1章
幕間 日記
kwi.14(4月14日)
ワルシャワから帰って父の机を整理していると、いつか誕生日に贈ったペンが出てきた。確かグダニスク(ポーランドの港湾都市)で、映画を見に行った時に買ったものだったろうか。あれからずっと使ってくれていたみたいだ。嬉しく思う。
誕生日のプレゼントといえば、父がヨハナのために寓話集を買っていたらしい。時が過ぎるのは早いもので、彼女の誕生日までもう1週間だ。自分も何か用意しなければ。
さて、今日は朝から夕方まで快晴。向こう数日は良い天気が続くとのこと。暖かくなるとも聞いたから、ようやく本格的な春が来るのかもしれない。明日にはワルシャワの実家から使用人が来て、片付けを手伝ってくれる予定。万事滞りなく、進んでいる。
そう、滞りなく。実をいうと、あまり気が進まない。この家からあの人の痕跡をひとつひとつ消しているみたいで。
ともかく、しばらく忙しくなるだろうから覚悟はしておかないと。
そういえば、父の葬儀にあたっていくつか奇妙なことがあったので書き残しておく。単なる杞憂であってほしいけど。
・父の死について、1週間ほど口外しないようにと言われたこと。
・大きな事件のはずなのに、知っている限り新聞にも載らなかったこと。
・以前に参加した士官の葬式に比べて、驚くほど規模が小さかったこと。あるいは、父は人望がなかったのだろうか?
消えゆく夕焼け(長編版) 音瀬 りょう @Copacabana
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