第6話 天使の学舎

人は弱い生き物だ

1人では生きることができず、すぐに壊れる

それでいて、同じ人に対して期待をして、勝手に幻滅する。そんや酷い生き物だ


故に人は進化した。肉体的ではなく精神的に

心を騙す術を身につけた。誰かを利用する術を身につけた。自身の崩壊を暴力で他人に押し付けることを覚えてしまった


時代と共に人は進化し、より醜悪に理想の世界を作り上げていった…


各々が、他者に自分の理想を押し付け合う。その中で黒い感情を煮えたぎらせる。そして争いが生まれる


そんな今の人々が「心を1つに歌う」ことができると思っているのか?


確かに、表面意識を「合わせる」ことは可能かもしれないが、深層意識すら1つにすることが出来ると?


そんなのは…ただの『傲慢』だ



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白色のブレザー、白色のスカートとかいう白々しい制服に身を包み。私は髪も白色のため、他の色のアクセントとして緑色の羽を模した髪留めを付けてきた今日この頃


私は天使の学舎、白聖歌学園の校門を見上げていた


「おぉ…」


レンガ作りの巨大な門…圧巻だ。まさに金持ちが通う学園だ…入るのが憚られる…


しかし、入らずにここで止まっていては逆に目立ってしまう。目立ちは増長するものなので、そうなってしまえばおしまいだ


まあ、でも、巡礼者とかいう珍しい項目で編入するんだから、完全に目立たないなんて無理な話でもある


とにかく、今の私にできることは、さっさと校舎の中に入って生徒会長に挨拶をすることだ


ちなみに、学園長への挨拶には既にPが出向いていて、私は会う必要がないらしい。本当に私のPは過保護です


そんなことを考えて気を紛らわしながら、ずかずかと校舎を進んでいく私。朝早かったこともあり、1人として生徒とはすれ違わなかった


そして、生徒会室に無事到着。コンコンと2回ノックから「失礼します」で扉を開ける


ガチャ…


生徒会室の中は、中世の貴族の執務室を思わせるようなデザインとなっていた


部屋の隅に置いてあるティーポットは理解できる。壁に立て掛けられている2振の剣も、まあレプリカなのだろう


そして、巨大な窓を背に置かれている生徒会長用の超豪華な席…そして、そこで寝ている私服姿の少女…


この顔はパンフレットにも載っていた…名前は確か…


「ルミス会長…」


2年連続で白聖歌学園の生徒会長を担っている人物で、アイドルとしての実力もこの学園内ならNo.2とかなりの強者。この学園の歌声を束ねているアイドルだ


そして、そんな会長が、今私の目の前で無防備に眠っている。机には何枚か書類が置かれていた…作業の途中で寝落ちしてしまったのだろう


私は肩を揺すってルミス会長を起こそうとする。しかし、一向に起きる気配はない


「さて、どうしよう…」


出来心だとわかっているけど、止められないこともある。だって、目の前に母性とあどけなさを融和させた雰囲気のアイドルがいるのだから…


プニッィ


軽く頬っぺたを突っついてみた。1指だけだが柔ふわな肌だとわかった。これは、よく手入れされている…


「んッ…んん~?」


「あっ、起きました?」


「んぅ~…?????」


眠そうに目を擦りながら起き上がったルミス会長は、私と目が合うと一瞬時間が停止し、次第に瞳孔が広がっていき驚いていたのがよくわかった


「あなたは…白飢白奏さん?」


普通ならそこで叫んだりするところだが、流石は経験豊富な生徒会長、寝起きでありながら状況を理解してくれたらしい


「はい、『巡礼者』の白飢白奏です。はじめましてルミス会長」


「今、何時ですの?」


「えっと…」


私は部屋に置かれていた高そうな縦長の時計に目を向ける…


「4時27分ですね」


「そうですか…来るのが早くありません?」


「初登校で不安だったので、早く来ちゃいました♪ そう言うルミス会長は、こんな時間まで残ってなにを?」


わたくしは仕事を少々…半分ここに住んでるようなものですから、夜遅くまで作業ができるんですのよ」


「なるほど…」


確かにパンフレットにもそんなことが書かれていた。シャワー室や生徒用の寝室など、生活に必要な設備も備わっている…と


ルミス会長の今の私服は、きっとパジャマ代わりで着ているものなのだろう。ちょっとヨレヨレだし


宿泊にはあまり興味を引かれなかったが。会長のような多忙な人からしたら、結構便利なものなのかもしれない


まあ、そんなことよりも、本当にその口調ですわ~の人がこの世にいたことの方が気になっていたりする


「どうせ早く来たんですし、寝起きのお散歩も兼ねて、生徒会長直々にこの校舎を案内してさしあげますわ」


「本当ですか? 助かります!」


この時間ならほとんど生徒は居ないだろうから、ルミス会長と一緒に居ても目立たないし、由奈黄についても聞けるかもしれない


「わかりました、ちょっと待っててくださいね」


そう言うと、ルミス会長は慣れた手付きで机に散らばった書類をひとまとめにする


そして、壁に埋め込まれているタイプのクローゼットからカーディガンを取り出し、それを羽織る


まだ5月だが朝はそれなりに冷えるもので、私も若干来るまでは「寒いなぁ~」と思っていた


「それでは、行きましょうか」


こうして、まだ日が上りきっていない時間帯にルミス会長に校舎を案内してもらえることとなった

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