蹂惨日乃金曜日

※タイトルの読みは「じゅうさんにちのきんようび」

苦月蹂惨日　金曜日

つまりは9月13日の金曜日。

これだけで何が起こるかくらいわかるだろう？

赤井丹は目覚めなかった。

完　

「寝坊して大学の単位がピンチになったらきっと大谷翔平がなんとかしてくれるよ」

少し明るめの髪を一つに纏めた姿からは活発そうな印象、顔立ちは可愛さと綺麗さを併せ持ち、少女から大人に移り変わりつつある雰囲気を讃えている。部屋着から掃除までお世話になっている赤ジャージなのが少し、ちょっと、わりと勿体無い

「大谷はもう田中さんと結婚してる。そもそもこんな場末の小説にメジャーリーガーの大谷が出るかどうかくらい、萌葱ならよーくわかると思うんだけど？」

部屋の中に座るのは赤井丹、こちらは対照的な明るいショートヘアー、やや可愛さが強め。目を引くのは赤パーカー。同じ赤なのにこちらの方が彩度が高い

「田中真美子を田中さんと呼ぶとなんか新鮮…ってかメタ発言がやばいからそれくらいにしなってば！！

ー本日は全店舗臨時休業いたします。fromイオソショッピングモール

「むしろ私たちは助かったんだよ、こんな日に開いてるショッピングモールなんかホッケーマスクを被った巨漢がワンオペしてて、どっちか殺されてるうちにもう一人が脱出を試みたり最後はソイツををモールごと爆破して背中向けて立ち去ってポップコーン無断撮影用のスマホがスクリーンに投げつけられ」

「大して慰めにならない、せっかくのいいアイスなんだから、集中して食べないの？」

丹が口にしているのは、赤井ハウス突撃前に萌葱が丹の故郷から取り寄せておいた「染兎屋（そめうさぎや）」のトーフアイスであった。

だが、萌葱はよく知っている。彼女は料理番組の食べる役などではないので、いいご飯や美味しいお菓子を与えても長々と講釈などたれない、言動だっていつも通り。

だけどそのスプーンの動きが止まらなくなっているのはその心を捉えた証であることを。

キリストが金曜日に磔刑に処せられたとされていることから、「13日の金曜日」はキリストが来週復活するのを差し引いてもなお不吉であるとされるイヴによるアダムの誘惑も、週末の「13日の金曜日」だった。

だがキリストは日曜日に復活し、13日が土日だったらアダムとイヴはいまだに人類を巻き込んで倦怠期であっただろう。

13日の金曜日。それはあらゆる不条理、不幸、自業自得、身に覚えのあるクレジットカード限度額突破、それら全てを「不吉な日だから起こった」として終わらせる日。こうすることにより、幸せな日だったら間違いなく目を背けていた現状を受け入れることができる、なんと不吉な日だからこそ迅速に自分の行動を反省でき、自分の失敗を認めた上に反省までするという行為を自己啓発本やYouTuberに頼らず成し遂げた自分は素晴らしいという気分になり、14日の土曜日には見事復活できる気分になれるのです。

13日の金曜日は、変わろうとしている。

それはまるで、あなたの人生のように。