第11話 守る者

 天汰は人器を拾った。


「天汰、ここから上まで少し歩く、俺に乗れ」


 ゴクは天汰を背負い込み、ここに来るまでに通って来た道を歩く。


「ゴクさん、どうして僕が捕まってるってわかったんですか?」


「近衛兵に聞いたんだ、お前が数日、城に帰って来ないってな、師匠と居るんだろうって思ってたがある時、宿の酒場である奴に聞いたんだ


『これからこの街に数十体の魔物を囮に大規模な強奪がある』


ってな、そして首謀者がダン・デービーって奴だってその名前を聞いて真っ先にお前の顔が浮かんでソイツを脅して聞き出したんだよ」


「そうだったんですか……ゴクさんには助けられてばかりだ……」


 天汰を背負ったゴクは薄暗い細い道を通ってところどころ破壊された壁を抜けていく、そして長い階段を見つけその奥のドアから微かな光が漏れていた。


(外だ……)


 階段を登りドアを開け外に出た、すると人々の悲鳴が聞こえる。


「助けて!」「誰か来てくれ!」「おい!こっちに人がいる!」「急げ!」

(何だよ、これ?)


 天汰とゴクの目の前には崩壊した建物と逃げ惑う人々がいた。


「数時間前、魔物たちが暴れ回ったんだ。」


 (魔物たち?……『それより、魔物はどのくらい集まっているんだ?』『この前の猪は逃げやがったから残りはゴブリン10体とオーク3体だ』『少ないな、もっと集めといてくれ』狙いはこれだったのか!)


 天汰を背負ったゴクは、崩壊した街の中を進む。


「ゴクさん!あれ!」


 天汰は指を差した。その方向にはオークに襲われている人たちがいた。


 彼らはそれぞれの人器を変形させオークの攻撃に耐えていたが彼らの人器はスコップや手のひらサイズの金槌かなづちくわなどの戦闘向きでないものばかりだった。


「天汰、少しここで待ってろ!」


 ゴクは天汰を道の端に降ろした。

 そしてゴクは勢いよく飛び出し一瞬でオークの頭上に現れた。


(速い!)


 そして棒を振り下ろしオークの脳天に一撃を加えた。オークは白目を剥いて倒れた。


「大丈夫か!おっさんたち」

「ああ、誰だか分からんがありがとう!」

「怪我をしてる奴がいたら”ぬくもりの宿”に迎え!回復薬がある!」※”ぬくもりの宿”は女将さんの宿の事。

「ぬくもりの宿か、よく風呂入りに行ってる!ありがとう、にぃちゃん!」


 ゴクは天汰の所へ帰ってきた。


「俺たちも宿に向かうぞ」

「はい」


 再びゴクは天汰を背負い歩く。


「これって街中で起きてるんですか?」

「そうみたいだ、ダンってやつの狙いは何なんだろうな」

「それは、きっと”城”ですよ」

「城?」

「奴が僕の師匠になったのは多分、城の構造を調べるためです」

「そうだったのか……」

「魔物の襲撃が数時間前でさっきアイツが僕らの前に現れたってことはもう目的のものは手に入れたんでしょう」

「アイツの狙いは何だったんだ?」

「それは僕にもわかりません」

「そうか、なら引っ捕らえて正解だったな!」

「はい!あ、そういえばアイテムボックス盗られたんだった……」

「アイテムボックス?これのことか?」


 ゴクはアイテムボックスを取り出した。


「え?なんで持ってるんですか?」

「アイツを縛ってる時、くすねた」

「盗んだんですか?!」

「もう俺のだ」

「全くあなたは!良い人悪い人どっちなんですか!」

「俺は俺だ!」

「あっそれ僕のなんで返してください」


 天汰はゴクからアイテムボックスを取り上げた。


「あ!お前!ずりぃぞ!」

「これは元々僕のです!」

「くそ〜良いもん拾ったと思ったのに……」


 ゴクはしょんぼりした。


 女将さんの宿へ行く途中、突然、天汰たちの目の前に一体のゴブリンが現れた。


「ゴクさん!ゴブリンが!」

「ああ、ちょっと待っ……」


 ゴクは突然天汰を背負ったまま倒れ込んだ。


「え……」


 天汰はゴクの背中から急いで降りた。


「ゴクさん!ゴクさん!どうしたんですか!」


 応答がない、ゴクの顔色が悪い。


 天汰は思い出した。


(あの時、アイツに脚を斬られた時だ、その時の毒が効いてきたんだ……ここは、一人でやるしかない!)


 天汰は人器を取り出した、空腹を我慢し倒れ込んだゴクを背にゴブリンの前に立った。


「この人はやらせないぞ!」


 ゴブリンは天汰に向かって走り出した、それに反応して天汰も前に出た。


「ウオォ!」


 天汰は短い棒じんきをゴブリン目掛けて振りゴブリンに一撃を加える。


 よろけたゴブリンは体勢を立て直し反撃をする、天汰は見事にそれを避けゴブリンに二連撃を加える、ゴブリンは倒れ込んだ。


(何でだろう、なんか僕強くなってる!)


 ゴブリンは立ち上がり大きく息を吸い込んだ。


(何する気だ?あっこれは前に見たやつだ!確か……仲間を呼ぶやつ)


 天汰は両手でしっかりと棒を持ちゴブリンに向かって飛び出した。


「させない!」


 天汰は大きく振りかぶって下から上に棒を振り上げゴブリンの顎に一撃を加える。会心の一撃だ。

 ゴブリンは円を描くように宙を舞う。


 (よし!)


