写真じゃなかった

ポンポン帝国

写真じゃなかった

 私は子供の頃から写真を撮るのが好きで、初めて父から貰ったカメラはとても嬉しかった。初めて貰ったそのカメラはフィルム型で、カメラさんに現像してもらわないと撮った物が見れない物だった。けれど嬉しくて家族や友人とのお出掛けや、学校の行事等に持って行って色々撮影した。


 いつも現像したのを撮りに行ってくれてたのは父だった。


 店員さんの反応は知らないままだが、父から渡される時も特に何も言われなかったので、何も気にしないで受け取っていたある日……。


 いつもフィルムは新品を使っていたから特に気にしないで使っていつも通り沢山撮った。


 現像が終わって受け取った写真は何か変だった……。


 観光でいくつかのお寺や友人と撮ったもので、数枚だけが奇妙。


 最初は手がブレただけだと思っていたけど、友人や母と一緒に見て気が付いた。その数枚だけ、箇所はバラバラだけど、ぐにゃりと何かが変形していたり、モザイクみたいなのがかかっていたり……。


 当時のフィルム写真にはそんな加工は無かったので、その数枚の写真を見た人は不気味がった。




 そんなことがあったのと、勉強がすっかり忙しくなってしまい、それ以来そのカメラで撮影することは無くなってしまった。







 暫く時が経つと、カメラ撮影の出来る携帯が普及した。昔カメラ好きだったことを思い出して、カメラ機能付き携帯を受け取った時は、なんだか嬉しかった。


 けど、あの奇妙な出来事は何故かすっかり忘れていた。







 とある夏休み。


 親戚中で集まって別荘を借りて泊まることになり。折角だからと祖父と祖母を中心に三組に分かれて撮影することになった。


 分け方は


『男性グループ、手伝いをメインで動いてるグループ、その他のグループ』


 私は手伝いのグループだったので、携帯で撮影する担当だった。


 まずは男性グループを撮影した。


 男性グループを撮る時点から部屋が明る過ぎて撮り辛かったから、照明を消す係りの人と、カーテンを閉める係りの人が映らない様に立っていた。私が撮影する時には、お姉さんが照明担当、母がカーテン担当になった。


 次は手伝いメイングループの撮影だったから、携帯を渡して他の人に撮ってもらい、それぞれの担当も変わってもらって撮影した。


 そして再び私が撮影に戻り、お姉さんも母も担当の位置に戻った。私は、その他グループの写真を撮り終わって、


『やっと終わった……』


 と心の中で思っていた。


 だが話はそれで終わらなかった。お姉さんが近付いて来て、


「写真見せて」


 と言って来たので、先程撮ったその他グループから見せた途端、その場に居た全員が驚く程の悲鳴をあげた……。


 何事かと全員携帯集まろうとしたが、流石に携帯そのものは大きくない為、

代表で撮影した私と、悲鳴をあげたお姉さんと、母と、祖母で確認することになった。


 お姉さんに、何に悲鳴をあげたのか聞いたら、


「3人とも気が付かないの? この写真がおかしいの」


 と言い出したので、しっかり見た。


「あっ!」


 私と母は同時に声をあげた。祖母は、まだ気が付いていない様子だったので説明した。


「一番後ろの列の間から、人数に合わない手が一本だけ出てる……」


 と言ったら、画面に近付けない人達がざわついた。


 祖母は


「後ろに誰か回り込んで、イタズラで手を伸ばしたんじゃないの?」


 と言ったが、母とお姉さんは顔を真っ青にしながら、お互いを見た後に揃って横に首を振った。


 何故なら、撮影、スイッチ、カーテンのそれぞれの位置がいわば三角形の状態。その真ん中で撮影が行われていたのだ……。もし誰か後ろに回り込んで居れば、お姉さんか母のどちらかがでも分かる筈。


 だけど、二人共


「誰も居なかった」


 と答えた……。だから写真を見て驚いて悲鳴をあげてしまったと、お姉さんは説明した。


 私は、


「この写真を消した方がいいのかな?」


 と聞きながら操作しようとしたら、素早く他のお姉さんが私の手を掴んで阻止した。


「ダメ! 無闇にそういうモノは消したら、後が大変になる!!」


 手を掴んだお姉さんはそう言った。


「他の物は弄らないから、一旦その携帯貸して?」


 そのお姉さんは機械とか色んな事に詳しいのを知っていたから、直ぐに言うとおりにした。


「こーして……OK! とりあえずこの携帯からは、さっきの写真預かったから! 

