第3話 異世界人は多種多様

部屋の中へは入らずに推定、エルフの少女と思われる子が廊下から話し始めた。

「貴方が新しい助っ人か。私は石山葉子。この樹海山資源採取・集積拠点、通称樹海山街の責任者だ。最近山どころか向かう途中の森でも黒い何かに襲われたという報告が増えていてな。助けはとてもありがたい」

「・・・え、あっはい。僕は山宿智幸です。が、がんばります」

 漫画とかのエルフの見た目から日本人のような名前が出てきてちょっと思考が固まっちゃった。肩までも伸びてないショートヘアがよく似合ってる。髪の色と同じ黒い瞳は少し鋭い目つきだけどそれも含めて美人さんだ。ベルトの両脇に剣と短い杖のようなものを吊り下げており、エルフなのだとしたらどちらも使えるんだろうなぁ。

 自己紹介が終わったら、こっちの世界で活動するための手続きだ、と言われ、小さな石を体に埋め込むか、その石を使ったアクセサリーを肌身離さずつけるか、どっちか選んでくれと言われたので、埋め込むのに痛みはないとの事だったのでGPSっぽく僕の現在地とか、町から出て、しばらく戻ってきていないとかが分かるようになる魔法の込められたらしい石を右手の甲に埋めてもらった。痛みも違和感もなく、じんわりと肉の中に石が吸い込まれるように入っていくのは不思議な光景だった。

後はこの町で暮らす上での注意をいくつか受け、泊まる場所は狭いが個室な宿舎があると教えられて解放された。


 異世界物のお約束だったら最初にあった美人な子はヒロインなんだろうけど、僕はそんなこと全く考えれなかった。そういうのは何かに襲われてる所を颯爽と助けたりした時だけだろうし、この町の責任者というなら身分も高そうだし、部屋の外から話してこちらを警戒するような感じもしていたし、そう簡単には仲良くなれなさそうだ。なにより歳は分からないけど若い女性と仲良くなる方法が分からない。基本的に近所のおばさんとか年配の女性たちはこちらを見かけると笑顔で話しかけてきてくれる。だから自然と話すようになったりしたものだが、それを自分からするのはどうなんだろう。学生時代も必要が無いと話しかけることもなかったしなぁー。イケメンか話の面白い奴じゃないじゃないと話しかけたら嫌がられそう。自己評価が低い男の考えなんてそんな感じだろう。勝手に期待して変なこと考えたりしないように出来ない理由だけ積み上げるのだ。


 宿舎のある場所まで案内するとロッカさんが僕の前をズシンズシンと重い足音を立てて先導してくれる。いくらも歩かないうちにさっき送られた石造りの部屋があった建物より一回り位大きな3階建ての木造の建物に着いた。街の中は石畳が敷かれているようで大通りらしき長い直線は道幅も広く車がすれ違う事も出来そうだった。

「ここ。ロッカはここは入れないからこれで」

「あ、はい!ありがとうございました」

 お礼を言って戻っていくのであろうロッカさんを見送ろうとしていたが顔をこちらに向けたまま動かない。

「あの、まだなにか?」

「すまない、なんと言えばいいのか悩む。智幸、明日はお山に行くか?」

「へ?ええ、魔物がいるのなら向かおうと思います。道はあるという話でしたし、日に何度か資源収集に向かう隊があるから一緒に行くといいって石山様に教えてもらいましたし」

「一緒に行ってもいいか?」

「ええ、僕が決める事ではないでしょうがロッカさんが行きたいというなら大丈夫なんじゃないですか?」

「ロッカ、歩く道がへこむ。智幸土操作使えると聞いた。凹ませた道直しながら、山へ行くの付き添って欲しい。行きと帰り。報酬は払う」

 その後ゆっくり話してくれたロッカさんによるとロッカさんは樹海山の岩から生まれたらしく、故郷なんだとか。道が出来たから歩きやすくなったが、ロッカさんが歩くと踏み固められた道でも沈んでしまったりするので、帰りづらい状況だったんだって。森の中を突っ切ろうとすると巨体が木々に引っかかるのでなぎ倒しながら進むことになりもっと酷い事になる。

「ええ、それくらいなら出来ると思います」

 土操作はゆっくりだけどロッカさんの移動も割とゆっくりだったし大丈夫だろうと思っていたら

「街から出たらロッカ、走る。疲れ知らずだからお山まですぐ着く」

それって僕も走りながらついていくって事?

