最終話 マスター卒業
「お願い? うん、いいよ。マスターが卑怯なことした責任は召喚士の私にあるからね」
ミュウのヤツ、根に持ってやがる。しかし、レミリアはいったい何を要求するつもりなんだろうか。
「ありがと。実はね、あなたが優勝して手に入れた送還魔法の巻物を譲ってもらいたいのよ。いいわよね?」
レミリアが強気にミュウに要求する。ミュウの勉強は順調だから、自動で
「全然かまわないぞ」
元の世界には戻りたいけど、今更急いだところで大した差はないからな。母親を想うミュウの気持ちを無下にすることはないだろう。
「って、ことだから。うん、いいよ、お母さん」
「ありがと、助かるわ」
ミュウは運営から受け取ったばかりの巻物をレミリアに手渡した。
「でも、どうして送還魔法が必要なの? だってお母さんは私の召喚魔法の師匠で、だから送還魔法も使え……あ。もしかして、お母さんは召喚魔法を使えないの? だから、その巻物が必要なの?」
「ええ、そうよ。だって文字が読めないもの」
そりゃそうだよな。レミリアが文字の読み書きができるなら、ミュウに教えてたはずだもんな。じゃあどうやって日記を書いたんだろう。話した言葉を日記にできるような魔法とかあるのか? まあそこは突っ込まなくていいか。
それにしても、なんて堂々とした態度なんだ。文字が読めないという事実を伝えているのに、恥ずかしさなんて微塵も感じていないようだ。流石はミュウの母親だ。娘とは一味違うってか。
レミリアは文字が読めないから、この大会に優勝して巻物をゲットするつもりだった。それを娘に阻止されるとは。運がいいのか、悪いのか。
「でもどうして送還魔法が必要なの? 鳥さんと仲が悪そうには見えなかったけど……」
「実はね。私には召喚獣が二体がいるのよ」
なんだって!
って、ことはだ。召喚獣が二体ということは、補助魔法の効果も半分になるってことだよな。そんな不利な状態で、カメとほぼ互角に戦っていたというのか。ミュウとシャイラの師匠になっていただけのことはある。そう考えれば、へたれのミュウが凄まじいポテンシャルを持っていたことにも納得だ。
「この子ともう一人、人間型の召喚獣がいるのよね。その人を還すのに必要なのよ。だから、あなたが譲ってくれてとても嬉しいわ」
「そうだったんだ……。それで、その人は今どうしてるの?」
「待て! それ以上聞くんじゃない!」
嫌な予感がビンビンするんだ。だが俺の必死の叫びは届かず、レミリアは爆弾を投下していく。
「実はその召喚獣が私の浮気相手だったのよ。でも一緒に逃げたのはいいけど、だんだん上手くいかなくなってきてね」
あまりの事実にミュウが呆然としている。レミリアはそれに気づかず、告白を続けていく。残念ながら、俺にも咄嗟に動けるほどの気力は残っていなかった。
「だから次の相手を召喚しようと思ったんだけど、流石の私でも三体目は無理だったわ。それで送還魔法を手に入れる必要があったのよ。そうすれば余裕ができて、次の召喚獣を呼び寄せられるからね」
「お、お母さん。なんてことを……」
「ミュウ。覚えておきなさい。浮気するなら召喚獣。後腐れなく一時の出会いを楽しめるわ」
レミリアは言いたいこと言うと、巻物片手に満足そうに立ち去っていった。俺たちは追う気力もなく、その場に立ち尽くしていた。
「さ、災難だったな、ミュウ。でも父親の件は片付いたんだ。あとは勉強を進めて送還魔法を習得しよう」
「そ、そうですよね。お母さんに新たに召喚されても、相性が悪ければすぐに送り返されるから大丈夫ですよね。私たちは普通の生活に戻れますよ」
ミュウの混乱はまだ続いているのだろう。普段なら絶対言わないことを口にしている。
「そうだな」
「って、そんなはずないじゃないですか! 見えますか、私の同僚のなんとも言えない表情が! それに他の観客たちがばらすに決まってますよ! それなのに、明日からなんでもないような顔して元の生活戻れるわけないじゃないですか! そんなの絶対に無理です!」
「そ、それじゃあ、どうするっていうんだ?」
「そんなの決まってます! 旅に出るんです。私たちのことを知らない街まで」
「いや、せっかく街での暮らしに慣れたし、もうちょっとで勉強も終わるから――」
言い終える前にミュウが被せてくる。
「もちろん、一緒に来てくれますよね?」
ミュウの圧倒的な威圧感に、思わず敬礼してしまう。
「イ、イエス、マイマスター!」
……ハッ!?
俺は何を言ってるんだ。俺がマスターだったのに、自然に叫んでしまったぞ。
しかし、自分たちのことを知らない場所までの旅か。長い旅になりそうだな。でも、まあ、ここで別れるのも心配だったし、ちょっとぐらいミュウとの付き合いが長くなってもいいかな。
へたれ美少女に異世界召喚されました。えっ?召喚獣なのに俺がマスターでいいんすか? 犬猫パンダマン @yama2020
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