海ラムネ

 ラムネ瓶には、海が閉じ込められていた。

 大学の友人と遊びに行った海で、屋台が出ていた。看板には焼きそばやたこ焼きと並んで「海ラムネ」という文字が記されていた。

 ただのラムネではなく、「海」という言葉が付いている。そこが、僕は気になった。

 他の友人たちが海水をかけあっているのを尻目に、僕は屋台へと近付いた。

 屋台の主人は、僕と同じ年くらいの女性だった。海ラムネを一つ下さいと言うと、なぜかニヤリとされた。

 渡されたラムネ瓶を見て、僕は思わずアッと言葉を漏らしていた。

 ラムネ瓶の中を、小さな鯨やイルカ、魚たちが泳いでいたからだ。瓶の底には綺麗なサンゴ礁すら広がっている。

「ラムネ瓶を海の底で冷やすと、海の一部が紛れ込むんです。浸透圧ってやつですよ」

 女性の説明を聞きながら、ラムネを開けるのが勿体なくて、僕はただ眺め続けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

マイクロファンタジー @alice_kurama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