そうなるとちょっとついていけないかも。それだと一緒に行くのは無理かもしれない、自分が走れるとしても学校の授業の長距離走やマラソンで走った2、3キロくらいしか走ったことないし、それも決してタイムが早かったわけでもなかったしな。

「智幸、走る苦手?ならロッカに乗っていくといい。石山様、前に乗せた時、捕まるところもあるし、乗れない事はない言われた」

 あの方なら肩辺りに座って乗れるのだろうか。う~ん。

「何なら籠、背負っていく。樹海山の資源を持ち帰るためにこの町には籠とか箱、沢山ある」

 僕がすっぽり立ったまま入れるような籠もあるらしい。それなら酔ったりもしないで済みそうかな?

「朝一番の採取隊はお日様が昇ったら出る。その少し後に出発しよう。もし、道が直せなかったらお山に居るロッカの同族たちに頼む、同族にはロッカより軽いものも多い、それで昼の隊が動く前に直してもらう」

 道が凹んだりしたままだと、馬車での資源運搬に影響が出るのでそれだけはダメらしい。まだ出会ったばかりなのに能力一つでこんなに頼られることになるとは。

「どれだけの速度で走れるのかわかりませんし、それに合わせて道を直せるかもわからないですので、明日の朝、少しやってみてから山まで行くか決めましょう」

「それがいい。お願いする。じゃあ明日山側の門の辺りで待ち合わせよう」

 話は終わったとばかりにそのままのしのしと歩いていくロッカさん。街中の石畳は彼?が歩いてもヒビ一つ入らず、ずれたりもしないものだった。資源集めてあちこちに送るんだろうから、道はしっかりと作られているんだろうな。


話が終わったのでようやく宿舎へ入る。

「遅くまでお疲れ様です、おかえりなさいませ」

 入り口入ってすぐ目の前のカウンターのに居たのは顔が猫の女性の獣人だった。

「あら、はじめましての方のようね。樹海山街へようこそ。山の魔力噴出地帯辺りに新しい魔物が来たんじゃないかって話もあったし、それの対処に来た感じかしら」

「はじめまして、智幸と言います。魔物退治しに来ました。とはいってもまだ実戦前の素人なんですが、目標のために一生懸命やらせてもらいたいです」

「はじめまして智幸さん。夜の宿舎の管理をしている黒猫人族のアンよ。ここについての説明は受けた?」

「はい、管理用の魔石、受付の水晶玉に近づければ登録になるって」

「その通りよ。似たようなのは街のあちこちにあると思うから、登録とか身分確認とかする時は同じようにやってね」

〇イナンバーカードみたいなもんかな?じゃあこの石はマイナストーンか。

「わかりました、ありがとうございます」

「基本助っ人の方々の宿舎はいつでも開いているわ。食事が欲しい時はここのスタッフ誰にでも話してちょうだい。メニューは多くないけれど基本無料よ。もっといいものが食べたいなら街中で食べてきてね。と言ってもこんな時間から小さい子が行くのはダメね」

 アンさんから見ると僕は小さい子供らしい。まあ、身長も低い方だろうし自立も出来ていないので間違いではないだろう。チビとか言われるのも慣れているし。

「お風呂は有るけど、多分ここで入らなくても外から帰って来れば街中にある大浴場へまず連れていかれると思うわ。衛生管理は大事ってあちこちの世界からの助っ人がみんな言うからね」

