第3話
田中が
高瀬がそれらしき記事を見つけ読み上げる。
「ある奈良時代の人間が絶望に取りつかれ、中国から渡ってきた仏教に救いを求める中で
「なんや、嫌な感じやな。」
砥上がそう言うと、ガチャと扉が開き田中が入ってきた。
「みずきくんもきてくれるかな。」
高瀬は二畳程の部屋に入れられた。少しすると壁の向こう側からウィーンという、いかにも機械っぽい音が聞こえた。音が止むと東雲が入ってきて、また音がした。そして止んだ。
「終わったよー。二人はさっきの部屋に戻っててね。」
田中はそう言うと、すぐ真面目な顔になり白衣の人と話しだした。
部屋に戻ると砥上が、
「なあ遅いで!俺一人で寂しかったわ。」
と言った。
東雲に魂蝶のはじまりを説明していると田中が戻ってきた。
「皆、お待たせ。原因わかったよ。」
田中はまず、鱗粉で麻痺し幸せに魅入られる人には幸せを感じながら現実を拒絶し見ようとしないという特徴がある事を話した。
「最近の若者は現実逃避する人が増えたって聞くし、凪くんも恐らくそうなんだよね。」
田中が言うと、東雲は少しうつむきながら微笑んで言った。
「僕は小説が好きで、本の中が本当の世界だったらいいなって、よく思ってます。」
「なるほどな、本が好きすぎて現実を離れようとしたんやな。」
砥上がそう言った時、高瀬は東雲に初めて会った時のことを思い出した。本を読む東雲の周りの魂蝶は多かった。きっと本を読む幸せに浸っていたのだろうと高瀬は思った。
「凪くんは魂蝶の鱗粉を浴びたら、すぐにでも見えるようになる状態だった。」
田中がそう言って話し出した。
「さっき、凪くんとみずきくん、二人のオーラを調べたんだ。凪くんのオーラには他の誰かのオーラが混ざってた。見えるようになった時、一緒にいたのはみずきくんだ。だからみずきくんのオーラも調べたんだけど、案の定混ざってたのはみずきくんのオーラだった。魂蝶は見える人のオーラは吸わない。それは、現実の拒絶が一定に達し鱗粉に麻痺したことがある人のオーラは、魂蝶にとって不味いからだ。凪くんが見えるようになったのは、みずきくんがよろけた拍子に凪くんのオーラにみずきくんのオーラが混ざって不味くなったからだと結論付けられる。」
田中の実験結果を聞き、高瀬は少々青ざめた顔で言った。
「それってぼくのせいって事ですか…」
それを聞き東雲がすかさず答えた。
「違うよみずき君。さっき田中さんも言ってたでしょ、ぼくはすぐにでも見える人になるような状態だったって。それに僕は見えるようになったからって、何か迷惑した訳じゃないし。」
高瀬はうつむいたままでいた。砥上が高瀬に肩を組み言った。
「そうやで、凪が見えるようになってなきゃ俺ら友達になってへんかったし。」
「ところで、みずきくんは何か、凪くんが見えるようになった時のことで気になる事とかないかな。」
田中の質問で、高瀬は図書室でのことを思い出して答えた。
「ちょっとめまいがして、それで声が聞こえました。『美味ダ』って言ってました。それから一瞬声が聞こえなくなって、次は『不味イ』って言ってました。それで魂蝶は全部飛んで行きました。この声って、もしかして…」
「魂蝶の声だね。声を聞いた例は、今までに何件かあってね。魂蝶と共鳴率が高い人が聞けるんだ。」
田中の説明に砥上が食いついた。
「共鳴率?なにそれ、初耳なんやけど!」
田中が苦笑いして言った。
「実験やってみよっか。」
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