第二艦隊

第94話 強行軍1



タスマン海をゆくその巨艦は、帝国海軍最強の戦艦である。


長門型戦艦1番艦「長門」そして、2番艦「陸奥」。


かつては南遣艦隊に所属し、小沢らが司令部を置いたりしていたが、今現在は巡洋艦を主軸とする第二艦隊に移籍している。


「第七、第十戦隊合流します!」


最上型防空巡洋艦4隻から成る第七戦隊と阿賀野型軽巡4隻からなる第十戦隊は、「長門」を始めとする2隻の戦艦、そして護衛空母2隻、駆逐艦十数隻の第二艦隊本隊の隊列に合流した。



「壮観だな」


近藤信竹、第二艦隊司令官はその光景を見てそう呟く。


先に行われた第一、第二航空艦隊による米機動部隊との航空戦では、お互いに決定打を与えられないまま、航空機を大量に損耗し、航空艦隊は事実上戦闘不能になってしまった。


米艦隊は2隻、こちらは6隻の稼働可能な正規空母を残していたが、米軍の方には更に護衛空母が7隻ほどあることが確認された。


こちらにも第二艦隊の護衛空母や攻略部隊の護衛空母を合わせれば、それなりに頭数だけはそろうはずだが、艦載機数で言えば互角、よくて少し優勢といった具合だ。


加えて敵には豪大陸の陸上機もある。


第二次攻撃隊はそれによって甚大な被害を被ったという。


だから、攻略部隊の輸送船団の護衛にあたっていた第二艦隊が前に出ることとなった。


第二艦隊に敵機を引き付け、残る少ない戦闘機で迎撃し敵の航空戦力を削ぐという目的もあるのだが、一番はキャンベラへの空襲が航空艦隊が半壊したためできなくなったので、艦砲射撃で代用しようということだ。


流石のオーストラリアも、首都が砲撃にさらされ更地になってしまうとあらば、講和、あるいは降伏せざる終えない。


少なくとも豪州を第二艦隊で落とせるなら、フィジー方面は残りの航空艦隊を集めれば攻略できる。


「だが、敵が何もしてこないわけではないだろうな」


「司令?なにか言いましたか?」



近くに居た「長門」艦長が近藤の方に向いた。


「いや、なんでもない」



近藤は再び接近してくる巡洋艦部隊のほうに目をやった。


先頭から「阿賀野」「能代」「矢矧」「酒匂」と第十戦隊が第二艦隊の隊列に合流し、それに続く形で「最上」「三隈」「鈴谷」「熊野」の第七戦隊が並走している。


奥には一〇センチ連装高角砲を12基装備した近距離防空艦である改古鷹型の「古鷹」「加古」「青葉」「衣笠」も続いている。


全12隻、帝国海軍の防空巡洋艦の全てだ。


駆逐艦も各航空戦隊を護衛していた付属艦の秋月型、冬月型が20隻は揃い、蓬莱型護衛空母2隻も上空に零戦と九七艦攻を展開させ、上空と水面下に潜む敵に目を光らせている。


後衛の第二航空艦隊の残存空母艦載機も必要に応じて援護に周る。


近藤は水平線のほうを見ていた。


「敵編隊接近!」


とっくに第二艦隊は豪州の陸上機の先頭半径内に侵入していた。


ようは、時間の問題だった。


「迎撃用意!。二航艦に直掩機の派遣を要請しろ」


「長門」「陸奥」の41センチ砲が仰角をかけ、膨大な数の高角砲も旋回し艦隊の前方の空域を睨む。


既に合流を終えていた巡洋艦部隊は、前方に展開し、迎撃の態勢に移行した。


「機種はわからんのか?」


「はい、前方哨戒レーダーピケット艦の続報はまだありません」


第二艦隊の進路上30km先には、秋月型一隻に松型三隻の小部隊が偵察を目的に先んじて航行していた。


敵編隊接近の報も、その部隊からだった。


「菊月より敵機はB17、数およそ60!」


「束魚雷か...」


珊瑚海海戦で第四航空艦隊が打撃を受けた束魚雷。


迎撃できない高高度からの魚雷攻撃は脅威以外の何物でもなかった。


「だがな、二度は繰り返さんよ」


近藤は死角である「長門」の後方に追従する2隻の護衛空母を思った。


護衛空母の「蓮華」「熊沢」には高高度から迫るB17に対抗するための兵器があった。


零式艦上戦闘機三二型乙、高高度でのエンジン効率の向上を狙い2束過給器を備えている発動機、栄二一型に変装させたものだ。


ただし、史実と異なりドイツの技術を参考に排気タービンが装着されている他、高高度での戦闘に対応するために与圧式完全密閉コックピットとし、搭乗員も万全の状態で戦闘ができる。


「長門」の上空を、零戦の編隊が通過していった。


既にポツポツと見え始めた敵編隊を察知すると、零戦隊はそちらに向きをかえて、突進した。








※この菊月は睦月型ではなく、秋月型である。睦月型は全艦哨戒艇籍に移籍している。


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