 お風呂に困ることはなさそうで一安心だ。元の世界だと爺ちゃんと婆ちゃんが特に忙しかったり大変な仕事や作業が終わると、次のお休みとかに送迎バスが定期的に来る近くの日帰り温泉とかに行ったものだったなぁ。観光地料金でちょっと値上がりしている飲料でも、風呂上りに飲むと格別だった。爺ちゃん達はお酒は飲むけどお風呂上りに飲むことはあまりなかったなぁ。爺ちゃんはいつもコーヒーかフルーツ牛乳。婆ちゃんは炭酸の効いたレモン系の飲料だったな。

「智幸さん、遠い目をしてどうしました?」

 はっ!?ついつい元の世界でのことを思い出してしまっていた。

「何でもないです、今日は食事は大丈夫なので後は部屋を教えてもらえればそこで休ませてもらいます」

「じゃあ、空き部屋に案内するね」

 階段を上ることなく一階の廊下を置くまで歩いていって突き当りの部屋が丁度空いているらしい。覚えやすくていい。

「明日は朝一番の採取隊に間に合うように起こしますか?」

 頼めば起こして貰えるらしい。ありがたいサービスだ。

「その少し後でお願いします。待ち合わせがあるので」

 案内された部屋はこじんまりとはしてるけど、ベッドに書きもの机、椅子のセット後はタンスが据え付けてあるようだ。入り口すぐ横にトイレとかもあるみたい。

「魔物討伐でも他の事でも街に貢献してくれてれば、部屋の内容も広さも良くなって行くよ。頑張ってね」

「ありがとうございます。おやすみなさい」

 扉は貴方の魔石かざすと鍵かかるようになっているから。寝る前にちゃんと戸締りしといてね。の声にベッドへ行こうとしていた足を止め部屋の入口へ戻り右手をかざしてみる。ガチャっとロックの音らしきものがしたので取っ手を左手で掴んで動かそうとして見たらガタガタと音が出るだけで開きそうもなかったのでこれでいいのだろう。知らない人(神様も含む)とばっかり話したせいか少し気疲れしてしまった。初対面の人でも丁寧に挨拶してあまり失礼に無いように、とは思っているけど果たして実践できているのか。こういうの考えずにスッとこなせる人が羨ましい。物おじしないで初対面から距離詰めていく、いわゆる陽キャムーブは僕には真似できそうもない。初日の夜はこれで終わった。


 翌日の朝前の世界なら7時前くらいだろうかあっちと季節とか同じなのかはわからないが割と明るかった。日が出てから2,3時間くらいだろうか。ノックの音とアンさんとは別の人の声で目が覚めた。ベッドにはシーツと薄い布団のような物があっただけだったので元の世界の持ち物からタオルケットを一枚追加して寝ていた。丁度良かったのか特に熱い寒い等思うこともなく朝まで熟睡できたようだ。

尚も起床を促す声に、起きたので顔を洗ってから向かいますと答え、動きやすさ重視でジャージに着替えると個室内にある洗面所へと向かった。個室ごとに洗面所とトイレはあるようでとてもありがたい。ビジネスホテルとかってこんな感じなのかな、むしろカプセルホテル?なんてことを考えながらも洗面所へ空の洗面器の脇に大きなポットが置いてある。ふたには小さな魔石が付いていて、別の魔石を近づけたりすると本能して中の水がお湯になるそうだ。ただ僕はまだ魔石を持っていないので、ただの水を洗面器へと注ぎ、洗顔を済ます。正面の鑑の脇には洗って欲しいものがあれば木のタライへ入れておけばやって貰えるそうだ。

「めっちゃ色々してもらえるんだなぁ」

 その分魔物退治を期待されているんだろう。本当に困ってるんだな。

 取り出したマイタオルで顔をぬぐうと備え付けの木のタライへ入れておいた。後出していた私物は全部一度収納腕輪に仕舞っておく。

 

部屋を出ると辺りは朝の静けさのままであった。入り口の方から何やらいい匂いが漂ってきているが起き出して何かごそごそしてるような部屋は無かった。みんな朝一に山へ向かったのだろうか。

