カクヨムが短くても気楽でもいいと言うから、本当に短くて気楽に書いてたら、変なものになってしまった…

松本恵呼

母と暮らせば 息子編

 土曜日の夜、息子がゲームをしていると、母が帰って来る。


息子 「これはこれは、随分とお早いお帰りで。今夜はてっきりお泊りかと」

母  「うん、それがね。彼、急用が出来たって」

息子 「へえ、ドタキャンされたんだ」

母   「まあ、そうなんだけど…」

息子 「はぁ。それで、どんな急用」

母  「うーん、実家の方で何かあったらしく…。だから、心配してんのよ」

息子 「じゃ、電話してみれば」

母  「でも、大変な時に電話するのも…」

息子 「いくら大変でも、電話くらい出れると思うけどさ。逆にかかって来てもいい

   筈じゃ」

母  「それもそうね」


 母は電話をかけるが応答なし。


息子 「ほら、やっぱり振られたんだ」

母  「そんなんじゃないわよ!きっと電話どころじゃないようなことがあったのよ」

息子 「はっ、男でも女でも、スマホの電源切るのは、一つだけだよ。例え、親が亡

   くなったとしても、電源切るか。どっちにしても、男が電源切るって言うのは

   さあ。好きな女との時間を邪魔されたくない時だったことくらい。いい歳し

   て、わかんねえかなあ」

母  「もしかして、充電切れってこともあるじゃない」

息子 「はいはい、そうですかい。それならそれでいいとしやしょ。女と会うのにス

   マホ充電切れで行きますかねぇ」

母  「そう言う、ツトムの方こそ、何よ。まあ、土曜の夜だって言うのに、一人で

   ゲームとは」

息子 「あれ、言ってなかったっけ。彼女は今日から、友達と旅行だよ。だから、今

   夜は思いっきりゲームやんの」

母  「はっ、どんな友達と行ったのやら」

息子 「さっき、動画送られて来たけど、見る。ほら、女の友達と一緒だよ」

母  「はあぁ。その近くに男がいたりして。それとも、去年の動画だったり」

息子 「はっああぁ。呆れた。いくら、自分が振られたからって、息子迄引き込みま

   すかねえ」

母  「私は振られてなんかないわよ!!」

息子 「あ、そっ。自分は振られたんじゃなくて。バカな息子は、友達と示し合わせ

   て浮気旅行するような女に騙されてるとか」

母  「だって、今の若いは怖いわよ。何考えてんだか、わかったもんじゃ

   ない」

息子 「そう言う、おっかさんの彼氏も、若いんじゃなかったっけ」

母  「男と女は違うわよ!」

息子 「へえ、どう、違うの」

母  「どうって。男と女は違うでしょ。先ずは体の構造からして」

息子 「それで」

母  「それでって。それだけ違えば十分じゃない」

息子 「じゃ、女同士なら、わかり合えるんじゃ」

母  「それは、時代も違うし。特に、今時の若い女って陰で何やってんだか、わか

   ったもんじゃない」

息子 「そんな話、30年前にも聞いたな」

母  「えっ、何言ってんの。ツトム。まだ30年も生きてないじゃないの。それに

   30年前って言えば、まだ、影も形も…。あら、私だって、結婚してなかった

   わよ。もう、変なこと言わないでっ」

息子 「まっ、これが、前世の記憶ってやつで」

母  「まあ、この子ったら。何を言い出すのかと思ったら」

息子 「ふふふふふっ」

母  「何よ、その妙な笑い」

息子 「いえね、おっかさんもそう言うこと、言う歳になったんだと思うと、ちょっ

   と…。古代エジプトの壁画にも書いてあるそうだよ。今時の若い者はって。そ

   んな大昔からオジサンオバサンたちは、若い者に文句を言って来たんだとさ」

母  「それが何よ。そりゃ、言いたくもなるわよ。好き勝手やって、わが物顔で

   街歩いてんだから」

息子 「そりゃ、お互い様じゃないすか。別に、おっかさんが往来歩くのに、誰かに

   遠慮して歩いているとは思いやせんけど」

母  「だって、若い時はみんなそうじゃない。自分達こそ、正義みたいな顔してキ

   ャッキャッ言いながら歩いてるじゃない」

息子 「そんなのは学生時代まで。社会人になればそんなこたないでしょうに」

母  「いいえ、特に今時の若い女なんて、厚かましったらありゃしない」

息子 「へえ。女は同性に厳しいって本当だったんだ」

母  「そう。私は女が嫌い」

息子 「自分も女なのに」

母  「だから、嫌いなのよ。私、男の人と話してる方が気楽だもの」 

息子 「じゃ、世の中から、自分以外の女がいなくなればいいとでも思ってる訳」

母  「そこまでは思ってないけど、まあ、あまり深くかかわりたくはないわね。特

   に、これからの人生において」

息子 「男でも女でも、悪い奴はいるし、騙す奴はどっちも騙すと思うけどさ」

母  「何よ。今夜のツトム、随分と絡んでくるじゃない。ひょっとして、いや、本

   当に浮気旅行じゃないかと、今頃、気になって来たんじゃないのぉ?」

息子 「今日ファミレスで面白い話聞いたんだけどさぁ。隣の席のオバサンたちが大

   きな声で話してさあ。昔、レディースの頭やってた女が、そこそこ金持ってて

   真面目な男に目を付け、あの手この手で、その真面目男をたぶらかして結婚

   し、結婚後もバレない程度に遊んでいたとか。そんでもって、夫が死ぬとその

   遺産で若いホストにハマってるとか」

母  「それが何よ。そんな話、よくある話じゃない」

息子 「へえ、つまるところ今も昔もやってる女はやってるってことですかい。おっ

   かさんよ」

母  「ちょっと、何それ!それが私だとでも言いたいの!本当にぃ。お前って子は。