 ゴブリンは立ち上がり癇癪かんしゃくを起こした子供のように吠え、爪を立て天汰に向かって走り出した。


 (まだ立ち上がるのかこいつ!)


 ゴブリンは飛び出し天汰の腹に向かって爪の攻撃。

 天汰は間一髪で避けた。

 そして、ゴブリンの爪の連撃。

 天汰は持っている棒で爪を受け防ぐ。


(前みたいにやられないぞ!あの日からイメージトレーニングしてたんだ!)


 天汰はゴブリンとの攻防を繰り返す。


(急がないとゴクさんが毒で死んでしまう!空腹なせいか決定的な一撃が加えられない!)


 その時、ゴブリンの一撃で天汰の短い棒じんきが後方に飛ばされる。


「しまった!」


 天汰は倒れたゴクを背に追い詰められた。

 天汰は視線を後ろに向け人器の場所を確認する。


(人器は僕の後ろの方にある、人器を取り行ってるうちにゴクさんがやられる可能性だってある、素手で相手するべきか、どうするべきだ……)


 しかし、天汰が考える暇などなくゴブリンは天汰に向かって飛び出した。


(まずい!)


 その時、天汰は咄嗟にゴクの持っていた赤い棒を手に取り、ゴブリンの攻撃を防いだ。赤い棒にゴブリンの爪が擦れる。


(他人の人器が使える?どういうことだ?)


 ゴブリンはすかさず連撃をする。


 天汰は赤い棒で全ての攻撃を防いだ。


(前に、試しに兵士さんの人器を持たせてもらったとき腕に痛みが走って持つことさえできなかった、なぜこの人器は持てるんだ……これって本当に人器なのか?)


 ゴブリンが大きく振りかぶって天汰に再び攻撃をする。天汰は攻撃を防いだが一瞬よろけた。


(考えてる暇はないみたいだ、そろそろ体力の限界かもしれない、早く終わらせないと!ゴクさんこの棒どうやって使ってたっけ……)


 天汰はゴクの真似をして棒を構えた。(こんな感じか?)


(確かこんな感じで……)


 天汰は棒を直線に突き出しゴブリンの眉間に一撃を加える。


 ゴブリンが怯む。


(当たった!そして次はこんな感じで……)


 そして怯んだゴブリンに天汰は片足を前に踏み込むと同時に棒を下から上に振り上げゴブリンの顎に追撃を加える。ゴブリンは宙を舞う。


(そして最後にタイミングを合わせて……)


 天汰はゴブリンが落ちてくるタイミングで棒を振った。


「あっ」


 が空振った。


 しかし、ゴブリンは頭から地面に落ち動かなくなった。


「やった!やったぞ!」


(初めて魔物を倒した!)


 天汰はハッとしてゴクの元に駆け寄る。


「ゴクさん!しっかり!」


 ゴクの意識はない。


 天汰は飛んで行った人器を回収して、痩せ細った体でゴクの体を起こし痩せ細った体でゴクを背負った。


(重い!腕が千切れそうだ……でもやるしかない!)


 天汰は痩せ細った足で一歩一歩前へ進む。


 途中、膝をつくことはあったが懸命に宿まで歩いた。


 そうして、数十分歩くと女将さんの宿が見えてきた。


(あともう少しだ)


 天汰はダラダラと汗を流し息も荒い。


 <宿に着く>

 宿にはたくさんの兵士とたくさんの怪我人が訪れ大忙しだ。


(こんなに怪我してる人がいるなんて……)


 そして、女将さんを見つけた。女将さんは怪我人の対応で忙しそうだった。

 ゴクを背負った天汰は疲れ切った足で女将さんのところへ向かう。


「女将さん……女将さん……」


 か細い声で女将さんを呼ぶ。


 気づいた、女将さんは大慌てで天汰に駆け寄った。


「天汰くん!ゴクちゃん!まぁ大変!兵士さん!ちょっと運ぶの手伝ってくださる!」


 女将さんの声に気づいた兵士は駆け寄り天汰が背負っていたゴクを兵士が背負い、天汰は女将さんに背負われた。


「兵士さん!この子たちを上の部屋まで運びます、着いてきてください!」「了解しました!」


 天汰とゴクは、宿のゴクの部屋まで運ばれそれぞれのベッドに寝かせられた。


 そして女将さんは天汰に尋ねた。


「天汰くん、一体何があったの?」


「後で説明します……それより……ゴクさんは……毒に……侵されています、解毒剤を……」


 天汰はか細い声で説明した。


「あらま!」


 女将さんはすぐに解毒剤を取りに行った。


 (僕も意識が……眠くなってきた……)


 女将さんは大慌てで大量の瓶を持って戻ってきた。


「天汰くんはこの栄養剤を飲んで!」


 天汰は瓶に入った青い液体を渡された。


 天汰は栄養剤を飲んだ。空腹感が治り眠気も少しだが治った。


 女将さんはゴクに薄い紫色の液体を飲ませる。


 すると、ゴクの顔色が徐々に良くなっていく。


「これで良し!」


 女将さんは安心した顔で言った。


「それで何があったの?天汰くん」


 天汰はダンに捕まってからのことを女将さんに話した。


 ……………………



「まぁなんて酷いことを……」


 女将さんは涙ぐんだ目をして天汰の手を握った。


「もう大丈夫よ、あなたは生きてる辛かったわね、もう寝なさい、起きたら美味しいミートパイを作ってるから」


「ありがとうございます……」


 その言葉に安心したのか天汰はすぐに眠りについた。

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