 昨日アンさんと話した入口のカウンターの近くの部屋にいくつかの料理が大皿で盛りつけられたものがテーブルに並んでいる食堂へとたどり着いた。

「君が智幸君か。聞いたよりさらに小さく見えるな」

 そう言って声をかけてきたのはアンさんとは対照的に真っ白い毛色の犬の獣人らしきお姉さんだった。

「食事の仕方は分かるか?そこのトレイに好きなものを好きなだけ分けていい。一度盛り付けた物を残すのはやめて欲しい。食べれる分だけ、な」

 バイキングとかビュッフェスタイルか。飲み物も水以外にも結構あるようだ。見たことあるような気もするけど見慣れない大きな四角い箱型の機械?が飲み物コーナーらしき一角に設置してある。下の方にお茶とかコーヒーと書いたボタンがあり、そのボタンの下に注ぎ口が開いているようだ。

「そっちはクズ魔石とか使って飲める温かい飲み物が出てくる道具だ」

 さっきのお姉さんが教えてくれた。ドリンク飲み放題というより自販機みたいなものか。マイナストーンに魔物退治とかするとポイントが自動で入るらしいので、それを使っても飲めるそうだ。

「何か特別なメニューとか料理して欲しい時とかはカウンターに言えって教えてもらったか?夜はアンが担当だが、明るいうちの担当は私だ」

 ルーリーだ、よろしく。と挨拶と同時に手を差し出してきた。握手かな?とりあえず握ってみよう。軽く力を入れたら人と同じ手の形に見えたのに、手のひら部分には肉球のようなものが付いていた。プニプニしてる。

「君はそういう感じか。中には突然手の甲に口づけして来たりするやつもいるし、全く意味が分からないって奴もいたからな。ちょっとどう行動するか試させてもらった」

 大分こちらの世界と近しい所から来たみたいだな。わかりやすくて助かる。そう答えながらつないだままの手をブンブン上下に振って握手を交わす。

「あちらこちらから色んな奴が来るから結構トラブルとかがあるんだ」

 ある程度はお話しできるなら解決するらしいけど。なんで言葉が通じるかについては、各世界の神様が魔力が送られなくなると困るから助っ人を送ると決めた時にこの世界に来たら協力しやすくするためにも何を話してもお互い通じるようにしようってそうなったらしい。逆バベルの塔みたいだななんてふと思ってしまった。

そのまま少し話をしてすぐに食事にすることにした。知ってる卵の5倍くらいあるデカい茹で卵とか、ジャガイモのような匂いのするオレンジ色の蒸した何か、見た目も普通のパンらしきものを分けて、飲み物は水にしよう。

 初めて口にする食材だけど、匂いからは変な感じがしなかったので普通にモリモリ食べていけた。卵は大きいし、卵の味が濃い感じがする。塩っ気も結構感じて、十分おかずになる。オレンジ芋は想ったより甘さを感じるものだった。差っと降られている塩が甘みを感じるのを強くしているんだろう。ぱんは何種類か穀物とかが混ざってる感じでたまに食感が違うものがあったりして美味しかった。よそった分全部食べ切った後追加で美味しそうなウィンナーを一本食べきり、朝ごはんは終了。食べるものもあまり元の世界とかけ離れていなくて助かった。最後に食べたウィンナーが何の肉かは少し気になったけど。トレイを返却口に戻しつつ、ごちそうさまでしたと料理人さん達に声をかける。

 それじゃあロッカさんとの待ち合わせ場所に行こうか。大通りを進むだけだから迷うことはないだろう。


 大通りに出てすぐ向かい始めたが、朝も早いというのにかなりの数馬車のようなものが行き来している。二足歩行のトカゲのような生き物が馬代わりだったり、牛よりも大きい4足歩行の動物が力強く荷車を引いていく。

 邪魔をしないように道の端を進んでいくと門の外側に既に出ているロッカさんが見えたので、小走りになって近づいていく。出る時に門番が持って歩いている水晶に石を近づけ、出る手続きをしてロッカさんの所へ。

