第2型 適正

軋む音を立ててパイプ椅子に二人が座る。

二人の正面に机を挟んで座っている、薄い青髪を肩ほどまで伸ばした女性が言う。


「私の名前は氷上ひかみ。氷上スイ!

で、えーっと...なんだっけ?」


先程感じた悪寒が嘘のように消え、へらへらとした人物の声を聞いてキョトンとする二人。


「え...っと、あの、呼ばれたのもあるんですけど...」

「ルナの事件についてです!!」


どもって声が出なくなっていたリンに変わって大きな声でニコが言う。


「あー!そうそう。君たちを呼んだのもそれだよ。」

「「!!」」


驚いた顔で二人が女性を見る。


「ちょっと待ってね。」


そう言ってスイは机上に置いていた資料を手に取ってパラパラとページをめくる。

紙のすれる音だけが鳴る部屋で、二人は固唾を呑んでスイの発言を待つ。


「うんうん。じゃあ簡単に事件の概要を話すけれど...。

まず行方不明になった被害者は有名アイドルのLUNA《ルナ》。

本名は八雲やくもルナ。行方不明だと判明したのは昨晩。

最後に目撃したのは自宅のマンション入口にある防犯カメラの映像だよ。」

「昨晩!?」


知らなかった情報が耳に入り大きく声を出すニコ。

それを冷静に聞き、返答する。


「うん。

この情報は異連の最高機密だからね。

表上では【ヒトガタ】が関与している、と報道されているでしょ?

まあ間違ってないんだけど、関与どころじゃない。」

「......どういうことですか...?」

「...ここから先は言えないね。

聞けば今までの生活には戻れなくなるけど。」


先程までの話しやすい雰囲気から一変、鋭い眼差しがリンとニコの二人を見つめる。


が、二人は怖気付くことなく同時に言う。


「「もちろんです。」」


「...いいね。

えー、彼女をさらった犯人...と言うよりグループはおおよそ判明してるんだ。」

「!!じゃあ...「が、現在の所在、グループの構成、その全てが謎に包まれているままなんだよ。」


ニコが言う言葉を遮るようにスイが話す。

それを聞いたリンが、彼女に問う。


「なんで...LUNAを?」

「恐らくは有名人かつ【ヒトガタ】の適正があるかどうかで判断したと思うよ。」

「適正...?」


通常、ヒトガタはどこからともなく現れ、人間とは全く持って異なる怪生物モンスターである。その認識は全人類共通であり、間違っていない。

―――――――――が、スイが話す内容もまた、間違ってはいない内容である。


「...【ヒトガタ】の適正、つまりそれは人間がヒトガタに変わる、簡単に言えば変身できるかどうかの基準値なんだ。」

「ちょ、ちょっと待ってください...。

人間がヒトガタに変わる...?どういうことですか...?それでなんのメリットが......。」

「そうだね。まずそこをハッキリさせよう。

異連の仕事は分かる?」

「...ヒトガタの保護...及び対処?」

「そう。もちろん対処するにはヒトガタ特有の力である、【異型いけい】を掻い潜って戦わなければならない。

...で、君たち一般人には異型とはどんな風に伝わってるのかな?」

「......ヒトガタが持つ特殊能力...?」

「うん。間違っていない。

ではその詳細は?」


スイが聞いたその問の答えは、二人には出なかった。...と言うより、教わっていない。

世の中での【異型】の扱いは、つまりは人間が持っていない力、と言う認識だけである。


「知らないでしょ?

【異型】はことわりをねじ曲げる、つまり世界と異なる型にハマった力なんだ。」

「......どういう...ことですか......?」

「まあパッと思い浮かぶものじゃないね。

例え話でもしようか。君たちが思い浮かぶ異能力とは?漫画の話でもいいよ。」

「......超パワー...?他にも...空を飛んだりとか、火を操るとか......」

「うんうん、そうそうそんな感じだよ。

じゃあその力が現実にあったら?」

「...!!」


リンがハッとする。それと当時に冷や汗が頬を伝う。

考えていることがもし起こりうるのなら、それが【異型】の力だとするのならば。

そう思うと全身が震える。


「察しのいい子なら分かるね。

【異型】は、今君たちが考えた漫画の中の力みたいなものだ。現実にあれば世界を壊すのも、変えるのも容易な力。人間や動物が当然であるように過ごすこの世界のことわりとは異なる、全くもって違う力だよ。」

「...っ...。じゃ、じゃあそんなのに勝てないんじゃ......」


リンが震えた声で言う。

それを聞いたスイがニヤッと笑っていう。


「そこで、【ヒトガタ】の適正の話だよ!」

「...へ?」


ニコが呆けた顔で聞き返す。

それを見たスイが「ふふっ」と笑いながら答える。


「適正があれば【ヒトガタ】に変身できる。つまり...「【異型】を使える!?」


言葉をさえぎってリンが言う。

それを聞いたスイが、指を鳴らしてリンに言う。


「そーいうこと!!」





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