第95話 御挨拶、試練


 「――このように、様々な実績を残し、これまでも国に貢献してくれた冒険者。まさにこの国の英雄とも呼べる彼が、この度クランを結成する事となり、是非皆も彼の名を覚えて……」


 どうして、こうなった。

 ウチの国の国王と謁見した時は、結構普通だったのだ。

 なんか色々言われて、「はっ!」とか「ありがとうございます!」とか言っていれば話がどんどん進んで行ったのだ。

 今回も地位を上げるとかそういうのは無しの方向で話が進んだし、あと沢山お金を貰った。

 これはもうクランの資金だな。

 それから、クランの本拠地。

 ホームとなる建物と土地を頂いてしまったのだ。

 だからこそ、そのまま「どうもありがとうございました」で済めば良かったのだが。

 パーティー会場のステージに俺達は立たされ、なんか滅茶苦茶王様からお褒めの言葉を頂いていた。

 勘弁してくれ……胃が痛くなって仕方ない。

 などと思っている内に、人に声を大きくする“マイク”という魔道具が差し出されてしまった。

 いや、まって? 無理。

 この空気で挨拶するとか、無理です。

 もはや会場にドドドッと音がするほど震えていれば、そのマイクをイーサンが受け取り。


「今宵御集り頂いた皆様、感謝いたします。我々のクラン結成の祝いとして、この様な席を用意して頂いた国王陛下にお礼申し上げます。私はクラン副リーダーの、イーサンともうします。普段は新人騎士の教育を目的とする騎士団の団長に勤めておりますが、この度友人であるクランリーダー、ダージュと肩を並べるべくクランに参加した次第です。どうぞ皆様、お見知りおきを。またこのクランに関しては――」


 彼は、多くの人の注目を集めながらも普通にスピーチを始めたではないか。

 副リーダーとかの話は、初めて聞いたが。

 でも不満など有る筈も無く、むしろ彼がリーダーを務めてくれても良いと思うくらいだ。

 そんなイーサンの話に、紳士の皆様はうんうんと頷いて見せたり。

 淑女の方々は、彼の見た目と声に心奪われているのか。

 うっとりとした表情を浮かべたりしている。

 流石は、騎士団長様。凄い、凄いぞイーサン。

 このまま俺の存在を消すくらいに、圧倒的なスピーチをかまして終わりにしてくれ。


「では、長くなってしまいましたが、私からの御挨拶はこの辺りにさせて頂きます。さて、それではクランリーダーからのお言葉を――」


 そ う だ っ た。

 一言くらい挨拶しろと、馬車で言われたんだった。

 不味い不味い不味い、頭が真っ白だ。

 どうすれば良い? なんて言えば良い?

 むしろさっきのイーサンの挨拶が完璧すぎた為、下手な事を言えば場をシラけさせてしまう。

 もはや心の中で悲鳴を上げる勢いで、ダラダラと冷や汗を流していれば。


「おっと、コレは失礼。私とした事が。皆様先程から話をお聞きいただいてご存知かと思いますが、このクランは少々特殊です。騎士団、つまり国に関わっている集団。教会、それこそ国を飛び越えても繋がりがある組織。そして冒険者。自由を愛し、誰もが頼る事の出来る存在。そんな様々な者達が集まっています。その為、どこから狙われるか分かったものではない……と言う事で、皆様。どうかクランリーダーの挨拶は、“一言”で御勘弁下さい。あまり多くを語って、お見合いの申し込みが止まらなくなっては困りますからな」


 冗談にも聞える様な言葉をイーサンが溢せば、会場にドッと笑い声に包まれた。

 え、凄い。

 コレだけ空気を作って、場を盛り上げて。

 尚且つ俺が本当に一言挨拶するだけで済む様にしてくれた。

 最もらしい理由を付けた上で、更には。


「と言う事でリーダー、本当に一言で構いませんよ。あまり多くを語って、貴方の魅力を周りに知られては不味い。私だってまだ結婚していないのに、リーダーがハーレムでも拵えようモノなら、脱退者が続出しかねない」


 未だ冗談みたいに言いながら、場を盛り上げているイーサン。

 その隣に、震える足のまま踏み出し、マイクを渡されてから。


「落ち着け、ドモるな。偉そうな言葉を選べ、ダージュ。本当に一言で良い」


 小さく、そんなアドバイスをしてくれるのであった。

 多分そのまま口を開けば、「あ、あの……」とか「えぇっと……」みたいな声が漏れていた事だろう。

 でも、その声によって少しだけ落ち着けた。

 たった一言、偉そうに言い放てば良い。

 だったら……。


「俺は、ダージュという。今後とも、よろしく頼む。何かあったら、言ってくれ。必ず守る」


 それだけ言って、マイクを下ろした。

 すると、一瞬だけ会場には静寂が訪れたが。

 やがて会場からは小さな拍手が響き、それは徐々に大きなモノへと変わっていった。


「一言で良いと、そう言った筈だが?」


「す、すまない……緊張で、頭が真っ白だ」


「ま、良いさ。貴族のマナーは教えた通りだ、礼をして、共に下がるぞ」


「りょ、了解した……」


 と言う事で、俺はイーサンと共にステージ中央から身を引くのであった。

 うあぁぁぁ! 滅茶苦茶緊張したぁぁぁ!

 たった、ほんのちょっと挨拶しただけなのに。

 全身汗でびっしょりだよ。

 そんな事を思いながらも、皆の元へと戻ってみれば。


「お疲れ様でした、ダージュさん。恰好良かったですよ」


「あ、あはは……ありがとう、ございます。リーシェさん。お世辞でも、嬉しいです」


 もはや脱力しそうな勢いのまま、同行してくれた皆に迎え入れられたのであった。

 あぁもう、本当に。

 二度とやりたくない、こんな事。

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次の更新予定

2024年12月27日 18:00
2024年12月31日 18:00

ぼっちの冒険者は、パーティが組みたい。 くろぬか @kuronuka

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