「来たか。今日は頼む」

 そう告げたロッカさんの背中には大きな籠。体をよじ登って入ってくれと言われて入ってみる。中には緩衝材代わりなのか何かしら詰められたクッションのようなものが敷い部屋の中へは入らずに推定、エルフの少女と思われる子が廊下から話し始めた。

「貴方が新しい助っ人か。私は石山葉子。この樹海山資源採取・集積拠点、通称樹海山街の責任者だ。最近山どころか向かう途中の森でも黒い何かに襲われたという報告が増えていてな。助けはとてもありがたい」

「・・・え、あっはい。僕は山宿智幸です。が、がんばります」

 漫画とかのエルフの見た目から日本人のような名前が出てきてちょっと思考が固まっちゃった。肩までも伸びてないショートヘアがよく似合ってる。髪の色と同じ黒い瞳は少し鋭い目つきだけどそれも含めて美人さんだ。ベルトの両脇に剣と短い杖のようなものを吊り下げており、エルフなのだとしたらどちらも使えるんだろうなぁ。

 自己紹介が終わったら、こっちの世界で活動するための手続きだ、と言われ、小さな石を体に埋め込むか、その石を使ったアクセサリーを肌身離さずつけるか、どっちか選んでくれと言われたので、埋め込むのに痛みはないとの事だったのでGPSっぽく僕の現在地とか、町から出て、しばらく戻ってきていないとかが分かるようになる魔法の込められたらしい石を右手の甲に埋めてもらった。痛みも違和感もなく、じんわりと肉の中に石が吸い込まれるように入っていくのは不思議な光景だった。

後はこの町で暮らす上での注意をいくつか受け、泊まる場所は狭いが個室な宿舎があると教えられて解放された。


 異世界物のお約束だったら最初にあった美人な子はヒロインなんだろうけど、僕はそんなこと全く考えれなかった。そういうのは何かに襲われてる所を颯爽と助けたりした時だけだろうし、この町の責任者というなら身分も高そうだし、部屋の外から話してこちらを警戒するような感じもしていたし、そう簡単には仲良くなれなさそうだ。なにより歳は分からないけど若い女性と仲良くなる方法が分からない。基本的に近所のおばさんとか年配の女性たちはこちらを見かけると笑顔で話しかけてきてくれる。だから自然と話すようになったりしたものだが、それを自分からするのはどうなんだろう。学生時代も必要が無いと話しかけることもなかったしなぁー。イケメンか話の面白い奴じゃないじゃないと話しかけたら嫌がられそう。自己評価が低い男の考えなんてそんな感じだろう。勝手に期待して変なこと考えたりしないように出来ない理由だけ積み上げるのだ。


 宿舎のある場所まで案内するとロッカさんが僕の前をズシンズシンと重い足音を立てて先導してくれる。いくらも歩かないうちにさっき送られた石造りの部屋があった建物より一回り位大きな3階建ての木造の建物に着いた。街の中は石畳が敷かれているようで大通りらしき長い直線は道幅も広く車がすれ違う事も出来そうだった。

「ここ。ロッカはここは入れないからこれで」

「あ、はい!ありがとうございました」

 お礼を言って戻っていくのであろうロッカさんを見送ろうとしていたが顔をこちらに向けたまま動かない。

「あの、まだなにか?」

「すまない、なんと言えばいいのか悩む。智幸、明日はお山に行くか?」

「へ?ええ、魔物がいるのなら向かおうと思います。道はあるという話でしたし、日に何度か資源収集に向かう隊があるから一緒に行くといいって石山様に教えてもらいましたし」

