青春リセット~ハッピーエンドにする為の時間~

タヌキング

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 僕の名前は荒巻あらまき 太一たいち。只今、テーブルに置かれた卵の目玉焼きと睨めっこしながら、自分の今置かれている状況を考えていた。


「太一、朝ご飯食べちゃいなさい。もう、今日から高校生なんだから、しっかりしなさい」


 などと母さんから言われているが、昨日、僕は高校を卒業した筈なのだ。

 一体全体何が起こっているのだろう?もしかして高校生活自体が僕の見ていた長い長い夢だったとか?

 いや、それはない。あれだけリアリティかつ長い夢は見ないだろう。それに好きだった人が夢の住人だったなんて悲し過ぎる。

 そう僕には好きな人が居たのだ。三年間も同じクラスだったのに、とうとう告白することが出来なかった。そのことを昨日寝る前に深く後悔して床に就いたのだが、朝起きると、どうにも部屋の様子がいつもと違う。物の配置がいつもと違ったり、買ったものが無かったり、捨てたものがあったりと、僕を混乱させた。

 カレンダーも2021年だし、携帯もスマホからガラケーに戻っている。それで真新しい高校の制服を見た時、僕はもしかして三年前の入学式に戻っているのではと考えた。そうすれば全てに説明が付くのである。

 あまりに荒唐無稽な話なので、考え付いたものの100%信じたわけじゃないが、本当に戻ったとしたなら、大学受験をもう一度受けてもお釣りが来るレベルである。 いや別に高校生活が特別楽しかったというワケじゃないが、やり直せるということは、あの子に告白することが出来る。それだけで心が晴れやかな気持ちになった。


「いい加減にしなさいよ。早く食べなさい」


 母が鬼の形相で僕のことを見てきたので、僕は大慌てで朝食を口の中に詰め込んだ。



 さて登校してみたものの、やはり入学式だ。

 パイプ椅子に座って校長の長い話を聞きながら、僕はチラチラと想い人である新谷しんたに 由里亜(ゆりあ)さんの顔を見ていた。流石に三年前ともなると幼くなった気がするが、知的な横顔が僕の胸をキュンキュンとさせた。

 僕が恋に落ちたのは一年生の五月の時、彼女が僕の消しゴムを拾ってくれたのである。ただそれだけなのに、拾ってくれた彼女の顔がニコッと笑っただけなのに、僕はいとも簡単に恋に落ちてしまった。

 それからというもの、彼女のことばかり目で追ってしまう日々だった。しかし元来の奥手である僕は、球技大会、体育祭、文化祭、修学旅行と数々のチャンスを不意にして、結局のところ高校三年間で彼女と笑いながら言葉を交わすことさえ出来なかった。それが自分でも情けない。

 情けないと思うから、僕は一大決心をした。入学式の今日、今日告白しようと思う。だって、もしかして今が夢かもしれない。起きて深く溜息をついて落ち込むぐらいなら、告白をして玉砕した方がマシである……けど本当に高校一年生に戻っていたとして、ここで告白に失敗すると高校生活が灰色になってしまうのでは無いだろうか?……何をいまさら悩んでいる僕。それにどの道、灰色に少しピンクを混ぜた様な高校三年間だっただろうに、それが灰色になったところで何も変わらんよ。

 というわけで僕は、下校の時に一人帰ろうとしていた新谷さんに声を掛けた。


「あの新谷さん。少しお話良いかな?近所の喫茶店でお茶でもどう?」


「えっ……?」


 戸惑う新谷さん。当り前だ、今のところ僕と新谷さんに絡みは無い。消しゴムすら拾ってもらってないのである。それなのに喫茶店に誘うなんてアグレッシブにも程があると自分でも思う。

 ちょっと恋の暴走特急気味だが、僕にも三年間貯めに貯めた想いがあるわけで、覚悟を決めた今、止まる事なんて出来なかった。


「わ、分かりました」


「えっ?良いの?」


 あまりにもあっさり了承されて、僕は右の頬を抓って夢じゃないかと確かめてみたが、ちゃんと痛いので夢じゃないみたいだ。そういえば高校一年生に戻ってから、一度も頬を抓ろうとしなかったな。

 こうして僕たち二人はMaryという喫茶店に入ると、店内は良い感じに薄暗く、内装や置物がレトロであり、雰囲気のあって落ち着ける空間だ。ここなら良い告白が出来そうである。そうしてマスターと思われる白髪頭の老紳士が奥のテーブル席に案内してくれ、僕らは向かい合う様に座った。そしてコーヒーを二つ注文して、マスターが厨房の方に引っ込むと、二人っきりの空間が出来上がった。

 冷静になって考えてみると、初対面の人と向かい合って座るなんて新谷さんは怖く無いだろうか?そういう配慮が僕には全く無かった。これは反省すべき点である。


「ごめんね。急に誘って。ロクに知りもしないのに怖いよね」


「……いや別に、ただ驚いただけだから」


 気を使ってくれているのだろうか?それとも本当なのだろうか?僕に判断が付かないが、このままコーヒーを待ってから告白するのがセオリーだろうが、またしても僕の恋の暴走特急が走り始めた。


「あ、あの新谷さん。好きです。もし良かったら僕と付き合って下さい」


 単刀直入、猪突猛進、様々な言葉が当てはまるが、自分でもこんなにストレートに告白するなんて思いもしなかった。高校三年間で告白できなかったのが嘘の様である。


「えっ、あっ、へっ?……そんなバカな」


 ほらほら彼女も戸惑いに戸惑ってる。いきなり告白なんて愚かにも程があるだろ。あーもう、一回朝からやり直したい。

 すると、ここで彼女に異変が起きる。いきなりシクシクと泣き始めてしまったのである。きっと僕のせいだ。


「ごめんね……いきなり告白なんてして、怖かったよね?」


「……違うの。そうじゃないの。ただ、ごめんなさい」


 ごめんなさい。その言葉が僕の心に突き刺さった。そうだよな、今日会ったばかりだもんな。そりゃ断るよな。消しゴムも、もう拾ってくれないよな。

 何だか僕も泣きたい気持ちになって来たが、彼女はこう続けた。


「こ、これも違うの。このごめんなさいはアナタを巻き込んでしまったことに対してのごめんなさい」


 ん?どういうことだろう?

 するとココで彼女からとんでもない爆弾発言が飛び出した。


「荒巻君、君は高校生活をリセットしてるよね?私もそうなの」


「えっ?……えぇええええええええええええ⁉」


 店内に響き渡る僕の声。物語はもちろん続くのだ。


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