第96話 強行軍3



アメリカ海軍の潜水艦事情は悲惨の一言に尽きる。


まず、ハワイの真珠湾や、フィリピンのカビテ海軍基地といった補給拠点が潰され、魚雷の数が不足しているというのもあるが、最大の問題はその生還率だった。


今まで、日本軍の勢力下の海域に進出して帰還できた潜水艦は極わずかである。


そもそも帰還していないので、確かなことは分からないが、どうも奴らは高性能な対潜兵器を装備して、広域的な哨戒及び船団護衛を行っているらしい。


ジャップの潜水艦の静粛性はよくアメリカ水兵の間では話題に登るが、水上部隊はその潜水艦でさえ探知できるほどのものを有していると。


日本海軍は以前からドイツと交流があったらしいので、ドイツの高性能機械を使用しているのかもしれない。


既にジャップの一部の兵器ではドイツ系技術との関連が疑われる異常に高性能なものがあるので、おかしくは無かった。


それに対して、太平洋艦隊司令部参謀のマクモリス閣下は、潜水艦による敵地への哨戒活動を縮小し、潜水艦を敵艦隊が来ると思わる場所に集中的に配備する方針を示した。


然り、珊瑚海海戦において珊瑚海に配備されていた潜水艦の一部は敵機動部隊の追跡や、探索を行ったが、B17に情報提供をしたぐらいで、さしたる戦果は挙げられなかった。


しかし、そんな潜水艦部隊にも転機が訪れる。


最新型艦であるマッケレル級潜水艦が就役を始めたのだ。




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『マッケレル級』


〈諸元〉


基準排水量:水上800トン 、水中1,165トン


全長:72m


全幅:6.5m


速力:水上16ノット、水中9ノット


航続距離:10ノットで7000海里


〈武装〉


21インチ魚雷発射管6門


3インチ単装高角砲1門


〈概要〉


本来ならばS級などの小型潜水艦を更新する目的で建造される予定だったのだが、日本軍が小型潜水艦(潜高型)を量産しているという情報から、アメリカもそれにならって小型潜水艦を建造してみることになった。

ブロック工法や電気溶接など、小柄ゆえとてつもなく量産性が高く一隻5ヶ月で建造可能である。

実際に建造されてみると、小型、低速、軽武装の本級は最初は使い勝手が悪いと敬遠されていたのだが、マクモリスが計画した待ち伏せ攻撃には非常に有用で、航続距離の短さも問題にならず、数を揃えられる本級が大量生産されることになった。

長距離運用での通商破壊を想定したガトー級と短距離運用での待ち伏せ攻撃を想定した本級とのハイローミックスで運用される予定。



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「スクリュー音接近、敵艦隊です!」


「きたか」


タスマン海に展開しているマッケレル級は23隻、その全てが敵機動部隊から分派した戦艦「ナガト」を始めとする敵水上艦艇部隊の進路上に移動していた。


待つに待つこと半日、やっと敵艦隊はマッケレル級が展開していた海域にやってきた。


数は少なくとも40以上、天敵である駆逐艦も数十隻は含まれている。


しかし、潜水艦部隊には、そんな敵艦隊に挑めるほど、頼もしい味方が居た。


同時に攻撃を実施するB17の大編隊だ。


空襲で回避行動をしている間に、潜水艦部隊が魚雷を撃ち込み、敵を撹乱するのだ。


「魚雷発射用意!測距開始」


だが、彼らは知らない、B17は新型零戦によってまだ艦隊にたどり着けていないことを。


彼らは知らない、阿賀野型軽巡の対潜能力を。


彼らは知らない、日本軍の底力を。


海中に潜んでいたマッケレル級は、それぞれ動き始める。


その動きが「阿賀野」の艦橋で三川に見られているとは知らずに。

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