「一緒に行ってもいいか?」

「ええ、僕が決める事ではないでしょうがロッカさんが行きたいというなら大丈夫なんじゃないですか?」

「ロッカ、歩く道がへこむ。智幸土操作使えると聞いた。凹ませた道直しながら、山へ行くの付き添って欲しい。行きと帰り。報酬は払う」

 その後ゆっくり話してくれたロッカさんによるとロッカさんは樹海山の岩から生まれたらしく、故郷なんだとか。道が出来たから歩きやすくなったが、ロッカさんが歩くと踏み固められた道でも沈んでしまったりするので、帰りづらい状況だったんだって。森の中を突っ切ろうとすると巨体が木々に引っかかるのでなぎ倒しながら進むことになりもっと酷い事になる。

「ええ、それくらいなら出来ると思います」

 土操作はゆっくりだけどロッカさんの移動も割とゆっくりだったし大丈夫だろうと思っていたら

「街から出たらロッカ、走る。疲れ知らずだからお山まですぐ着く」

それって僕も走りながらついていくって事?

そうなるとちょっとついていけないかも。それだと一緒に行くのは無理かもしれない、自分が走れるとしても学校の授業の長距離走やマラソンで走った2、3キロくらいしか走ったことないし、それも決してタイムが早かったわけでもなかったしな。

「智幸、走る苦手?ならロッカに乗っていくといい。石山様、前に乗せた時、捕まるところもあるし、乗れない事はない言われた」

 あの方なら肩辺りに座って乗れるのだろうか。う~ん。

「何なら籠、背負っていく。樹海山の資源を持ち帰るためにこの町には籠とか箱、沢山ある」

 僕がすっぽり立ったまま入れるような籠もあるらしい。それなら酔ったりもしないで済みそうかな?

「朝一番の採取隊はお日様が昇ったら出る。その少し後に出発しよう。もし、道が直せなかったらお山に居るロッカの同族たちに頼む、同族にはロッカより軽いものも多い、それで昼の隊が動く前に直してもらう」

 道が凹んだりしたままだと、馬車での資源運搬に影響が出るのでそれだけはダメらしい。まだ出会ったばかりなのに能力一つでこんなに頼られることになるとは。

「どれだけの速度で走れるのかわかりませんし、それに合わせて道を直せるかもわからないですので、明日の朝、少しやってみてから山まで行くか決めましょう」

「それがいい。お願いする。じゃあ明日山側の門の辺りで待ち合わせよう」

 話は終わったとばかりにそのままのしのしと歩いていくロッカさん。街中の石畳は彼?が歩いてもヒビ一つ入らず、ずれたりもしないものだった。資源集めてあちこちに送るんだろうから、道はしっかりと作られているんだろうな。


話が終わったのでようやく宿舎へ入る。

「遅くまでお疲れ様です、おかえりなさいませ」

 入り口入ってすぐ目の前のカウンターのに居たのは顔が猫の女性の獣人だった。

「あら、はじめましての方のようね。樹海山街へようこそ。山の魔力噴出地帯辺りに新しい魔物が来たんじゃないかって話もあったし、それの対処に来た感じかしら」

「はじめまして、智幸と言います。魔物退治しに来ました。とはいってもまだ実戦前の素人なんですが、目標のために一生懸命やらせてもらいたいです」

「はじめまして智幸さん。夜の宿舎の管理をしている黒猫人族のアンよ。ここについての説明は受けた?」

「はい、管理用の魔石、受付の水晶玉に近づければ登録になるって」

「その通りよ。似たようなのは街のあちこちにあると思うから、登録とか身分確認とかする時は同じようにやってね」

〇イナンバーカードみたいなもんかな?じゃあこの石はマイナストーンか。

「わかりました、ありがとうございます」

「基本助っ人の方々の宿舎はいつでも空いているわ。食事が欲しい時はここのスタッフ誰にでも話してちょうだい。メニューは多くないけれど基本無料よ。もっといいものが食べたいなら街中で食べてきてね。と言ってもこんな時間から小さい子が行くのはダメね」

 アンさんから見ると僕は小さい子供らしい。まあ、身長も低い方だろうし自立も出来ていないので間違いではないだろう。チビとか言われるのも慣れているし。

「お風呂は有るけど、多分ここで入らなくても外から帰って来れば街中にある大浴場へまず連れていかれると思うわ。衛生管理は大事ってあちこちの世界からの助っ人がみんな言うからね」

