第4話

 三人は田中に連れられ実験室へ行った。実験室と言っても、化学室のようなサイエンスを全面に押し出した部屋ではなく、壁三面と天井と床は白、壁一面はガラスという精神科病棟のような部屋だ。そこに田中が椅子とコードの沢山ついた機械を運び入れた。

「みずきくんここに座って。」

 高瀬を部屋の真ん中に座らせ、何やら頭にコードを着け始めた。高瀬をマッドサイエンティストの実験でしか見ないような状態にし、田中は東雲しののめ砥上とがみと共にガラスの向こう側へ行った。そして田中が向こう側の機械のボタンを押すと、魂蝶こんちょうが現れた。高瀬の脳内に『幸セ、ドコ』『不味イ』という声が響いた。

「聞こえる…」

 高瀬がそうつぶやくと、ガラスの向こう側で砥上が騒いでいた。

「すげー!俺にも聞こえる!」

「みずきくんに着けたコードで脳波を読み取って、こっちの部屋に音声として流してるんだ。」

 田中が説明すると、東雲が目を輝かせていた。高瀬はその様子を見て、フラっと立ち上がりガラスに近づきながらつぶやいた。

「幸せ…吸う…美味…幸せ…欲しい…」

 田中がそれに気付き、実験を止めた。高瀬のいる部屋へ行き、コードを外しながら言った。

「みずきくん、大丈夫だったかな?魂蝶が混ざったみたいだったけど。多分みずきくんの共鳴率が高すぎて影響されちゃったんだね。」

 高瀬は少し頭をボヤボヤさせながら返事をした。






 高瀬の体調のこともあり三人は帰ることにした。高瀬は魂蝶の気持ちが混ざった時のことを思い出していた。

「幸せが欲しい…寂しい…」

 魂蝶から流れ込んできた感情は、高瀬も感じた事のあるものだった。






 翌日、高瀬が大学へ行くと東雲と砥上が待っていた。

「あ、みずき君、大学来れたんだね。体調どう?」

「もう大丈夫だよ。」

 高瀬は東雲に答えると、視線をすぐそらした。高瀬は魂蝶を多く連れている人を見ていた。

「あのさ、二人とも…ぼく、何だか変で…」

「変!?大変やないか、すぐに協会に行こか。」

 砥上はオーバーリアクション気味に言った。それに対して高瀬が訂正のためすぐ返事をした。

「そんなじゃないよ!あの、なんか、魂蝶が気になるというか沢山いる人を思わず見ちゃうんです。」

 東雲は不思議がり言った。

「幸せそうで羨ましいってこと?」

 高瀬は首を横に振り言った。

「魂蝶の気持ちが混ざってるんです。」

「昨日の機械の効果がまだ続いとるんやな。ほな、授業終わったら協会行こか。」

 東雲と高瀬は頷いた。






 大学の正門で高瀬と東雲が待っていると砥上が走ってきた。

「ごめんなー、授業ちょっと長引いたわ。」

 東雲と砥上が歩き出し、高瀬も後ろから歩き出した。

 その時、クラクションを鳴らしながら一台のバイクが突っ込んできた。

「あ…」

 東雲と砥上が気づいた時にはもう遅く、高瀬はバイクと衝突し倒れた。

「みずき君っ!」

 東雲は高瀬に駆け寄り、砥上は救急車を呼ぶ。

「みずき君、分かる?みずき君!」

 すると高瀬の胸の辺りが、魂蝶と似た白っぽい光を放ち始めた。

「…砥上さん、これって…」

 東雲に呼ばれた砥上が近づくと光源が高瀬に胸から浮き上がった。

「みずきの魂…」

 そして魂は魂蝶へと姿を変えた。そしてヒラヒラと舞い、どこかへ飛んでいってしまった。

「みずき君…」

高瀬の魂が変化した魂蝶が去った空を見上げ東雲がつぶやいた。

少しして救急車が来ると、もう魂の抜けた高瀬の体に心臓マッサージをした。

砥上は田中に電話を掛けた。

「あ、もしもし、田中さん…みずきが死んだ。魂も魂蝶になった。」

『え、みずきくんが…どうして!?』

「バイクにぶつかって…」

『そっか…』






『東雲くん…幸セ…ドコ…ぼくは死んだ…サミシイ…幸セ…吸ウ…美味…』

そしてこの魂蝶は、幸せのオーラを纏った人間を見つけその蜜を吸いはじめた。

『幸セ…美味ダ』

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幸せは蝶々になって くらげれん @ren-k

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