第63話 華燭
小蘭はぐるりと身体を回転させ、蒼龍の上に乗り上げた。じっと上から彼の目を見る。
「ね、蒼龍。私も行きたい」
「ダメだ」
「どうして?私、待ってるだけなんてイヤだ。蒼龍と離れたくない」
彼は首を横に振った。
「それだけはダメだ、絶対に。頼むから
「何で?戦に女がダメだというのなら、男の子の姿でいくわ。
私、馬は得意だし、弓だって使えるもの。お願い、蒼龍を護りたい。
そうよ、蒼龍のお母さんだって……あ」
小蘭が気がついたのと、蒼龍が小蘭の首に掛かった黒曜石に触れたのは、ほぼ同じ時だった。
「尚更だ。君に護られる場面なんて、俺は考えたくもない」
「解った、ごめん……もう言わない」
小蘭は黙るよりほかはなかった。蒼龍は知らないが、小蘭は彼の母親が戦場で、皇帝を庇って亡くなったことを、皇后様から聞いて知っている。
ここは、引かなくてはいけない。
ぎゅっと胸が締め付けられて、溢れる涙を見られないよう、小蘭は再び彼に身体を押し付けた。
「蒼龍、もっかい、ぎゅってして」
無言のまま、蒼龍は全身で彼女を包み込んだ。
そう、今だけは他のことを全部忘れよう。今この瞬間、この静謐な月光の中には、蒼龍と私の2人しかいないのだから。
小蘭は、蒼龍の腕に包まれて、肌の温かさと鼓動の揺らぎを感じながら、心地よい疲労のうちに、まどろみの中に落ちていった。
「蒼龍のこと、愛してる」
「ああずっと、永遠に────」
《第二章 おわり》
後宮恋歌 佳乃こはる @watazakiaya
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