 お風呂に困ることはなさそうで一安心だ。元の世界だと爺ちゃんと婆ちゃんが特に忙しかったり大変な仕事や作業が終わると、次のお休みとかに送迎バスが定期的に来る近くの日帰り温泉とかに行ったものだったなぁ。観光地料金でちょっと値上がりしている飲料でも、風呂上りに飲むと格別だった。爺ちゃん達はお酒は飲むけどお風呂上りに飲むことはあまりなかったなぁ。爺ちゃんはいつもコーヒーかフルーツ牛乳。婆ちゃんは炭酸の効いたレモン系の飲料だったな。

「智幸さん、遠い目をしてどうしました?」

 はっ!?ついつい元の世界でのことを思い出してしまっていた。

「何でもないです、今日は食事は大丈夫なので後は部屋を教えてもらえればそこで休ませてもらいます」

「じゃあ、空き部屋に案内するね」

 階段を上ることなく一階の廊下を置くまで歩いていって突き当りの部屋が丁度空いているらしい。覚えやすくていい。

「明日は朝一番の採取隊に間に合うように起こしますか?」

 頼めば起こして貰えるらしい。ありがたいサービスだ。

「その少し後でお願いします。待ち合わせがあるので」

 案内された部屋はこじんまりとはしてるけど、ベッドに書きもの机、椅子のセット後はタンスが据え付けてあるようだ。入り口すぐ横にトイレとかもあるみたい。

「魔物討伐でも他の事でも街に貢献してくれてれば、部屋の内容も広さも良くなって行くよ。頑張ってね」

「ありがとうございます。おやすみなさい」

 扉は貴方の魔石かざすと鍵かかるようになっているから。寝る前にちゃんと戸締りしといてね。の声にベッドへ行こうとしていた足を止め部屋の入口へ戻り右手をかざしてみる。ガチャっとロックの音らしきものがしたので取っ手を左手で掴んで動かそうとして見たらガタガタと音が出るだけで開きそうもなかったのでこれでいいのだろう。知らない人(神様も含む)とばっかり話したせいか少し気疲れしてしまった。初対面の人でも丁寧に挨拶してあまり失礼に無いように、とは思っているけど果たして実践できているのか。こういうの考えずにスッとこなせる人が羨ましい。物おじしないで初対面から距離詰めていく、いわゆる陽キャムーブは僕には真似できそうもない。初日の夜はこれで終わった。


 翌日の朝前の世界なら7時前くらいだろうか、あっちと季節とか同じなのかはわからないが割と明るかった。日が出てから2,3時間くらいかな。ノックの音とアンさんとは別の人の声で目が覚めた。ベッドにはシーツと薄い布団のような物があっただけだったので元の世界の持ち物からタオルケットを一枚追加して寝ていた。丁度良かったのか特に熱い寒い等思うこともなく朝まで熟睡できたようだ。

 尚も起床を促す声に、起きたので顔を洗ってから向かいますと答え、動きやすさ重視でジャージに着替えると個室内にある洗面所へと向かった。個室ごとに洗面所とトイレはあるようでとてもありがたい。ビジネスホテルとかってこんな感じなのかな、むしろカプセルホテル?なんてことを考えながらも洗面所へ空の洗面器の脇に大きなポットが置いてある。ふたには小さな魔石が付いていて、別の魔石を近づけたりすると反応して中の水がお湯になるそうだ。ただ僕はまだ魔石を持っていないので、ただの水を洗面器へと注ぎ、洗顔を済ます。正面の鏡の脇には洗って欲しいものがあれば床に置いてある木のタライへ入れておけばやって貰えるそうだ。

「めっちゃ色々してもらえるんだなぁ」

 その分魔物退治を期待されているんだろう。本当に困ってるんだな。

 取り出したマイタオルで顔をぬぐうと備え付けの木のタライへ入れておいた。後出していた私物は全部一度収納腕輪に仕舞っておく。

 