   それが親に向かって言う言葉!」

息子 「おやおや、何をそうムキになっていなさるんで。誰もそんなこと言ってやし

   やせんよ。ちょいと、ファミレスで小耳にはさんだ話をした迄のこと。へっ、

   ひょっとして、心当たり♪ありそでなさそでウッフン、ほらほら~」

母  「もぉ、ある訳ないでしょ!でも待って、その歌、聞いたことある。うーん、何

   て歌だったかしら。ほら、あの、何とかの、何とか…」

息子 「♪黄色いサクランボ~」

母  「ああっ、それそれっ。その、黄色いサクランボ。でも、その歌って、確か私

   が生まれるより、ずっと前の歌…。そんな古い歌、ツトム、よく知ってたわ

   ね」

息子 「古い歌、好きなんで」

母  「そう…。ああ、もう、何か、疲れたぁ…」

息子 「じゃ、そろそろお休みになったらどうなんです。夜更かしは肌に悪いんじゃ

   なかったっけ」

母  「一々、うるさいわねえ」

息子 「うるせえのは、親譲りで」

母  「うるさいっ」

息子 「ほらねっ」

母  「もう、寝るどころか、目が冴えちゃったじゃないの」

息子 「じゃ、先ずはシャワーでも浴びて来なさったら」

母  「それもそうね。その後でビール飲もっと…。何さ。恋愛と結婚は別よ。恋愛

   は楽しめる男として、結婚は真面目な男と。それが賢明な女ってもんよ。そう

   でしょ」 

息子 「何か言った?」

母  「ううん、こっちの話。まっ、まだ先の事だけど、ツトムにいいお嫁さんが来

   ますようにって。どう、この親心」

息子 「親心をひけらかすのが、こっちの話?」

母  「何か言った」

息子 「いえいえ、こちらの話で、それよりシャワーを」

母  「♪そうね、それもそうだわねえぇ」


 と、即興で歌いながら母は浴室へ。


息子 「♪渋くて苦そうワン。ベタベタしてるよツー、勝手に落ちたよスリー、ウー

   ン、熟したサクランボ~」


 歌いながら、息子は部屋を出ていく。シャワーの音。


母  「ぎぃやああああ」


 バスタオル姿の母が与太りながら浴室から出て来る。


母  「ふあぁぁぁぁ。寄りによってシャワー中に地震だなんて。あ、ツトム。ツト

   ム。えっ、どこ行ったの。ツトムぅ!!」

息子 「呼んだぁ」

母  「ああ、ツトム。どこ行ってたの。こんなにも若くて美しい母が地震で大変な

   思いをしてると言うのに。えっ、ひょっとして、一人で逃げ出したぁ。まあ、

   そんなあ」

息子 「何言ってんだよ。誰があれくらいの地震で逃げ出したりするもんか。またも

   例の地震の後の錯乱っていうやつですかい」

母  「だって、私、地震嫌いだもの」

息子 「はっ、世の中に地震が好きな者がいますかね。誰だって地震は嫌い。何たっ 

   て、ふいに地面が揺れるんだから。こんな怖いことはないさ。地震雷火事台

   風」

母  「火事親父でしょ」

息子 「この親父と言うのは、大山嵐と書いて(おおやまじ)と読む台風の事だよ。ま

   あ、大昔の親父は怖かった説、また、昔の役人も怖かった。そんな役人を親

   父と呼んでいた説があるけど、今は台風の方がぴったり来るよ」

母  「そんなことより、地震だって言うのにツトムはどこへ行ってたの。大の地震

   嫌いの、この私と言うこんなにも若くて美しく、か弱き母を置き去りにして」

息子 「はっ、どこがか弱き母だよ。親父が死んで二月ふたつきも経たないうちに若い男とよ

   ろしくやってさ。そんな母親のどこがか弱いもんかい。聞いて呆れて、奥歯、

   外れるわ」

母  「そりゃ、お父さんに死なれて寂しくて…つい。そんなことより、地震だって

   言うに、ツトムはどこ行ってたの」

息子 「どこもここもそこの熱帯魚見に行ってた」

母  「親より熱帯魚の方が心配なの」

息子 「あれくらいの、震度2くらいの地震で大げさな」

母  「とにかく私は地震が嫌いなの!!」

息子 「もう、治まったよ」

母  「でも、また、揺れるかもしれないじゃない」

息子 「もう、大丈夫だよ」

母  「何でわかるの」

息子 「余震があるとしたらもう来てるよ」

母  「変なこと言わないで。、寒気がして来たじゃない」

息子 「それは服、着てないから。それとも、もう一度シャワー浴びて来るとか」

母  「その時に、また、地震が来たら」

息子 「じゃ、今すぐ服着るしかない」


 母は再びシャワー室へ。息子も部屋を出ていく。


母  「ああ、やっと落ち着いた。ツトム、あらまた、どこへ行ったの。一緒にビー

   ル飲もうと思ってたのに…」


 写真立てを手に取る。


母  「ああ、そうだった…。ツトムはもういないんだった。つい、そのことを忘れ

   てしまって、こんなにかわいかったのに、ツトム。私を一人ぼっちにして…。

   ツトムぅ」


 その時、再度地震。


母  ぎゃああああ


 母はソファに倒れ込む。

 息子が部屋に入って来る。


息子 「また、地震かぁ。おっかさんがいたら、ぎゃあぎゃあ騒いだだろうに。静か

   だなあ…」 


 













































 
































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カクヨムが短くても気楽でもいいと言うから、本当に短くて気楽に書いてたら、変なものになってしまった… 松本恵呼 @kosmos

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