第4話 山への道とついてから


 大通りに出てすぐ向かい始めたが、朝も早いというのにかなりの数馬車のようなものが行き来している。二足歩行のトカゲのような生き物が馬代わりだったり、牛よりも大きい4足歩行の動物が力強く荷車を引いていく。

 邪魔をしないように道の端を進んでいくと門の外側に既に出ているロッカさんが見えたので、小走りで近づいていく。出る時に門番が持って歩いている水晶に石を近づけ、出る手続きをしてロッカさんの所へ。

「来たか。今日は頼む」

 そう告げたロッカさんの背中には大きな籠。体をよじ登って入ってくれと言われて入ってみる。中には緩衝材代わりなのか何かしら詰められたクッションのようなもの敷いてある。籠の淵から1メートル半ほど高さが有るので出入りどうすのかと思ったら、内部に足をかける紐を編んで作った足場があるようなのでそれを伝い籠へIN。クッションを足場に淵から顔を出してみる。特に注目されているわけではなさそうなので助かる。

「じゃあ少し、壁沿い走ってみるぞ」

「はい、やって見ましょう」

 すぐに走り出すロッカさん。自転車よりはスピード出てそうだ。後ろ向きで籠から頭を出しつつ、見える足跡を戻るように念じてみると巻き戻るかのように土が盛り上がり足跡をふさいだ。

「戻れって操作したからかちゃんと固められてた道の状態へ戻ったみたいです」

「素晴らしい、問題はなさそうだな」

 そう言うとロッカさんは一度籠から出るように言い、改めて何かしらが入っている袋のようなものを肩に背負いなおし、籠の中にも小さな包みをそっと入れてから背負った。

「この袋は同族への土産、包みは智幸のお昼だ。急な話だったし、弁当用意なんてできなかっただろう」

 気遣いがありがたかった。すっかり忘れていた。朝ごはんの時に頼めば残ってたらパンとかは貰えるんだろうか。帰ったら聞いてみよう。

「では行くぞ。何かあったら大声出してくれ」

 再び籠へ入り顔を縁から出して縁へ捕まる。籠の中だから見られないと思って貰ったお弁当は収納腕輪へ。準備が出来たのでロッカさんに声をかけ出発する。

 山へと駆け出すロッカさん。乗ったことはないけど原付くらいの速度は出ていそうだ。景色を楽しむ余裕はなく、足跡を見ながら元に戻ってと土操作を発動する。街から山まではお日様の位置からすると北へ向かって一直線に道があり、道を作る時脇の木々もいくつか撤去したのか、森の方よりは日差しが入り込んでくる感じだった。


 昨日移動した感じだと直線で5㎞くらいはありそうかなと思っていた。ロッカさんが早いのでもうかなり進んでいるだろう。あと半分くらいで山に着くかなって辺りで黒い何かが森の木々より高く飛んでこっちへ向かってるのが茂った枝葉の隙間から見えた。同時に、土操作を繰り返していたおかげか、いやな感じがその方向からする。

「ロッカさん!黒い恐らく魔物が空から追ってきてます!どうしましょう」

「止まって対処したいが、ロッカは石を飛ばすくらいしか飛んでる奴に届く攻撃が無い。智幸何とか出来るか?」

「やって見ましょう」

 勢いを手をついて殺しながらロッカさんが止まる。えぐれた道を戻しつつ籠から急いで出てざっと見渡す。道の脇に石がいくつか見えたので拾って置く。

当たれ!と念じながら石を投げて飛んできた魔物にぶつける。少しずれて飛んでいた石は魔物の下を通り過ぎるかと思ったらそこから急上昇して魔物へとぶつかった。

ずっと自分で操作しなくても思った通りに動くなんて便利だな、と石操作について再確認していると石が当たった所がごっそりとえぐれたようになった魔物がそのまま体の中心へ凝縮されたようにぐるぐると渦を巻いて集まり。最後には石となって空から落ちた。見える所に落ちたので拾いに行く。黒い宝石のような光が透き通る半透明の塊だった

「無事倒せたみたいで良かったです。山神さまのお力も凄いや」

 改めて心の中で感謝をささげておく。

「魔石出たか。街へ戻ったら買取してくれる所に持って行くといい。どんな小さい魔石でも需要はあるから」


 辺りを見回すけど、土操作で感じた嫌な感じも無くなってるし他の魔物はいないようだ。また籠に入りロッカさんに背負って貰って移動する。山の麓へ着くと道の先が広場のようになっており、町中で見かけたような馬車や荷車が大小さまざま、引いている動物とかも様々な種類がまとまっている場所があった。街の方から地響きが聞こえて来たのにビビったのかいくつかの荷引き獣は少し落ち着かなさそうだ。側には護衛役と思われる人達が何人かいたが音の原因がロッカさんだとわかると安心して他の警戒に戻って行ったみたい。


「ロッカ!道を通ると壊しちまうから山に来れないって言ってたのに今日はいいのか?!」

 護衛の一人であろう身長だけならロッカさんに負けなさそうな、僕よりも何倍も筋肉がついてそうな赤髪の女の人が親しげにロッカさんに話しかける。癖っ毛なのか全体的に緩いウェーブがかっている髪を一括りにしてまとめている。顔が縦長だったらパイナップルみたいって思っちゃったかも。手に持っているのは金属製の長い棒だろうか。先が尖っているし刺したり殴ったりする槍みたいなもんかな?

