第7話 白聖歌学園

「この学園については、どのぐらい知っているんですの?」


学園内での散歩の途中、ルミス会長がそんなことを聞いてきた。まあ転入生に対して当然の疑問だろう


「1人では到達できない「奇跡の歌」を目指し、学園全体で1つの聖歌を奏でる…たしか、そんなモットーでしたっけ?」


これは、白聖歌学園のパンフレットの1ページ目に書かれていた創始者の言葉だ


「そうですわ。この学園は『共鳴シンクロ』に重点を置いていまして、基本的に2人以上のユニットを組んでもらうことになっていますの」


共鳴シンクロ…声や動きを周囲と同調させて、ステージに一体感を生み出す技能。私の得意の1つだ


ふっ…バレてしまうな。私の協調性の高さが!


「ああでも、白奏さんはユニットを組まないでくださいまし。巡礼期間が終わってしまったら、そのユニットに穴が空いてしまいますので」


「えぇ~…はぁい」


どうやら目立つ心配はなさそうだ。うん、よかったよかった。目立っちゃうところだったぁ~危ない危ない


「そんな怪訝そうな顔をしないでくださいまし。ユニットは組めませんが、誰とも歌うなとは言っておりませんわ」


「と言うと?」


「アイドル業に関連しないところでは、他の生徒と仲良くデュエットしても構わない、ということですわ」


「つまり…仕事やコンテストでなければ…?」


「基本、誰とでも歌って踊って構いませんわ。節度は守ってもらいますけども」


「ふっ…バレてしまいますね。私の協調性の高さが!」


「あなたの歌声、私も楽しみにしていますわ」



そんな会話や説明を聞きながら、ルミス会長に導かれるままに様々な部屋を案内された


普通の学園にある設備はもちろん。聖堂や懺悔室、古書館やグランドピアノの置かれている教会風のステージなどなど、普通の学園にはないような設備も見れた


そして、最後に案内されたのは生徒用の仮眠室。起こさないよう静かに扉を開けて中を覗くと、部屋の中にいる生徒は1人だけだった


その生徒の顔に見覚えがあったので、ゆっくりと近づいて確認してみる


凛とした顔立ち、青っぽいロングの髪、枕元に置かれているスマホに付けてる鯨のキーホルダー…


うん、間違えようがない。やっぱり青那先輩だ…


歴代最高のアイドルグループ『三原色』のライト担当。エレメントの「アイドルランキング」の「第3位」である、文字通りのトップアイドルの1人


私がボーッと青那先輩を眺めていると、ルミス会長が肩を触ってきたのだ振り返る。すると、ルミス会長が片目ウィンクをしながら指で「シーっ」としていた


そのまま、音を立てないように部屋を後にした。そして、私たちは生徒会室に戻ってきた


時刻は5時。そろそろ太陽が登り始めるかもしれないほどの時間だ。朝のホームルームが9時…あと4時間、何をしていよう


「コーヒーでも淹れますわよ。それとも紅茶の方がお好みでして?」


「あっ、コーヒーでお願いします。ミルクと砂糖も付けてくださいね」


「ふふっ、了解ですわ」


くっ、なんて姉力なのだろう。出会ってまだ30分とそこらなのに、この人になら全てをゆだねてもいいと思えてしまう。彼女の存在感アウラだろうか


存在感アウラとはアイドルが無意識に発動している魔法の総称。個性とも言い換えられる


他に、存在感アウラはステージ場で強く祈ることによって、自信の本質と個性、そしてその時の精神状況に応じた彩りイルミネーションを生み出す力もあり。目に見えてパフォーマンスに関わっている


しかし、まあ、この短期間でそう思わせるとは…流石、エレメントのアイドルランキング第8位は伊達じゃない。コーヒーを淹れる姿も優雅だ


私に見られていることに気づいて、ルミス会長は笑顔を向けてくれた。ファンサ、アザっす


ルミス会長は、2人分のコーヒーをテーブルに置いて、私の向かい側のソファーに座った


ルミス会長はブラックのコーヒーを一口飲む。カッコいい…そんなことを思いながら、私は角砂糖をコーヒーにポタポタと落としている


「それで、なにか質問はございますか? 私の答えられる範囲でなら答えますわ」


きっと、聞くなら今だろう…


「ああ、なら、ある生徒について教えて欲しいんですけども…」


「生徒…ですか。プライベートに関わることは言えませんわよ?」


「話せる範囲だけで十分です。それで、その生徒の名前は…聖傲 由奈黄です」


ルミス会長は、その言葉を噛み締めているかのように両目を閉じている。そして「あの方…でわね」と呟いた


「知っているんですか?」


「この学園ではちょっとした有名人でして…」


やっぱり! あれほど神々しい圧巻の歌を歌えるのだ、期待の新星とか呼ばれて囃し立てられているのだろう…


そう思っていた。しかし、ルミス会長の目を見た瞬間、そうではないのだと気がついた


「この学園は他者との共鳴シンクロによる協調によって高みを目指す学園なのだと、先程言いましたわね。しかし、彼女は…」


言い切る前に理解した。少し考えればそうなるのだと気がつけた。いつだって、高貴で絶対的な存在は…孤高なのだ


その考察を肯定する、ルミス会長の答えが耳に入ってきた


「聖傲 由奈黄は、この学園で唯一、ユニットを組んでいない生徒ですのよ…」




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彩りの巡礼譚 ワッフルEX @WaffleEX

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