第63話 冒険者仲間が、できました!
「道中の護衛は任してくんな!」
「イヤイヤ、ボクモチャントスルカラ」
「いいニャいいニャ!アチシらに任せるニャ!」
「そう、なんなら寝ててもいい、おんぶして運んであげるから」
「ソレハサスガニ……」
うーん、とっても賑やか。
街の外で、魔物が出るかもしれない場所とは思えないほどキャッキャしている。
「いーてんき!おやびん、いーてんきぃ!」
「ソダネー……ホント、イイ天気」
「絶好の冒険日和でやんす!」
ウッキウキのアカとロロンに微笑ましさを感じ……ボクは、目的地である岩山を見つめるのだった。
さて……黒曜ゴーレムだけは出てこないでね!!
・・☆・・
自分以外のむしんちゅ、ゲニーチロさんと初めて会った翌日。
ボクたちは、ターロさん……いや、ターロ一行と街の外へ出ている。
なんでかって?
朝ご飯を食べていたら、ボクの紹介によって昨日の夜から【妖精のまどろみ亭】の新規宿泊客になった彼らに声をかけられたんだ。
『いい儲け話がある。以前のお礼も兼ねて一緒に仕事をしないか』ってね。
字面だけ見ると完全にサギっぽいけど……そこはそれ。
ボクらに結構な恩義を感じてくれているらしいターロ達だ。
そんなに心配はしていない……油断もしていないけどね!
さて、そんな今回の仕事内容は……なんだっけ?
『むっくん……貴重らしき鉱石の回収、でしょう?』
あ、そうだった!!
先日、ボクがヒイヒイ言いながら黒曜ゴーレムと戦っていた場所。
どうやら、ゴーレムくんが破片スプラッシュで大暴れしていたおかげ?で岩肌が崩れて……よくは知らないけど珍しそうな鉱石が取れるらしいことが分かったのだ。
これは、現場に忘れ物をしたターロがそれを回収しに行った時に気付いたらしい。
ボクにもお裾分けというか、山分けをしてくれるんだそうだ。
「へっへっへ、怪我の功名って奴だぜ!」
「こら、ムークのお陰ってことを忘れないの」
「わーってるって!感謝してますぜ!ムーク様よぉ!」
「キ、気ニシナイデ」
ちなみにボクがため口なのは、彼ら全員にそうお願いされたからだ。
『気安くしてくれ』ってね。
ボクの方が絶対に年下なのに、ため口じゃないと返事しないって言われたから仕方なく……あ、ロロンは『性分でがんす!!』で押し通してた、強い(確信)。
「おやびん、まもの、いない、いない!」
「ソッカソッカ」
アカ、最近偵察というか索敵が上手になってきている。
ボクもロロンも基本的には空が飛べないので、本当に助かるなあ。
「ソウイエバ……ターロ達ハ、兄弟カ何カナノ?」
今更だけど、皆さんどういう関係なんだろ。
「あにゃ、前に言わなかったかニャ? 親戚ニャ、親戚」
「そう、親戚」
あー、そういえばなんとか族とか言ってたな、ターロ。
「それぞれのオヤジが兄弟なんだよ。ま、腐れ縁ってやつさ」
えっと……イトコか!
「ヘエ、親戚同士デ冒険者シテルンダ。イイネ、ソウイウノ」
「まあ、村じゃ同年代の若いのは俺らしかいなかったからなあ……とにかく村から出たかったんだよ、そのためには冒険者が一番手っ取り早かったんだよな」
なるほどお……住んでいる田舎から出たいっていうのは、どこの世界の若者も一緒なんだねえ。
地球でもそういうの、よくあるって聞いたような気がしないでもない。
例によって記憶がないのでフワフワ虫です。
「ロロンも、そうでしょ?」
「んだなっす!一生砂漠で終えるのはちくっと早すぎでがんす!」
マーヤの質問に、ロロンがニコニコを答えている。
たしか……渡世流しだっけか。
彼女も外の世界が見たかったんだねえ。
『そんな旅の途中でむっくんに命を救われた、というわけですね。ああ、うら若きアルマードの情緒を無茶苦茶にして……責任はしっかり取りましょうね?』
なんか言い方に違和感がある。
命は助けたかもしれないけど、情緒にはノータッチでしょ!ボクは!!
『おやびん、まえ!まものーっ!』
「ム!正面、魔物!!」
上空の頼れるアカから念話。
ボクは聞いたソレを口に出し、背中から黒棍棒を引き抜いた。
ポコさんたちに色々教えてもらったから、運用方法もわかった!
魔力を流して……殴ればいいんでしょ!
『蛮族虫ですね』
うるさいやい!
ボクも今そう思ったケド!
「おう、任せときなァ!」
ターロが斧を振り上げ、前方の林に向かって突撃を開始した。
猪突猛進、猪突猛進すぎる!!
「――おうらぁッ!!」「ゲゥッ!?!?」
ボクも何かしないと……と、思った瞬間には。
林からひょっこり顔を出した小汚い犬、じゃなくて狼の脳天に投げられた斧が突き刺さっていた。
な、なんというワザマエ……コントロールが凄い!