「昨日の夜来た新たな助っ人が道、直してくれる」

「そりゃよかったなぁ!魔物が山に増えてるってんで山に住んでる同族たちの事をめっちゃくちゃ心配してたもんな。まあでもこの山の岩石人で一番の戦士は樹海山街の責任者の元へ行き護衛するって代々のお役目だったんだろう?助っ人が来なくても近いうちに葉子ちゃんなら山に来るのを許可してくれてただろうがな。っと無駄話より一刻も早く同族の所へ行きたいよな」

 邪魔して悪かったな!どこまでも明るく親しげな感じでロッカさんと話していた女性はそのまま警備へと戻って行った。籠の中に居た僕には気付かなかったようだ。一応顔は出していたんだけどこちらを見ることもなかったので声をかけられなかった。

「帰る時にでも改めて挨拶、すると言い」

「豪快そうな人でしたね。あんな重そうな武器使えるならかなりの手練れの戦士の方ですか?」

「岩砕きのシトリーと言う。ロッカでも本気で戦えば無事で済まないだろう」

 負ける気はないが、なんて言ってるしもしかしたら好敵手な感じの仲?いやでもそれにしては向こうはただひたすらに親しげだったな。

「シトリーデカくて強い。普段は山の熊も一人で倒してくる。人の街じゃ鍛錬に付き合える奴、あまりいない。だから、たまにロッカと手合わせしてる」

ロッカは頑丈だし、土魔法が使える石山様に身体は直してもらえるしな。

話ながらもロッカさんは歩いていく。正面にある山の登り口から少し迂回して進んでから切り立った崖の前に着くと、籠にしっかり捕まってろ。ここを登る。と言い、返事をする前にロッカさんの手が崖の岩へと溶け込むように入る。昨日初めて会った時に石の壁を通り抜けていたけど、どうやら石とか岩みたいなものに身体を溶け込ませられるようで、特に問題もないようにすいすいと手と足を動かすとぐんぐんがけを登っていく。籠から景色を見ているとエレベーターにでも乗っている感じだ。ただ、速いし高いし普通に怖い。何かの拍子に籠の紐とか切れたら絶対助かりそうにないな。さっき拾った石を操作すれば何とかなるかな。ジャージのポケットにしまっていたいくつかの小石に無意識に手が伸びて軽く握る。


 事故が起きることなく、あっという間に崖を登り切ってしまった。石とか岩操作ができるなら似たようなことできるはず、と教えてもらった。

崖を登って目の前にはいくらかの細木が生えているが後はごつごつとした岩が転がっている岩場だった。そのまま歩き辛そうな岩場も溶け込むように、岩の湖を泳ぐようにするすると進むロッカさん。ちょっと大きい岩は籠が引っ掛からないように上方向へ進んでから前に行ってくれてるようで、籠が稀に岩に底をこすられることはあっても急に跳ね上がったりはしない。すいすいと進むけどこの道を普通の人が通ろうとしたらどれくらい時間かかるかな。崖のぼりだけで一日終わりそう。その後はごつごつした岩場を超えることになるから進みづらいだろうな。

「見えてきた。あの崖にあるひび割れが見えるか?」

 と、すまん、後ろからじゃ見えないよな。とくるりと180度回ってくれる。そこにあったのは来る時昇ってきた崖よりは高くない崖の真ん中にびしっと縦長に入った深そうな亀裂だ。上の方から下に向かうにつれて、亀裂の深さと幅が広がっている様に見える。高さは元の世界でさんざん見た高校の時計の辺りだから建物の4階分くらいの高さかな。


「あの亀裂の下に魔力が溜まり岩に沁み込んでこの山の岩石人となった。生まれた時に他の岩を崩しながら外へ出てきた場所だ。中は結構広い」

 生まれたてでまだ他の岩とかに同化出来ない状況だったし、自分の身体と言うものを確かめるためにも最初の岩石人達は一度周りの岩を吹き飛ばしたんだという。その時崩れた岩がさっきまで通ってきた岩だらけの道なんだとか。

