミングで髪をショートにしたのだろう? え? 誰かにフラれたの?笑
と言っても、ブサイクというわけではない。でも、キレイでもなければかわいくもない、要するに『普通』だった。身長も顔も普通だった。景子の魅力は顔やスタイルではない、トークだった。景子は話していてめちゃくちゃ楽しい女性だったのだ。
一緒にいると、笑いが絶えない。しかも、自分の方から沢山話してくれるので、話していて非常に楽だった。映画、音楽、職場、短大時代のネタ、話題は豊富だった。短大の時、友人の女の子のカバンから異臭がして、カバンを開けたら使用済みのコンド〇ムが入っていたという話はおぼえている。友人の彼氏のイタズラだったらしいが、ナイスな彼氏だ。
笑いのネタが尽きない景子だったが、景子は結婚願望が強く、結婚の話題を持ち出してくることが多かった。正直、それは重かった。付き合ってからまだ日が浅かったからだ。
そんな一緒にいて楽しい景子には弱点があった。メニエル病だったのだ。土日、繁華街の人混みの中で急にうずくまったりする。
「目眩がして歩けない」
と言うので、僕は景子がうずくまる度に、景子をお姫様抱っこでタクシー乗り場まで走った。そして病院へ行った。
そんなことが何度もあったのだが、或る日、景子をお姫様抱っこしながら走っていると、
「誘拐やー!」
と、大声がした。すると、次第に人混みから声が飛んで来た。
「どこや?」
「あれや!」
「ほんまや、誘拐や!」
「誘拐や!」
「誘拐や!」
僕は、
「違いますよ-!」
と叫びながらタクシー乗り場まで走った。
メニエル病の、女の娘(こ)! 崔 梨遙(再) @sairiyousai
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