第95話 強行軍2
「
B17には上下左右前後12門の旋回式ブローニング機銃が装備されており、更にその防弾性と生存力、搭載能力の凄さが、空の要塞と言わしめる所以である。
太平洋戦争初戦ではフィリピンに配備されていたB17は根こそぎ零式陸攻の攻撃で地上撃破されたが、ハワイ沖海戦や
本来ならばB17は戦略爆撃機であり、そのような用途に使用することはボーイングにしてみれば不本意なのだが、なにせ数が揃っていない戦術爆撃機や艦上攻撃機の代用として、その搭載量は破格であり、対艦攻撃でも大きな戦力になるのではないかと期待されていた。
そして、今、タスマン海にて勃発した海戦においても、B17は豪州の基地から敵水上艦部隊を叩くべく出撃した。
「各機射撃開始!、密集せよ」
70機のB17の下部に設置されている、計200門以上の12.7㎜ブローニング機銃が火を吹く。
圧倒的な弾幕である。
下から接近してきた零戦の何機かが、損傷あるいは搭乗員をやられたようで、そのまま錐揉みしながら落ちていった。
だが、他の機は翼を翻して散開し、その火箭の通り道の外側に移動した。
初撃でやったのは1、2機ぐらいで、敵が分散してしまっては弾幕も効果が薄くなる。
だがしかし、B17と眼下の敵機にはとてつもない高度差がある、すぐには脅威にならないだろう。
そう考え、前方に見える敵艦隊を睨んでいた編隊長に飛び込んだの報告は、思いもしないものだった。
「上空に敵機!」
編隊長はコックピットに身を乗り出し、上のほうを睨んだ。
間違いなく敵機と思わしき一群が接近してきていた。
「ゼロはあんな高空では飛行できない筈だぞ!?まさか、新型か?」
ここは高度7000mの高空だ、ジャップが使う
実際、珊瑚海海戦ではあのゼロファイターがB17に手も足も出なかったという。
しかし、今、敵機はB17よりも高空からの攻撃を図っている。
ありえないことだった。
「とにかく上空の敵機を優先的に迎撃しろ!」
下からの攻撃は戦闘機にとってしづらいものだ。
だが上からとなると、高度差を活かした一撃離脱戦法は戦闘機の得意分野だ。
またB17は上部にはブローニング連装旋回機銃1基しかない。
特に零戦となると、その機動性と大口径砲が合わさって、B17の旋回機銃では迎撃が難しい。
「
編隊に護衛機は無い。
やはり航続距離が短いB17といえど、戦闘機にとっては到底及ばないレベルなのだ。
機首直上の連装砲塔が旋回し、12.7㎜連装機銃が火を吹く。
相変わらずM2機関銃は高威力だった。
敵機の一機が翼の先端あたりをへし折られ、分離した翼端と共に落ちていく。
しかし敵も受け身では無い。
編隊のB17の隙間を通り抜けるように次々に敵機が通過したあと、何機かのB17がエンジンから火を吹いていた。
「こちら12番機。もう持ちそうに無い、脱出する!」
「エンジンがやられた!ああ、クッソ!」
落伍したのは8機、そのうち3機は間もなく操縦を失って墜落した。
残りの5機も低空で待ち構えていた敵機に集られ、あっという間に数をすり減らし全滅した。
更に先ほど攻撃をしてきた敵の編隊は再び上昇し、後方から2度目の攻撃を行おうとしている。
その零戦は翼端が切り詰められていて、まるで別機のような形状をしていた。
ともあれ、まだ敵艦隊まで一〇分はかかるであろう距離がある。
状況は最悪だった。
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「音波探信儀に反応あり。敵潜水艦である可能性大!」
一方の第二艦隊にも、B17よりもより深刻な脅威が迫っていた。
「映像、写します」
「阿賀野」に搭載されている一式水中探信儀はブラウン管モニター上に反射波を投影することができ、それは艦橋にも設置されていた。
多目的軽巡ということで、阿賀野型は設計時点で他の巡洋艦にはない対潜能力を付与されており、搭載している一式水上偵察機と連携したより立体的な対潜戦闘が可能であった。
「これは...」
阿賀野型四隻から成る第十戦隊の司令、三川軍一はその映像をみてそう漏らした。
写っていたのは、第二艦隊の進路上に布陣する、数十はあるであろう敵艦の反射波であった。
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