第94話 変化する日常


 細々とした事を決めている内に、どんどんと時間は過ぎて行った。

 騎士団の所へ行って予定を詰めたり、ギルドへその報告をして、日程を調整したり。

 勉強会的な意味合いの案件を、教会の二人にお願いしたりと色々だ。

 新しくリーシェさんもクランに加わり、その為ギルドと騎士団、そして教会というよく分からない合同組織が出来上がってしまった。

 今の所予定を詰める事ばかりしているので、ランブルからはいつ仕事が来るのかとクレームを受けてしまったが……もう少し、待ってくれ。

 と言う事で、組織として未だ機能していない状態。

 代表格とも言える面々で、会議や書類のやり取りばかりしているという訳だ。

 そんな俺に起こった、確かな変化が一つ。

 それは。


「あ、おかえりなさい、ダージュさん。任されていた書類、完成していますよ。それからご飯も。今日は騎士団の宿舎へ行っていたんですよね? そっちの報告書もお預かりしますね」


 我が家に、物凄く普通にリーシェさんが居る。

 いや、うん。

 クランの仕事をする時はウチで、と頼んだのは俺なんだが。

 未だに、慣れない。

 そしてリーシェさんが意外にも家事をこなしてくれる為。


「ミーシャ……」


「はっ! 寝てません! 寝てませんよ!?」


 ソファーから、妹が飛び起きた。

 自分以外にやってくれる人が居ると、やはり怠け癖が出てしまうらしい。

 これはこれで、非常に問題な気がするのだが……。


「まぁまぁ、ミーシャさんも卒業間近で忙しいみたいですし。少しくらいゆっくりさせてあげても良いじゃありませんか」


「しかし、リーシェさんに余計な負担が……」


「私は別に苦ではありませんよ? お二人の生活の中に入れた気がして、嬉しいです」


「いや、でも……」


「ほら、それよりも報告書。あと、早く鎧を脱いで来て下さい。夕飯にしてしまいましょう」


 何かもう完全に馴染みましたって感じで、リーシェさんが我が家に適応なされていた。

 いや、凄いなホント。

 俺だったら、他所の家にお邪魔してこんなに動く事は出来ないだろう。

 女性って、やっぱり強いんだな。


「夕食が終わったら……家まで送ります」


「え、あぁ~はい。お願いします、と言いたい所なんですけど……騎士団からの報告次第では、もう少し進めておきたいかなぁ……と」


「いや、しかし……」


「客間は空いているんですし、もう泊まって行っちゃえば良いじゃないですか。何か悩む所があっても、兄さんが居れば相談出来る訳ですし。それにクランの予定は早めに組んでおかないと、他の人にも迷惑が掛かってしまいます。あと私も楽が出来ます」


「ミーシャ……」


 これまたとんでもない事を言いだした妹に対して、思い切り溜息を溢してしまった。

 そんな事、気軽に出来る訳が無いだろうに。

 幼い子供達が遊び感覚で寝泊まりする訳じゃないんだ、ならこんな提案受け入れられる訳が――


「それ良いですね! 出来れば私も、その方が助かります。今後もこう言う事があるかもしれませんし、私の荷物を少しだけこの家に置いておいても良いですか? そしたら心置きなく残業出来ます!」


「今日は制服に“清浄魔法”を掛けましょうか。寝間着は……少々小さいかも知れませんが、私の物を使ってください」


「ありがとうございます! ミーシャさん!」


 嬉しそうな顔をしながら、普通にお泊りが決定してしまうのであった。

 良いのか? コレ。


 ※※※


 そんな日常を送っていた訳だが、時間とはすぐに過ぎてしまうモノで。


「あぁ……緊張で、吐きそうだ」


「ダ、ダージュさーん? 頑張って下さーい?」


 現在、騎士団の馬車に乗って運送されている俺達。

 向かう先は、王宮。

 パーティーの日が、もう来てしまったのだ。

 嫌だ、逃げたい。

 などと思っている俺の背中をさすっているのは、随分と綺麗なドレスに身を包んだリーシェさん。

 そして反対側には、ため息を溢すシスターの姿も。


「ダージュ、せっかく良い服を仕立てて貰ったのですから……もう少し胸を張りなさい。その方が恰好も付きますよ?」


 こちらもまた、ドレス姿。

 とは言え聖職だからなのか、白を基調にした様で……なんかちょっとウエディングドレスみたいに見えてしまう。

 形は修道服を意識している様だが。

 凄いなぁ、目立ちそう。


「まぁまぁ、やはり慣れていない場所に赴くのは緊張するものですから。しかし冒険者さん、このままでは相手に対しても失礼になってしまうかもしれません。と言う事で、こちらをどうぞ。胃薬を煎じたお茶です。少々苦いかも知れませんが、胃の痛みと緊張は解せるかと思います」


 そう言って水筒を差し出して来る神父様は、何か真っ黒。

 とは言え所どころ刺繍や、袖や襟などは金色で縁取られているので非常に恰好良い。

 初老とも言える年齢だったのが信じられない程、非常に堂々としている御様子だ。


「大丈夫ですか……? まぁ確かに、こういう所に慣れていないと胃が痛くなりますよね。私もそれなりに参加しているのですが……今回は参加する立場と目的が違うので、なんというか……落ち着かないです」


 モジモジしながらも、これまた綺麗なドレスに身を包む女性騎士のダリアナさん。

 そしてその隣では、鉄の胃袋でも持っていそうな様子の、とてもとても落ち着いたイーサンが足を組んで座っていた。


「完璧にこなせ、とは言わんが……まぁ何だ、必要最低限をこなせば文句は言われないさ。まずは陛下に謁見、褒美という名の報酬を受け取る。その後はパーティー会場で紹介してもらえるから、適当に挨拶しろ。その後は飯でも酒でも楽しめば良い」


「適当に、挨拶……」


「長々とした挨拶は俺がやってやる。しかし一言くらいは発言しろ、いいな?」


「頼んだ……イーサン。俺の方も……頑張る」


「手の掛かるクランリーダーも居たものだな」


 いつも以上にビシッと決めているイーサンは、ヤレヤレと首を振りながらその後も注意事項を教えてくれるのであった。

 あぁもう、本当に。

 こういう席、俺が参加するような場所じゃないよ……。


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