となると亀裂から入ればある程度スペースが空いてて岩石人達の村みたいなのがあるんだろうか。

亀裂の前まで行くと声をかけてもいないのに中から染み出るように岩をすり抜けたりしながら岩石人達が姿を現した。顎に苔が生えて髭みたいになっている岩石人が前に出ると

「ロッカ。一族の誇り。強き戦士よよく戻ってきた。今日はどうしたんだ?山に増えてる黒い奴らの事についてか?あれは危ない。われらに取り付かれるとうまく引きはがせないうちに魔力を吸われる。特に若い個体は岩に潜り込めないから一度取り付かれると一人ではどうにもできない」

 岩石人達は今回増えてる魔物とは相性が悪そうだな。それでもスライムから獣の姿とかになっているとそこからスライムに戻ることはないらしく。急に突っ込んできてスライム状に戻って体にまとわりつかれる、なんてことは無いので、スライムだけには近寄らせないようにしているらしい。獣や鳥みたいな奴の場合何とか対処できてるとのことだ。

「みんな危ない思って、街から色々持ってきた。この山は魔力も濃いし、普通に動くと言われた」

そう言って肩に担いでいた袋から香炉のようなものを取り出した。

「蓋、開けておくと魔力を吸って、魔物除けの効果が出る。集落にでも置いとくといい。効果が弱いと思ったら魔力を追加で注ぐか魔石を放り込んでもいい

「ありがたい。だが我らも戦士だ。ただ引きこもってばかりはいられない」

こけ髭の岩石人は危ない相手でも戦いに行くと主張している。

「もう一つある。火の魔石を使うがこの棒の先から炎が出る道具だ。我らに生半可な炎は効かない。そこまで熱い炎は出ないからまとわりつかれたらこれを使えばいい」

「流石ロッカ。それなら若い戦士も戦いに行ける」

「ただし、山火事には注意だそんな事態引き起こしたら街の人間みんなから嫌われる」

「それは困る。人間達が掘り出しているこの山以外の鉱石や岩塩が味わえなくなるのは嫌だ」

 岩の身体でも味を感じるんだ。どういう食事風景なのだろうか。口は空いてないし。同化する時みたいに岩がスーッと体内に入っていくのかな。

「ところでロッカ、その小柄な人は誰だ?石山様の婿か?」

「違いますよ。初めまして岩石族の皆さん。僕は昨日の夜からこちらの世界へ魔物退治に来た助っ人で智幸と言います。飛んでる魔物一体倒しただけの素人ですが、お借りしている山神さまの力は凄いので、魔物退治、がんばらせてもらいます」

「智幸が道直してくれたから、遠慮せず土の道を走って来れた」

「それはそれは。ロッカが世話になった。おかげでワシらも道具を貰えて魔物への対処がしやすくなりそうだ」

 まだこのこけ髭の方は話したそうだったが、ここまで来たついでに少し魔物退治しに行こうとロッカさんに急かされる。仕送りのためになるから僕としても退治に行くのは歓迎だ。一人で相手にするより気持ちも楽だろうし。

 ならばと、岩石族の方々も退治に行こうとロッカさんに同行を申し出る。

「大体いそうな場所は目星がついてる。智幸の戦闘訓練する。だから共に戦うのはまた今度。お土産の袋に岩塩入ってるみんなで食べてくれ」

そう言うとロッカさんは正面の崖の亀裂の脇の岩肌に手を突っ込みさっきみたいにするすると昇って行ってしまった。これは・・・さっき言われたことをやって見ろって事だな。

「じゃあ僕もこれで失礼します」

同じ場所へ近寄り、そっと岩肌を掴むと昇れと念じてみると、掴んだ岩がそのまま上へと滑り出す。まいったな、足の方にもとっかかりか何か作っておくべきだった。

片手紐無し逆バンジージャンプ状態で崖の上へ。縁へと着いたところで足場になれと岩操作をする。丁度いい位置の岩肌がせり出し僕が乗っても大丈夫な足場になってくれた。よじ登って事なきを得る。


「ロッカさん、どこへ向かうんですか」

「もう少し登った先にある、温泉地帯だ。大昔お山は火を噴いて辺り一帯燃やし尽くしてた時期もあったらしい。その後幾つか温泉が噴き出る場所が出来たようだ。」

 火山と樹海か。富士山を思い出す。行った事はないけど。うろ覚えな漫画知識だと富士の樹海じゃ方位磁石とか効かないって聞いたけど、まあ、こんな森の中に一人で突っ込む事もないし、関係ないかな。もし迷い込んでも石とか岩を掴んで木々の上に跳べれば道が見えるだろうしな。第一僕の持ち物に方位磁石なんてないだろうし。

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異世界から仕送りって届けられますか? 仮説宿屋 @tyokuju03

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