あの山に棲むモノ
ハルヤマ ミツキ
あの山に棲むモノ
記録:2024/02/27
え、あの山に行かれるんですか?
ああ、辞めておいた方がいいですよ。
理由、ですか……たぶん、信じてもらえませんよ?
分かりました。正直気は進みませんが、お話します。
もう、十年も前の話です。小学三年生の夏休みに当時仲の良かったMちゃんと肝試し感覚であの山に行ったんです。
最初は頂上を目指してハイキングコースを通ってたんですけど、Mちゃんが■■■■トンネルに行きたいって突然言い出して……ほら、■■■■トンネルって心霊スポットとして有名じゃないですか。
えっ、知らない?……そうですか。私の地元ではかなり有名だったんですけど……あ、すいません……話が脱線しちゃいましたね。
それで、えっと……私もその提案に同意してハイキングコースを外れて■■■■トンネルに向かったんです……。
思い返せばその段階から変でした……Mちゃんは普段大人しくて先頭を切るタイプじゃないのに道じゃないようなところをズンズン進んでいくから私はついて行くのに精一杯で、気づいたときには辺りはもう真っ暗になっていました。
さすがにこれはもう帰られないと親に怒られると思ってMちゃんに引き返そうって言ったんですけど……Mちゃん、まるで何かに憑りつかれたみたいに私の言葉を無視して進んで行っちゃって……持参したライトで前方を照らしながら追いかけてはいたものの、すぐに見失っちゃったんです。
それからしばらく名前を呼びながら一人で山を彷徨ってたら、突然それが現れたんです。
たぶん、石碑です。山の斜面に刺さるようなかたちで建ってて、高さは小学三年生の私の背丈の倍以上はあったと思います。
えっ……ああ、何か文字は彫られてたんですけど、さすがに何が書かれているのかまでは分かりませんでした。
場所?いやぁ……さすがに覚えてないですね。地図なんて持ってなかったし、ただ闇雲に歩いてただけなので……すみません……。
ああ、はい……その後ですね。さっきも言ったとおり辺りはもう真っ暗だったし、それに何だかずっと誰かに見られているような気がして……もうはやくMちゃんを見つけて帰ろうと思ってその場を立ち去ろうとしたら…………突然、どこからともなく子供の笑い声が聞こえてきたんです……きゃはははっ、きゃはははっ……って。
最初は聞き間違いかと思いました。でも、だんだんその笑い声が大きくなっていって……もう私、本当に怖くなってすぐにその場を離れたんです……。
無我夢中で走ってたらいつの間にかハイキングコースに戻ってきてて、その頃にはもう笑い声は聞こえてきませんでした。
ホッとしてその場に座り込んでMちゃんのことをどうするか考えていたら、ちょっとして背後からザッザッザッっていう山を駆け下りるような音が聞こえてきたんです。
あ、きっとMちゃんだって振り返って山の上の方をライトで照らしたら……男の子、でした。いえ、男の子の見た目をした『ナニカ』って言った方が正しいですね。
まるで血を浴びたように全身赤黒くて、口が耳元まで裂けていました。
もちろん逃げましたよ。首が千切れそうなほど頭を振り乱しながら私の方に向かってきてたんですもん。
それはもう一心不乱に泣きながら山を駆け下りました。
あれに捕まったら間違いなく死ぬって思いながら。
でも私かなり鈍足で、だんだん距離を詰められていくのが分かりました。
その証拠に、背後から『ナニカ』の声が聞こえてきたんです。
忘れもしません。
ミツケタッ!ミツケタッ!ミツケタッ!ミツケタッ!
獲物を見つけたような感じで、嬉しそうに何度も何度も……。
もうダメかと思いましたけど、何とか人気のある麓まで降りてこられて……ああ、何とか逃げ切れたんだと安堵しつつも足を止めるのが怖くてそのまま走って家まで帰りました。
その日以来もうあの山には近づいていませんし、ホラー映画の最後によくある助かったと思っていたのに実は憑りつかれていたなんてこともありません。現に、こうして何事も無く過ごしていますし……えっ……Mちゃんですか?
Mちゃんは……はい、今もまだ見つかっていないんです。
警察や捜索隊が何日もかけてあの山を隈なく捜索したけど痕跡すら見当たらないと聞きました。
あの時、非常事態だったとはいえ私は彼女を置き去りにしたまま帰ってしまった。
その罪悪感は一生かかっても絶対に拭えないと思います。
あの山に棲むモノ ハルヤマ ミツキ @harumitsu33
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