「新手かァ!」
だけど、狼は群れるもの。
林の奥から続々と現れる新顔!
「ムーク、そのまま立ってて、ね」
え?と思った時には……トトン、と体に軽い衝撃。
マーヤが、ボクの腰と肩を足場にして――空中へ高く飛び上がった!
うわっ!?す、凄い!まるで軽業師――ヒャァァア!?!?
『こら!むっくんの助平虫!』
だ、だって!だってだって!
あんな風に飛び上がったら上見ちゃうじゃん!
マーヤのスカート丈のことなんか考えてないもん!
な、中身のことなんか知らないもん!!
セクシーな紐のことなんか知らないもん!!!!
『まあ、獣人の方々は動きやすい格好を好みますからね……仕方ありません、今回は不問とします』
ゆ、許された!!
「――にゃっ」
ボクの内心の葛藤を知らず。
跳躍の頂点で、マーヤが軽く両手を振った。
空中に何かが煌めいたと思ったら……
「ギャンッ!?」「ギャガッ!?」「ギュアッ!?」
ニンジャが使いそうな細長いスローイングナイフが、狼たちの頭にザクザクと刺さっていく。
うっす!?薄すぎでしょあの投げナイフ――うおっとォ!?
「っと、ありがと」
マーヤが空中から帰還し、ボクの両肩に着地。
……今度は絶対に上を見ないぞ!
つくづくボクが表情が読みにくいインセクトフェイスでよかったよ!
「アチシにも残しとけ、ニャ!」
ボクの横にいたミーヤが、右手を握り込んだまま伸ばし――親指を弾く。
「ァオッ!?!?」
すると、最後に残っていた狼の喉に穴が空くのが見えた。
何か硬いものを弾いたらしい。
コレ知ってる!『指弾』とかいうやーつでしょ!!
……この方々、それぞれ凄いなあ。
「じゃじゃじゃ……我々の出番が……」
槍を構えたロロンが言うように、林から出てこようとした狼くんの群れがあっという間に全滅した。
いくらそんなに強くない魔物だっていってもさ……鮮やかすぎる。
「おやびーん、もういない、いない~!」
偵察機と化していたアカが戻ってきた。
……あの、そろそろ降りてくれませんか、マーヤ。
このバランス感覚……流石は猫と言うべきかな。
でも絶対に見ないぞ、上は見ないぞ!!
ううう……しばらくマーヤをまっすぐ見れないかも。
ボクに人間みたいな眼球が無くってよかったよう……
『思春期ですか』
……第二次成長期にはまだ10年以上あるんじゃないかな?
・・☆・・
「ホラ、見てみろよコレ!」「オー……」
色々と衝撃的なことはあったけど、その後は何事もなく……先日の採石場的な空間にたどり着いた。
あの時はそんな余裕なかったんだけど、こうして見ると特撮の撮影に使えそうな場所だねぇ。
「おやびん、きれー!きれぇ!」「ソダネー」
黒曜ゴーレムが好き勝手に飛ばした破片が、そこら中の岩盤に突き刺さっている。
その中の一つに、他にはないモノがあった。
突き刺さった破片と岩の間に……赤い光がチラチラと見えるんだ。
頭の上のアカがピョンピョン跳ねて興奮している。
「ちょいと端を削ったのがコイツだけど……わかるか?」
ターロが赤い石の欠片っぽいものを差し出してくる。
おお~!なんだこれ!
赤い石なんだけど、光が通過したところが虹色に光ってる!?
トモさんトモさん、コレ知ってる?!
『ふむ……魔力を流してみなさい』
「チョット、イイ?」
「おう、見るからに宝石の原石だと思うんだが……俺たちゃそういうのに疎くてな」
ターロに渡された石に、軽く魔力を流す。
すると、虹色の光が一層輝きを増した!
ふおー!これ、部屋でやったらプラネタリウムみたいに使えそう!
いいインテリアだね!
「じゃじゃじゃ!?この光は……まさか、【セヴァー】でやんすか!?」
ロロンが驚いている。
せ、せばー?
『やはりそうですか……【セヴァー】とは、極めて魔力変換効率の高い宝石の一種です。簡単に言いますと、魔力のブーストを可能にします』
ぶーすと?
『増幅ですね。むっくんで例えれば……この宝石を触媒にした場合、ごく弱い衝撃波でも電磁投射砲レベルまで増幅することが可能です』
マージで!?
すっご、無茶苦茶凄い宝石さんじゃん!!
これはさぞかし高い宝石なんでしょうな~!?
リターンが少なかった黒曜ゴーレムくんの補填になるね、それは!
早速掘り出そう!そうしよう!!
「【セヴァー】ニャ!?えらいことニャ!」
「まさか、こんな所にあるなんて……」
マーヤミーヤも驚愕している。
やっぱり貴重なモノなんだ!
こうしちゃいられな――
「あああ!なんてこったァ!!畜生!!」
ターロが急に頭を抱えて、地面に蹲った。
……なんでェ?
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甲蟲転生 ~虫モチーフのヒーローが好きだとは言ったけど、虫にしろとは言ってないよォ!!森を出ましたが、ボクの無双はいつですか!? ~ 秋津 モトノブ @motonobu
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