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私の名前は新谷 由里亜。引っ込み思案の暗めの女です。
高校三年間、とうとう好きな人に告白できないまま、卒業式を迎えてしまいました。
「消しゴム落ちたよ」
彼が一年生の時にそう言って私の消しゴムをにこやかに拾ってくれた時、私は恋に落ちてしまいました。私は彼が落した消しゴムを拾えなかったので、同時に自己嫌悪にも苛まれましたが、それよりも初めての恋の感覚に一人で酔っていました。
彼の名前は荒巻 太一君。爽やかな笑顔が胸にキュンと来る優しい人でした。彼と一緒になれたらどれだけ幸せかだろうと考えて、私は彼と友好的な関係を築くために努力しようと考えました。
しかし上手く話そうにも声が出ない。挨拶すらまともに出来ない日々が続きました。明日は声を掛けよう、明日こそ……。そうやって先延ばしにし続けて来て、結局はチャンスを無駄にしたまま卒業式を迎えてしまいました。
去り際の彼の背中を見た時、私の中に残ったのは深い後悔の念です。ちゃんとフラれていれば後悔も少なかったのでしょうが、結局会話を交わしたのも数回ほどです。
家に帰り、涙で枕を濡らしました。こんなにひどい後悔をしたのは生まれて初めてです。もしやり直せるなら……もし。そう想いながら泣き疲れて眠ると、次の日とんでもないことが起きました。
「由里亜起きなさい。入学式早々に遅刻するわよ」
ママの声で起きて辺りを見渡すと、部屋のレイアウトが少し変わった気がしました。いや、戻っている気がしました。あったものが無くなっていて、捨てたものが置いていある、あまりに奇妙なことに頭がパニックになっていると、カレンダーの年が2021年になっていることに気が付きました。
それからありとあらゆることを調べて、私は今が高校生の入学式当日だと理解しました。頬っぺたも抓って痛かったから夢でもなさそうです。どうやら高校生活がリセットされたみたいです。
どうしてこうなったかは分かりませんが、もしかして酷く後悔したことによって私が時間を戻したのか?なんてバカバカしい推論に至りました。いやでも理由なんて最早どうでも良いのです。こうしてチャンスを貰えたのですから、今度こそ荒巻君に告白したいと思います。手始めに消しゴムを笑顔で拾うことから始めたいです。
どうも荒巻です。彼女から事のあらましを聞いている途中、僕は疑問に思ったことを聞かずにはいられなかった。
「あの消しゴムのことなんだけど、君は拾えなかっと言ったけど、ちゃんと僕の消しゴムを拾ってくれたじゃないか」
そう、彼女はリセットする前から僕の消しゴムを拾ってくれた筈なんだ。そして僕は消しゴムを拾った覚えがない。これは大きな違いである。
彼女は泣き腫らした目を擦りながら、こう僕に告げた。
「そのことについても話します。実は私リセットしたのは今回だけじゃないんです。今回で二回目なんです」
「な、なんですと――――!!」
自分でもオーバーなリアクションをしたと思うが、続けて彼女はこう話し始めた。
「結局、青春を一回やり直したぐらいじゃ、私アナタに美味くアプローチ出来無くて、またズルズルと無駄に時を過ごしてしまっていたんです。最初よりは多少は良かったと思うけど、やっぱり告白とかは出来なくて……それでもう一度深く後悔したんです。そしたらまさか二回目のリセットが起こって、それでまさかアナタから告白されるなんて思いもしませんでした。私はまだ一回目のリセットの時と同じことしかしていません。それなのに荒巻君が告白して来るということは、アナタが高校生活をリセットをしたと思ったんです。私のリセットしたせいで、アナタまで巻き込んでしまった。本当に申し訳ありませんでした」
また泣きそうな顔をしながら、深々と頭を下げる新谷さん。
何を謝る必要があるものか。
「顔を上げて新谷さん。確かに君が一回リセットしたせいで僕は君に恋に落ちた。それで告白できなくて、後悔してこんなことになってしまっているけど、僕はそれがありがたいんだ。ちゃんと告白できたし、君が僕を好きなことが分かったことが嬉しいんだ」
「……荒巻君」
残念なことがあるとすれば、彼女の気持ちに早く気付いて、僕が男らしく告白できていれば、彼女は二回目のリセットなんてしなくて済んだという点である。なんとも自分が情けなくなる。
「ごめんね。二回もリセットさせちゃって、もう君に後悔なんてさせたくない。だから……僕と付き合いませんか?」
二回目の告白になってしまったが、あとは彼女の返事待ちである。
暫くの沈黙ののち、新谷さんはニコッと笑った。
「断る理由がありません。よろしくお願いします」
こうして僕らは入学式早々に付き合うことになった。入学式の日に出来たカップルとしてクラスメート達から囃し立てられたりもしたが、僕等からしたら付き合うまでに、およそ六年かかっているのだから大恋愛である。
これから二人で後悔の無い青春を送って行くと心に誓った。
青春リセット~ハッピーエンドにする為の時間~ タヌキング @kibamusi
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