部屋を出ると辺りは朝の静けさのままであった。入り口の方から何やらいい匂いが漂ってきているが起き出して何かごそごそしてるような部屋は無かった。みんな朝一に山へ向かったのだろうか。

 昨日アンさんと話した入口のカウンターの近くの部屋にいくつかの料理が大皿で盛りつけられたものがテーブルに並んでいる食堂へとたどり着いた。

「君が智幸君か。聞いたよりさらに小さく見えるな」

 そう言って声をかけてきたのはアンさんとは対照的に真っ白い毛色の犬の獣人らしきお姉さんだった。

「食事の仕方は分かるか?そこのトレイに好きなものを好きなだけ分けていい。一度盛り付けた物を残すのはやめて欲しい。食べれる分だけ、な」

 バイキングとかビュッフェスタイルか。飲み物も水以外にも結構あるようだ。見たことあるような気もするけど見慣れない大きな四角い箱型の機械?が飲み物コーナーらしき一角に設置してある。下の方にお茶とかコーヒーと書いたボタンがあり、そのボタンの下に注ぎ口が開いているようだ。

「そっちはクズ魔石とか使って飲める温かい飲み物が出てくる道具だ」

 さっきのお姉さんが教えてくれた。ドリンク飲み放題というより自販機みたいなものか。マイナストーンに魔物退治とかするとポイントが自動で入るらしいので、それを使っても飲めるそうだ。

「何か特別なメニューとか料理して欲しい時とかはカウンターに言えって教えてもらったか?夜はアンが担当だが、明るいうちの担当は私だ」

 ルーリーだ、よろしく。と挨拶と同時に手を差し出してきた。握手かな?とりあえず握ってみよう。軽く力を入れたら人と同じ手の形に見えたのに、手のひら部分には肉球のようなものが付いていた。プニプニしてる。

「君はそういう感じか。中には突然手の甲に口づけして来たりするやつもいるし、全く意味が分からないって奴もいたからな。ちょっとどう行動するか試させてもらった」

 大分こちらの世界と近しい所から来たみたいだな。わかりやすくて助かる。そう答えながらつないだままの手をブンブン上下に振って握手を交わす。

「あちらこちらから色んな奴が来るから結構トラブルとかがあるんだ」

 ある程度はお話しできるなら解決するらしいけど。なんで言葉が通じるかについては、各世界の神様が魔力が送られなくなると困るから助っ人を送ると決めた時にこの世界に来たら協力しやすくするためにも何を話してもお互い通じるようにしようってそうなったらしい。逆バベルの塔みたいだななんてふと思ってしまった。

そのまま少し話をしてすぐに食事にすることにした。知ってる卵の5倍くらいあるデカい茹で卵とか、ジャガイモのような匂いのするオレンジ色の蒸した何か、見た目も普通のパンらしきものをとって、飲み物は水にしよう。

 初めて口にする食材だけど、匂いからは変な感じがしなかったので普通にモリモリ食べていけた。卵は大きいし、卵の味が濃い感じがする。塩っ気も結構感じて、十分おかずになる。大きさから言うとこれ一個でけっこうおなかいっぱいになりそうだ。オレンジ芋は想ったより甘さを感じるものだった。さっと振られている塩が甘みを感じるのを強くしているんだろう。見た目ジャガイモだけどがぼちゃな感じ。パンは何種類か穀物とかが混ざっててたまに食感が違う所があったりして美味しかった。よそった分全部食べ切った後追加で美味しそうなウィンナーを一本食べきり、朝ごはんは終了。食べるものもあまり元の世界とかけ離れていなくて助かった。最後に食べたウィンナーが何の肉かは少し気になったけど。トレイを返却口に戻しつつ、ごちそうさまでしたと料理人さん達に声をかける。

 それじゃあロッカさんとの待ち合わせ場所に行こうか。大通りを進むだけだから迷うことはないだろう。

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