あとは知り合いにこういうのを扱ってる人が居るから、頼んでおくね」


 とりあえずその写真はどうにかなるようで良かったのだが、良くなかったのがこの後だった。


 祖父母と撮影された側の一部は、そんな騒ぎがあった後なのに撮り直しを要求。記念撮影でその他グループだけが無いのは嫌だ……と駄々を捏ね始めたのだ。一方撮影された側の一部の人間と、撮影を手伝っていた母とお姉さんは嫌がってしまい、対立したのだ。


 私はというと傍観していた……。


 変なモノが映るのは翌々考えてみたらよくあったので気にはしていないが、まぁ間に手があったとなれば一部の撮られる側の人は嫌だろうな……という気持ちは理解出来た。


 今まで映ったモノは消してはいないものの、どうにもしていない。ただそのままになっていた。


 結局、その他グループの撮影会は後日に外で行うことで、何とか収まった。と、いうのも、そんなこんな揉めてる間に夕飯の時間になってしまったから時間的に無理になったからだ。


 そして他でなら……と、嫌がってた人間たちは妥協して。


 撮れるなら……と、撮りたがってた人間たちも妥協した。


 後日、きちんと撮影は行われ、そこでは問題なく撮ることが出来た。なら何故あのグループだけ、あんな事になったのだろう……?と、憶測が色々飛び交ったが、祖母の


「そんなの考えたって、しょうがない!」


 の一言でこの件は幕を閉じ、それ以降その件に関して誰も話すことは無かった。そして数日間泊って特におかしな事が起きるわけでもなく、それぞれがそれぞれのタイミングで帰って行った。


 この年の夏休みはそれ以上、撮影で異常は起きなかった。








 そして別の年の夏休み。


 父が


「海に釣りに行こう! それで折角だから早めに行ってキャンプしながらその場で早起きをして釣ろう」


 と言いだしたので、話の流れ通りに準備を素早く済ませ、昼前に海辺に着き、全部準備をすませてなんだかんだで夜になった。


 準備で疲れてたのか、気が付いたら寝ていたようだ。トイレになったので、近くにあったトイレ専用の建物に一人で向かった。


『電気はそれなりに点いてるのに、なんだか嫌な感じだなぁ』


 と思いながら早目に済ませて、トイレを出たら母が居た。


「このトイレなんか嫌な感じしない?」


 と、突然問われて一瞬ポカンとしてしまったが。


「なんかする」


 とだけ答えて寝袋に戻ろうとしたら、母が


「どこからでもいいから、ここのトイレ全体が入る様に写真撮ってみてよ!」


 と、また突然突拍子も無いことを言われた。


 面倒だったのでさっさと撮って寝ようと思ってた私は、その撮影のせいでその後一睡もできなくなるとは思って無かった。


 母からの指示は『全体が入る様に』だった。勿論その場では無理だったので移動することにする。


『そういえば、泊まってた所からなら全体が入ったなぁ……』


 と思い、寝床付近まで戻り、携帯を構えて撮影した。撮影したのを確認しようと思い、椅子に腰かけて撮った写真を見て静かにギョッと驚いた。


 なんとそのトイレの建物の周りだけ、黄緑色の謎の小さな発光物体がウジャウジャしていたのだ。私の静かに驚く顔を見た母は携帯を覗き込む様にして見てきて、一言


「わっ!」


 と声をあげた。


 私は


『寝ている人が居るのを気遣って声を出さなかったのに……』


 と思い、少し睨んだら


「ごめん」


 と小さな声で母は言った。


「それにしても、これ凄いね。嫌な感じの原因ってこれかな?」


 と聞かれたが


「この写真が凄いのも、トイレに嫌な感じがしたのも分かるけど原因がこれかどうかなんて、専門家でもないから分からないよ……」


 と冷静に答えた。


が、心の中では若干焦っていた。


『また、とんでもないモノを撮ってしまった……。しかもまだ一日以上いる予定でトイレはそこしか無いから、この後からのトイレ滅茶苦茶行きづらいじゃんか』


 その写真を見ても母は気にしてなかったらしく、普通にそのトイレを使用していたが、流石に私はその気になれず、夜が明けてからは父が何度か買い物に出たので、そのついでに理由をつけてコンビニに連れてってもらった用を足す事であのトイレには近づかないですんだのだった。


