その3 ︎︎返事がきた

 その日、学校で俺はずっとソワソワしてた。


 まだ誰もいない教室に朝早く来て、マキアさんの机にそっとファンシーノートを押し込んだ。あとは課題や授業の予習やなんやをしていると、続々生徒たちがやってきた。


 それから、俺はまあ普通に学校生活を送る。


『次の移動教室一緒に行こう』

『遠慮しないで何でも言えよ』

『前の学校ではもう二次関数終わってるんだって?』


 その度に俺は「うん、いいよ」とか「まあな」とか、その場に相応しい返事をする。どうせ仲良くなっても卒業したらバラバラになるので、あまりこいつらと仲良くしたくなかった。


 転勤族の親父のせいで、俺の転校歴は15年の人生でざっと5回。転校の挨拶も慣れたもので、刹那的な人間関係も慣れたものだ。スマホの連絡先は増えていくけど、頻繁にやりとりしようと思う奴はいない。小学校を卒業した頃連絡先を交換した奴の顔はもう覚えていない。


 そんな見た目より孤独な中身の俺にも、マキアさんという超絶天使が舞い降りてきた。きっとこれは、神様からのご褒美だ。


 放課後、帰りの支度をしようと机の中に手を入れると例のファンシーノートが入っていた。


 返事早いな!?


 ドキドキして俺はノートをカバンに突っ込んで、速攻で家に帰った。この時期、中3で部活をやってる奴もいない。みんな塾なんかに行くんだろうか。


 ***


 家に帰って、俺は真っ先にノートを開いた。


【9月12日】

 さっそく返事くれてありがとう!

 転校って大変だよね。私は転校したことがないからわからないけど、知らない人の中に入っていくのって緊張するよね。槙野くんはすごいね!

 来週から球技大会の練習が始まると思うよ。3年間最後の思い出になるから、みんな張り切ると思うんだ。槙野くんの思い出にもなってくれると嬉しいな。


 ……かわいい。


 俺は幸せものだ。

 もう死んでもいい。


 俺はファンシーノートに向き直る。これは返事を書かないといけないな。


【9月12日】

 今日のうちに返事をありがとう!

 まだクラスの様子も何となくしかわからないけど、マキアちゃんが


 やべ、流石に馴れ馴れしいな。


 滝田さんが教えてくれると思うと心強いです。球技大会は楽しそうだね。クラスが一致団結するのかな。僕も早くクラスに馴染まないとね。


 ……死にたい。


 もっと俺、気の利いたこと書けねえのかよ。

 何回も俺の文章を読むと吐き気がするので急いでノートを閉じてカバンにしまう。


 明日も朝一番に教室に行こう。

 それで、ノートをマキアさんの机に入れておこう。


 でも、やっぱり何でマキアさんはこんなことしてるんだろう?

 それは俺が好きだから……?


 いや、まだわからないな。

 きっとそのうちわかるだろうな……。

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クラスメイトの美少女が交換日記をしようと迫ってきます 秋犬 @Anoni

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