【プロローグ】「明日のまなざし」

「……あんたらねえ」


 学校近くのファミリーレストランの二人席。その壁側にもたれ掛かって私の報告を受けていた美沙が、ため息混じりに呟く。


「暗がりをイイコトにイチャコラって……。ホントは私の助けなんていらなかったんじゃないの? なに? 惚気ノロケの使い手、ラブマスターなの?」


「いや、覇気も念能力も使ってないけどね……」


「だったら、幽波紋スタンドじゃあないの? どうする? パスタ頼んどく?」


「美沙にも、シール貼って分けてあげようか?」


 私がやや挑発的に言うと、Qooのりんご味を飲んでいた美沙がいきなりむせ始めた。


「え? なにあんたら、もう一つになって壊れるの?」


 顔を赤くして尋ねる美沙に、私の嗜虐心が煽られる。


 自分でもどうかとは思いながらも、私はいやらしい笑みを浮かべて、


「そうだよ〜。でもまあ、弾丸は蹴れないけどね。まだ」


と返した。


「ったり前でしょ!」


 途端、美沙が両手を机に叩き付けて立ち上がる。


 目を白黒させて戸惑っている美沙の表情には、普段の余裕がない。


 してやったりと思う私だった。


「もしなにかあっても、並行世界から自分を連れてくれば大丈夫!」


「えげつな……」


 D4Cを唱える元気すらなくなり、ぐったりとソファに座り込む美沙を見て、少しやり過ぎたかな、と反省する。


「……まあ、本当に何かあったらまた相談するかもだけど。いい?」


「うん、もちろん。時間止めて、空飛んで、なにがあっても駆けつけるから」


「うわぁ。既に人間やめてるよ、この人。夜しか来れないなんて……」


「私、究極生命体アルティメット・シイングだから。太陽克服してるから」


「一味………違うのね………」


 そこまで言って、私たちは二人して笑ってしまった。


 本当、美沙にはいつも勇気をもらう。


 決めた。明日の帰り道、彼に私の話をしよう。


 辛くて苦しい、深い海の底にも彼の光は届くから。


 がんじがらめの平和でも彼となら大丈夫だと信じて、私はお姫様のベールを脱ぐのだ。


 震えない指でフォークを持って、私たちは注文していたパスタを食べる。


 当たり前だけど、どこにも棘はなかった。


                                    【完】

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青いばら 三食団子 @kykkyk

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