第2話 師匠

「未だに信じられねぇな」

あの衝撃の事実を聞かされてから、

2日の時が過ぎた。

本当は2日もぬくぬく休んでられないんだけど、

両親と医院長から圧をかけられたので

少し休む、いう選択肢しか存在しなかった

今では家に帰って来れているのだが……。

(しかしまぁ、呑気にやってられない)

この都市で1番知名度が高い

星羅せいら高等学園の推薦入学試験が

1週間後に迫っているのだ。

試験を突破するのは、大前提として

最強を目指すと言った手前

中途半端な結果で入学する訳にもいかない。

(まぁ、慢心はするつもりはねぇけど)

こんなことを言っておいて、落ちたら……

まぁ詰むな、最強なんて夢のまた夢だ。

「気乗りしねぇ〜」

そうならない為に……やることがあるんだが

「早く神谷さんの所行きなさいよ」

(母さん……、知ってるよね?)

何を隠そう俺の師匠、神谷 翔かみや しょうとは

俺の勝手な都合で逃げたまま会ってない

非常〜に、気まずい関係なのである!

(笑えねぇよ)

しかもその勝手な都合というのが、

"とある奴"にボッコボコにされて

最強を目指すのことを挫折した……という

なんともダサいものだから、救えない……。

「中途半端な気持ちで人生賭けないでね」

「そりゃそうですね」

あんなこと言ったんだ、弱音なんて言ってられない

時間も……俺には残されてねぇしな。

(頑張れ俺……今日も偉い)

「ほら、さっさと行っておいで」

「はいっ!行ってきます母さん!」

俺はそう言って、家を飛び出したのだった。




「お、お久しぶりです……翔さん」

「帰れ」

そう……俺の師匠は即答した。

(そ、即答かよぉ)

見くびっていた、この男のことを……

甘えを許さない狂人だったということを!

「あの頃の俺とは違うんです!」

「信じられん、とっとと帰れ」

確かに俺が悪かったけど!

まともな会話すら拒否してくるなんて……!

(俺が悪かったけど……!)

クッソォあの頃の俺ぇ!何逃げてんだ!

……じゃねぇよ!なんも変わってねぇな俺!

(もう、逃げないんだって決めたんだろ)

「俺には時間がないんです!どうか……!」

「……どういうことだ」

俺の方を一切見ていなかった翔さんだが、

先程の言葉で初めてこちらを向いた。

「後……1年なんです。俺の……異能力」

「…よく分からんが、少しぐらいは話聞いてやる」

(……驚いた、あの狂人が)

「やっぱ帰るか?」

「なんでもありません!ありがとうございます」

(ナチュラルに心読んでくんじゃねぇよ!)

そんなことを考えながら俺達は、

歩みを進めるのだった。

「で、詳細をさっさと言え」

「実は……」

医院長に言われたことを翔に詳しく話した。

あまり人に伝えてはならないと言われているのだが

翔さんとは長い関係だし、大丈夫だろう。

「なるほどな……それで」

「お願いします!」

「……条件がある」

正直、駄目だと思っていた。

あんな形で逃げた俺を許してくれないと……。

「推薦入学試験までしか俺は教えてやらん」

「本当……ですか」

「別にお前に同情してる訳じゃない」

(それは嘘……だろ)

なんやかんやで翔さんは優しいから、

……俺のことを許してくれているだけだ。

「んじゃ、さっさと始めるか」

「異能力の調整からで……」

「そんなん10分で終わらせろ」

(……鬼!)

おいおい、このイカレ野郎は俺の話を

ちゃんと聞いてたのか!?耳ついてる!?

俺、今の出力が10倍近くになってんだぞ???

「俺に頼んだ時点で分かってたろ、死ぬ気でやれ」

「……はいっ!」

翔さん、ガチで同情してなかったかもしれん……

まぁでも、今はもうどうでもいいか。

(やってやるよ……!)

頑張って……頑張って、頑張るしかない。

「もう、逃げんなよ?」

ニヤッと思わず聞こえるような声に

「当たり前ですよ」

と即答するのだった……。

「1回逃げた奴が何言ってんだ……」

「それはすみません!」

推薦入学試験まで時間は長くない、

後の1週間、死ぬ気で頑張るしかない。

「本当に死なねぇようにな?」

……洒落になんねぇなぁ?

怖いこと言ってるくれるよ、これからって時にさ

(怖ぇな、また届かないと絶望するかもなんて)

でも、努力が必ず報われない辛さは知ってる……!

でも、逃げた方が辛いのはもっと知ってるから

もう……逃げない。






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異能力を使えるのが残り約1年らしいので、最強を目指そうと思います @mikage0891

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