最強プリンセス軍団が見せた真夏の幻

@antedeluvian

最強プリンセス軍団が見せた真夏の幻

2024年7月20日から始まった乃木坂46の真夏の全国ツアーが明治神宮野球場で幕を下ろした。


最終公演の東京は台風の接近で開催が危ぶまれていた。


ところが、天候への心配は杞憂に終わった。


3日間は公演中に雨も降らず、全国ツアーは無事に完走した。


2023年の夏も乃木坂46は台風の間を縫うように宮城での公演を行い、「CDTV ライブ! ライブ!」ではライブ会場から「おひとりさま天国」の中継が実現した。


天候を味方につけ、時の運を引き寄せる様はスター性を如実に表した。



明治神宮野球場でのライブを振り返り、乃木坂46を改めて考えたい。



***



乃木坂46にとってのライブとは、自らの持つ魅力の全てを発揮する場だ。


歌もダンスもMCも演技もメンバー同士のやりとりも、今年はそのすべてが詰め込まれた。


これを観れば乃木坂46を知ることができる。


誰もが輝く場所を持ち、星のように煌めく……それが乃木坂46だ。



乃木坂46はプリンセスに扮し登場した。


現在のプリンセス像というものは、もしかするとディズニーが築き上げたものかもしれない。


プリンセスは、美しく、決して折れない信念を持つ。


プリンセスの衣装に身を包んだ乃木坂46のメンバーたちは外見だけでなく、中身もプリンセスというに相応しい存在だ。


日々乃木坂46と接するスタッフがそう感じているからこそ、ライブのコンセプトにプリンセスが据えられたのだろう。


そんな姿に周囲は呼応するのかもしれない。


神宮公演では、NTTドコモ代々木ビルが乃木坂46の紫色のライトアップで応えた。


コロナ禍を経て、乃木坂46のライブでは2023年に声出しの解禁がされた。


その間、乃木坂46のメンバーとファンとが混然一体となってライブという空間を作り上げるという流れは一時停止していた。


その時期に発表された曲の中には、ゆっくりと時間をかけて出来上がっていったものも少なくはない。


井上和さんがセンターを務める「おひとり天国」「チートデイ」はいずれも発表された当初からファンが曲を作り上げていくことができた。


乃木坂46のライブの歴史で言えば、「乃木坂の詩」は3rd YEAR BIRTHDAY LIVEにファンと一緒に歌うくだりができていたが、そうししたファンとの一体感はkん回のツアーでもかなり強化された印象だ。


声と動きでファンが曲に参加する定番、「夏のfree&easy」「裸足でSummer」「好きというのはロックだぜ!」「僕が手を叩く方へ」「乃木坂の詩」……そこに「自惚れビーチ」などが加わり、より一層ファンにとっては参加感が増すことになった。


「僕が手を叩く方へ」が物語る通り、乃木坂46に関わる人々すべてと共に歩んでいくという意味合いが強く押し出されたということだ。


そうしたメッセージは、メンバーへ向けても見受けられる。


例年、神宮ライブでは曲間に花火を打ち上げる演出があり、それがそのライブを象徴する曲であることも多い。


今回は去年リリースの「誰かの肩」。


これは二度目の真夏のツアー座長を務める井上和さんへのメッセージであろう。


彼女は超がつく真面目で、多くを抱え込もうとする。


だから、そうではなく、みんながそばにいるよということをライブの演目が彼女に語りかけるのだ。


井上和という人は、信念を存在という意味でプリンセスと言えるのかもしれない。



神宮ライブの3日目には、ライブ中に足を負傷した梅澤美波さんが靴を履き替えてのパフォーマンスを行った。そんなことはおくびにも出さなかったが。


乃木坂46"5期生"版 ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」での池田瑛紗さんを思い出させるような強さを示すエピソードだ。


そうした強さを乃木坂46のメンバーたちはすでに持っている。



プリンセスとは、時には孤独であるかもしれない。


言葉を発することなく、行動することによって自らの未来を切り開く。


その胸の中には、おそらくしまい続ける様々な思いもあるだろう。


神宮公演最終日9月4日は3期生の結成8周年でもあった。


「設定温度」の披露中に涙を見せた久保史緒里さんは8年前の神宮のステージを脳裏に描いていたのだろう。


先輩たちの間に入り、この曲を歌った彼女たちは、そこで「乃木坂46になった」という実感を強めたという。


今では、手を叩いて道しるべとなってくれた先輩は1人もいない。


手を叩くのは、「僕が手を叩く方へ」でセンターを務める久保史緒里さんをはじめとする3期生だ。


その移り変わりが彼女に感情を起こさせたのだろう。


3期生のメンバーたちからこぼれる涙は、この8年を駆け抜けた実感と、乃木坂46と運命を共にするという句服の表れだったのかもしれない。


その涙は夏の夜に照らされて美しく輝いていた。



神宮公演の最後、ダブルアンコール。「チートデイ」。


「ごめんなさい」と叫ぶはずの井上和さんの口から「ありがとう」と言葉が出た。


その時に、私は初めてこの曲の真の姿を目の当たりにした気がした。


「チートデイ」の世界では、主人公は思いを寄せる彼女を夏の海へ連れ出す。


ズル休みをする口実を与えられた彼女は喜びを胸にしながらも、ズルをしたことを謝る。




この曲は恋愛を歌った曲だが、未来の6期生へ向けたものだとすればどうだろうか。


夏の海は乃木坂46のメタファーだ。


連れ出される彼女は、実は窮屈な日々から解放されたいと思っていた。ズルをすれば大人たちから何か言われるのだ。本当は真面目でいたくなかったのに、自分にウソをついていた。


そんな日々から逃げ出したからこそ、夏の海を楽しむことができた。


それは誰かに連れ出されなければ分からなかったことだ。


乃木坂46という存在を知ることで、平凡な毎日ではなく、夢のある未来を見つめ始めた瞳がある。


まだ名前もない彼女たちは乃木坂46という存在に手を引かれ、夏の海に連れ出されていく。


本当は親からは大学に進学しろと言われていたかもしれない。


まっとうな仕事に就けと言われていたかもしれない。


それでも自分の気持ちに素直に、勇気をもって一歩を踏み出した。



乃木坂46のメンバーたちは活動を重ねていくにつれ、「あの時、乃木坂46のオーディションに応募した自分」を振り返り、素晴らしい今に感謝をする。


井上和さんがステージ上で発した「ありがとう」は、図らずも、夏の海に連れ出された名もなき少女が未来で口にする感謝の言葉だったのだと思う。


「チートデイ」で主人公に連れ出された彼女もまた「ごめんなさい」の裏側で「ありがとう」と言っていたに違いない。


井上和さんもまた、かつては名もなき1人の少女だったのだ。


そんな少女の思いを梅澤美波さんの言葉が力強く、そして優しく包み込んだ。


「迎え入れる準備はできている」



乃木坂46は愛に満ち溢れたグループだ。




written by antedeluvian

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