 無事帰宅し、数日経った後にもう一度なんとなく見てみようと思ったら、不思議な事にその光達は映っていなかった……。


『なんだったんだ? あの光は』


 と思いながら、携帯を閉じた。






 そして翌年、携帯を変えることになった。


『翌々考えたら、最初に携帯買った時から全然変更して無かったから変なモノがいっぱい映ったのかなぁ?』


 と思った。


 何気なく携帯を変えただけで、この時はまだ大変なことになるとは思いもしなかった……。


 異常はすぐに起きた。


 電源がなぜか入らないのだ。一つ目は当日に。保証期間だったので店舗ですぐ対応してくれたが再び変えた二つ目が三日目に。そして三つ目が一週間でと何度も変えても数日で電源が入らない。突然消える。といった症状が起きてしまった。修理の依頼を出しても原因が不明だったので、店員の勧めもあって仕方がなく全然違う物を選ばざるを得なくなってしまった……。


 携帯を何度も変える羽目になったせいか、その後もバタバタが続き、暫く撮影をする機会は訪れなかった。


 そして気が付いたら社会人と呼ばれる年齢になっていた。そして仕事中に偶然再会した友人とある日、小旅行に行くことになった。


 再びあれが映るとはこの時、微塵も思ってなかった……。


 朝から富士山の周辺を沢山観光して夕方帰る前に友人が


「折角だから富士山をバックに写真撮らない? このカメラで撮ってよ!」


 と言って私にカメラを差し出してきた。


 私はその時携帯しかまだ持っていなかった。


 友人はカメラを持って来ていたので一日中、友人や近くに居た人に頼んで撮影していた。一日何も問題なく撮影出来ていたので最初は気にしていなかった。


 ただ友人一人を撮るとなると私が撮影しなくてはならなかった。


 過去、色々あったのもあり、あまり気は進まなかったけど頼まれてしまえば


『仕方がない』


 と思いカメラを受け取った。


 カメラを覗き込んだ時は何も問題無かった。だからそのまま撮影したのに……。


「撮ったの見せて!」


 と私が撮ったものを確認する前に、先に友人が見て驚いた。


「なにこれ?」


『今度は何が映りこんだのか?』


 と不安に思いながら覗き込んだ。


『また黄緑色の光が……。以前に撮った時よりは遥かに数が少ないけど……』


 ただ初めて見る友人は怖がるというよりは


「凄い! 凄い!」


 と、はしゃいでいたので、とりあえず落ち着くように言い、写真はそのままにして


「家に帰ったら説明するから」


 と伝えてその後はどこも撮影する事なく、観光をしたあと帰ることにした。


 その日は友人の家に泊まる予定になっていたので、友人宅に着いて諸々片付けて、食事しながら友人が写真について聞いてきた。正直どこから話せばいいか迷ったが、過去の色々を話すことにした。


「で、今日カメラ覗いた時は何も変なモノは映ってなかったから大丈夫だと思ってシャッターを押したんだよ。ただ君は私が撮影してすぐに取ったから確認出来ないまま、君が先に見ることになったってこと」


「ごめん。けどさ、このカメラで一日中撮影してて問題なかったじゃん? ってことは、話を聞くところ、〇〇に問題があるんじゃないか?」


「え?」


 私は変な声を出した。


 散々、色々な目に会っておきながら、‘‘自分が原因‘‘だなんで微塵も今まで思って無かったから……。


 驚いてる私を見て、友人は気が付いてなかった私に若干呆れていた。


「いや、、、そんなに驚くこと?」


「私は、てっきり、その時のカメラや携帯が良くないのかと思ってたんだよ……」


「いや、今までカメラや携帯も何度も変えて、しかも今回、人のカメラ借りて撮っても映ってるなら媒体が原因じゃなくて、本人が原因でしょ。まぁ撮る側に回った時だけ映るっていうのもそれなら理由がつくでしょ」


 そこまで言われ納得したが、一つ疑問があった。


「ただおかしなモノが映るのが毎回じゃないんだよね。同じ場所で撮って毎回映る訳でもなくてさ」


「まぁそれはたまたまじゃない? でなきゃ、もっと前に〇〇が撮ったら映るー! って、何処かのタイミングでそれこそ家族とか、他の誰かか、〇〇自身が気付いてたと思うよ?」


「たまたま……か、まぁそれはそうかもね」


 友人との会話で、どの媒体を使っても私が撮影するとたまに‘‘ナニか‘‘が映る可能性があるということが分かった。若干ショックだったけど


「まぁ、いつ映るか分からないんじゃ仕方ないんじゃない?」


 と友人に言われたので


『それも、そうか』


 と思いなおし


「映ってしまったら仕方がないってことか?」


 と友人に問い


「うん」


 と言われたので、考えることを諦めることにした。










そしてそれから数年経った、今の私は……。

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