死 恨  しら

イタチ

おわり

「ハンマーで、眉間を、叩きましょう

相手のことを考えるなら、強いつからで、苦しまないように」

机の上に、死体が寝ている

先ほど先生が、縛られた男の額に、ハンマーを、振り下ろしたのだ

小さな、金槌ともいう

ホームセンターで、五六百円のそんな、小さな手に収まるほどのそれは

男のおでこに、丸い血液を、残し、殺したのだ

それぞれの机の上に、ぐるぐるに縛られた

ミノムシのような人間が、全部で、五人

一グループ五人なので、その中の誰かが、叩くことになるのあろう

それ以外は、ただ見ていることになる

「それでは、皆様方の復讐を始めましょう」

深夜の教室で、そんな声が、先生の口から聞こえた

周りの生徒は、決めていたのであろう

手に一人が、ハンマーを握っていた

老人、大の大人、子供、手には、ゴム付きの軍手が握られており

首からは

白いタオルが、かけられ

室温は、普通であるにもかかわらず、額からは、汗が、垂れようとしている

それぞれが、寝っ転がっている顔の上に、目を向ける

その黒い瞳が、覗き、見上げるのは

知った人であり、更には、今から殺される、それである

何年、何十年、もしくは、昨日、恨まれ人たち

その憎しみは、如何ほどのものだったのであろう

逃げようにも、指一本自由には、動かせない

千円以下のビニールのロープに、ぐるぐる巻きにされたそれは

ただ、ただ、死を、待っていた

本人の意思とは別に、その先にあるのは、一つの運命しか無い

「申し訳ありません」

一つの席で、教師を読んだ人たちが、頭を下げた

「すいませんが、私は、やはりできません、同じことをやるのは、いや、人間は殺しあうべきではありません

すいません、お金は、大丈夫ですので」

教師は、ハンマーを受け取る

「ありがとうございます」

一族が、頭を下げる横

何か鈍いどすんと言う音が聞こえる

教師は、頭を上げた彼らに言う

「すいませんが、一度、ここに来ていただいた方は、返すわけにはいきませんので、原則は、死んでいただきます、遺体もこちらで処理しますので」

渡された、説明書の説明を、彼女は、繰り返した

「申し訳ありませんが、規則は絶対です

破りますと、契約通り、あなた方も返すわけにはいかなくなりますので

原則として、我々が、処理するようにしています、悪しからず」

顔を見合わせるその机の横

一人の子供が、髭が、縄の向こうに、見える男の額の上に手を振り上げたのである

教室には、額から血を流す方々が、倒れている

失敗すると、それはうして、幾重に、顔がへこみ、眼球が、潰れ

唇に歯が刺さり顔面が頬の奥で、陥没しているが、ゆっくりと、みな、それでも、死に向かった

殆どが、練習通り、死なす事が出来た

それでも失敗したのは、わざとであろうか

授業が始まり、二時間が立つ頃、六名の遺体は、無事死に

お別れが終わった後、ばらばらと、部屋を、出ていく

その後ろでは、黒いゴム服を前進に纏った

マスク姿の人間が、まるで、葬式のように、入っていく

実際には、遺体の処理搬入を、担当しているのであろう

そのゴムの衣装に、白い文字で、処理の文字がかすれて見えた

「それでは、皆さまは、隣の部屋に移動お願いします

必要な事は、済ましているとは思いますが、最後になりますので、お願いいたします」

先ほどの先生が、廊下に出た彼らに、横の部屋を、手で示す

中には、何もなく、タイル張りの部屋には、椅子が置かれていた

「それでは、良い夢を」

お辞儀をする彼女の前を人が歩いて行く

老婆が一言

「後はお願いします、お手数ですけど」

彼女は、頭を上げると、にこりと微笑んだ

「はい、大丈夫です、あなたのお宅に、お返しいたします

ルールを、破らなければ、ここからは、お返しいたしますので」

白い部屋に、皆が、座ると、厳かに、扉が、閉められていく

呪いとは、人数であろうか、質であろうか、お金であろうか

その教室の横のガス室には、バニラの匂いの白い霧が、内部を包んだ

その甘い毒は、ゆっくりと、記憶を、終わらせていく

この世に、恨みがなかったように、白く白く

誰も、何かを恨んだ、記憶を、無かったように、最初から

恨みなど、存在しないように、消えていく

人の死は、人を、消していった

恨んだ人間も恨まれた人間も

最初からそこには存在しない

しかし、また明日も、ここでは、授業が、行われる事であろう

スケジュールも埋まっている

しかし、それらすべては、この世から、消えていく


全員が、死んだことを、確認されたタイルの中

先生は、一番前に行くと、全員を見渡し

一言「ありがとうございました」

と、頭を下げると、奇しくもいつも、死んだ人間はみな、頭を下げているように見える

身寄りのない彼らが、帰宅するのは、お墓の下である

丁重に運ばれていく、遺体を前に、彼女は、存在しない感情を、思う

そこには、存在しない

しかし、先ほどまで、明らかにあったそれを

その感情は、全く無意味だったのだろうか

何も言わず、運ばれていく彼らを、見ながら

彼女は教室を出た

奇しくも白い廊下は、まるで、意識を消されているように感じられる

自分の横を、ストレッチャーが進んでいく

彼らは、この世から居なくなる

失踪者だ

空白だ

白い遺骨で、秘密裏に、墓に納骨される

この世から、存在しないはずなのに、彼女の記憶には、黒く黒くこびりつく

何も感情に、なにはずなのに

その意識の中に

そして、伝えられても居ないのに

調べた、その怨念を、知って居る

割にあうのかは、分からない

しかし、需要が、そこには、存在しており

大金を払って、死ぬことに、意味を自分自身見いだせない

それでも、だからこそ、完璧を、目指している

しかし、白い廊下

自分が、どす黒い何かに覆われているような気がしてならない

この廊下は、白いはずだ、しかし、そのすべては、白くは見えない

黒を通しているように、全てが灰色に見える

自分を、蝕む様に、最初から、そこには、なにも存在していなかったのではなかろうか

私などは、最初から、消えている存在なのではないだろうか

それでも、明日も同じことが繰り返す

そのたびに自分の曖昧さは、二つの色に引き裂かれていくのであろうか

と彼女はそう思って居た



焼却場に白い骨が、姿を現す

白いそれは、人間の存在を、骨としてしまう

無機質でありながら、それは、そこに、存在する

意味のあるものとして

さて果たして、意味はあったのだろうか

その白い瞳は、なにも答えないのである

それでも、選んだ、それは、黒かったのであろうか

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死 恨  しら イタチ @zzed9

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