第5話 どんなアイドルになりたいか?
カオスがPによって鎮静化されピザによって復活した私は、少しだけ雨に濡れていたのをPに見抜かれてシャワーを浴びることになった
※迷子になったことまでは見抜かれていない
シャワー、ジャー…
ドライヤー、ウィーン…
お肌のケア、ぬりぬり…と
いろいろ終わらせリビングに戻ると、理強先輩とPは紅茶を飲みながら仲良く話していた。流石仲良し兄妹、普通なら入りずらいと思っちゃうかもしれない
けど、テーブルに置かれている私の分のティーカップを見ると、ほっとするし、安心する。私はここの輪に入っていいのだと
「シャワー浴びてきました」と言いながら席につく
理強先輩が紅茶をカップに淹れようとティーポットを手に取ろうとしたが、Pが先んじてポットを手にして私のマイカップに紅茶を注いでくれた
ナイスですP。理強先輩は間違いなく1回落とす
注がれた紅茶を1口飲む。ふぅ、と心が落ち着いた
「落ち着いたようだし、これからについての話をしようと思う」
「はい。確か…これから5つの学園を全て巡るんでしたよね?」
「ああ。そして、夏休みまでにユニットメンバーを、最低でも2人は捕まえてこい。エレメンタル・フェスティバルのためだ」
エレメンタル・フェスティバル…夏休みと冬休み中に開催される、年に2回しかないこの都市最大のお祭り
そして、この祭の目玉の1つ…全5学園の中で1番のアイドルを決める人気投票が開催される
出場は個人でもユニットでも可能。しかし、私の『アウラ』では1人で出場しても予選落ちでおしまいだろう
「夏休みまでに通える学園は2校。どこに通いたいかはお前が選べ」
そう言って、Pはそれぞれ5学園のパンフレットをテーブルに並べた
共鳴と神聖を象徴とする学園『白聖歌学園』
鼓動と本能を象徴とする学園『ヒップホップアカデミー』
理想と挑戦を象徴とする学園『全輝学園』
幻想と表現を象徴とする学園『劇団学園』
希望と奇跡を象徴とする学園『彩学園』
これらの資料は、ここの都市に来る前に一通り目を通しておいた。その上で、どこに行くかは決められていなかった
私の夢は「世界に希望を届けるアイドル」に至ること。しかし「どんなアイドルになりたいか」は自分の中でハッキリできていない
しかし、今日のあの出会いが良いきっかけとなった
「そじゃあ、この学園にしたいです」
そう言って指を指したのは、もちろん『白聖歌学園』のパンフレットだ
雨に包まれながら聴いた彼女の…聖傲 由奈黄の歌声。あの全てを圧倒する天使の歌声は、きっと私にとって必要になる
彼女は白聖歌学園の生徒だ。彼女に接触するために私は白聖歌学園に行きたい
「そうか…白聖歌学園か、わかった。最初は白聖歌学園ってことで、もろもろ処理をしておく。どんな学園かは理強から聞いていろ」
そう言って、Pはノートパソコンを開いて作業を始めてしまった。やっているのは必要な作業
愛嬌がないようにも思えるが、自分の部屋に戻らないあたり、なんだかんだだ私達のことが心配なのだろう
理強先輩もそれを理解しており、私と目を合わせてクスッと笑いあった。 Pもそれに気がついているはずなのに無視をしている。少し恥ずかしいのかもしれない
「えっと…白聖歌学園についてを話せばいいんだよね?」
「詳しいんですか?」
私の記憶の限りだと、理強先輩は「特権」を使い、どこの学園にも所属していない「フリー」のアイドルとなっている。最近は活動していないようだけど
「詳しいってほどじゃ、ないよ。けど、1年はこの都市で暮らしているし、青那のいる学園だしね」
「あぁ…なるほど!」
青那…とは最強アイドルグループ『三原色』の3人のメンバーの内の1人で、Pや理強先輩とは今でも交流がある友人の1人だ
Pも青那先輩がいる学園だから安心しているのかもしれない。自分の担当したアイドルを信じるのは、プロデューサーとして当然のこと、なのだから
「青那先輩がいるなら安心ですね。面倒見もいいですし。真面目ですから」
「そうかなぁ~? 青那は無自覚だけど結構目立っているし、あれは真面目でも生真面目の部類だよ?」
確かに、青那先輩が生真面目というのには同意する。だけど、私はあの真面目さを嫌だと思ったことがない。問題はもう1つの方…
「生真面目はいいんですけど、あまり目立ちたくはないんですよね」
やっぱりサプライズは大事なのだ。そのため、私は実力を極力隠しておきたい。Pの方も同じ方針のため、いろいろと画策してくれている
例えば、Pは確かに凄腕でプロデューサー界隈では有名だ。しかし、世間一般となってくると話が変わってくる
アイドルと違って「プロデューサー」という役職は目立ちにくい。そのため、最強のアイドル『三原色』は知っていても、それを担当した赤花選火という人間の名前は広がり難いのだ
しかし、それが「赤花選火」ではなく「三原色のプロデューサーだった人」となるだけで、一気に目立ち始めてしまう
そのため、今のPは名前を出さずに活動している。これも、Pが持っている『特権』の1つらしい
私が青那先輩に頼りきってしまうと、何かしらの関係を疑われてしまう。その矛先がPに向かうと、きっと迷惑をかけてしまう
「Pさん的には、青那先輩にはあまり頼らない方がいいですよね?」
「青那だって俺が育てたアイドルだ。そのあたりはアイツの方で上手く処理してくれるだろう」
「そうですか…確かにそうですね」
しかし、それでも迷惑はかけたくない。けど、完全に無視するのも失礼にあたる。結局のところ、青那先輩にはどうあっても頼ることにはなりそうだし…
うん。ここはPの言う通り、あまり気にしないことにしよう。私の周りの人達は優秀だから、なんだかんだでどうにかしてくれるだろう
「よし! 青那先輩に連絡、連絡っと…」
私はスマホを取り出して青那先輩にメッセを送ろうとアプリを開いた
『青那先輩!』
『白奏? どうしたの?』
『私、白聖歌学園に行きます!』
『なるほど。そういえば、今日が引っ越しの日だったわね。そして、巡礼の始めが私のいる学園と』
『そうです!』
『本当に困ったら私に頼りなさい。あと、あなたの都市入りパーティーは緑が帰ってきてからにしましょうね』
『はい! 楽しみにしています! ところで、緑忌さんはいつこっちに戻ってくるんですか?』
『エレメンタル・フェスティバルには戻るって言ってたわ』
『そうなんですね! やる気が出てきました!』
『頑張りなさい。それじゃあ、私は事務仕事が残っているから、そろそろ失礼するわね』
『はい! 事務仕事、頑張ってください!』
私はアプリを閉じて、スマホを机に置いた
「本当に困ったら、頼ってもいいらしいですよ」
「白奏ちゃん、それただのテンプレだよ」
「でも、青那先輩は頼りがいがあるので、その言質があるだけでも安心できるんですよ」
「おやぁ~? まるで頼りがいのない先輩が居るみたいじゃないかな~?」
「理強先輩は、本当の本当に絶望的な状況でしか助けてくれないじゃないですか」
「あと、面白そうと思ったときもだよ~」
「そういうところですよー!」
私はテーブルに置いていた理強先輩の腕をポコポコと叩く。理強先輩は「あははは」と笑って楽しそうだ
その後、理強の隣に座って、一緒にパンフレットを読み合わせた。わからないところは理強先輩とPが補完してくれて、スルスルと読むことができた
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