第97話 強行軍4
「敵潜水艦が二〇隻あまり、前方に布陣しているとのことです」
「阿賀野」の三川軍一司令からの報告を聞いて、近藤は驚いた。
はっきりいうと、米軍が潜水艦をまとめて持ち出してきた事自体が珍しいのだが、それ以上に数が前代未聞だ。
内海の護送船団や哨戒艦艇がよく米潜水艦を撃沈していることは近藤も聞いており、その質は我が軍の潜水艦には遠く及ばないと、軍内では判断されていた。
しかし、哨戒任務や追尾任務に就いている米潜水艦は情報面から艦隊にとっては依然脅威であった。
「群狼戦術か...」
数年前のドイツとの技術交流で日本にもたらされた、独国海軍のデーニッツ元帥が考案した群狼戦術は、現在の潜高型の対艦隊戦闘において、基本中の基本となっていた。
今まで単艦で哨戒や攻撃を行っていた潜水艦をまとめて運用するのは、革新的だったのだ。
ある程度まとめて運用することで、敵艦隊に護衛艦艇が居ても打撃を与えることができるし、生還率も高くなる。
一方、珊瑚海海戦では米機動部隊に攻撃を試みた潜高型の戦隊が返り討ちに遭い、一隻だけを残して壊滅するなど、対潜哨戒機を搭載した空母が船団に付いている場合は潜水艦の優位性が損なわれることが判明した(しかし、この被害には不可解な点が多く、米軍の新兵器だという意見もある)。
そのため、現在では水上艦部隊である第二艦隊にも空母が配備されるなど、対潜戦への備えが行われている。
だが、第二艦隊に付属している空母は搭載機数三〇機程度の護衛空母二隻のみで、その搭載機の殆どが零戦であるため、二〇数隻の潜水艦に対しては航空哨戒のみでは対処不能だ。
「秋月型は使えんしな」
B17の編隊はすぐそこまで迫っている。
防空駆逐艦の秋月型は対空戦闘に従事するから、対潜戦闘に参加可能なのは松型(橘型などの松型系列を含む)のみだ。
第二艦隊には本来であれば松型主力の第五水雷戦隊(珊瑚海海戦にて第四航空艦隊の護衛及び、夜戦に参加。詳細は珊瑚海海戦航空艦隊概要を参照)があるのだが、珊瑚海海戦で相当数が破損或いは撃沈されたため、一旦補充と保養のために後方に下がっていた。
なので今第二艦隊に所属しているのは第四水雷戦隊だ。
四水戦も松型二四隻で構成されていて、第五水雷戦隊と内訳は大差が無いが、実際は新米艦が多く、練度には多少の不安がある。
しかし、近藤は多少動じはしたものの、今の第二艦隊には頼もしい護衛がいることを思い出した。
前の珊瑚海海戦でも巡洋艦八隻を撃沈し、更に戦艦一隻を沈めた部隊だ。
なんでも屋の巡洋艦、阿賀野型。
勿論、対潜戦闘もお手の物だ。
「十戦隊の三川に電信、『対潜戦闘の指揮は貴様がやれ』と」
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以下に主力水雷戦隊を記す
〈第一水雷戦隊〉
・秋月型一二隻(冬月型も含む)
基本は航空艦隊に付属として駆逐艦を派遣している
〈第二水雷戦隊〉
・秋月型一二隻(冬月型も含む)
一水戦と同じく基本は航空艦隊に付属として駆逐艦を派遣している
〈第三水雷戦隊〉
・軽巡「那珂」
・吹雪型一六隻
・朝潮型八隻
〈第四水雷戦隊〉
・軽巡「球磨」
・松型二四隻(松型一二隻、橘型一二隻)
〈第五水雷戦隊〉
・軽巡「阿武隈」
・松型二四隻(榊型六隻、橘型一八隻)
※朝潮型は建造途中に海軍の方針が変わったため、主砲を12.7㎝連装高角砲に置き換えるなどの設計変更が行われたほか、九番、十番艦の「霞」と「霰」は起工前に中止となった。
※海軍省としては水雷戦隊は護衛戦隊に改称するつもりらしいが、水雷屋が反発していて延々と進んでいない。
荒海の群龍 波斗 @3710minat
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