第4話 不幸少女と空腹少女
「つ…いた?」
私の目の前の質素な四角いビル。事前に渡されていた写真と同じ建物…
ここが目的地。今日から私の住む家・兼・事務所
私はエントランスを抜けて、エレベーターに乗り事前に教えられていた階層へ
その階は、私達の生活スペースに割り当てられている階で、引っ越しの荷物などもそこに送られる手筈となっている。もちろん、私のお金も
エレベーターを降りて、渡されていたカードキーを使い部屋の扉を開ける…すると、中には地獄が広がっていた
散乱する段ボールと生活必需品。そして、その山から伸びている少女の腕…
山の中から、籠った少女の声が聞こえてくる。それに反応するように、唯一外に出ている腕をバタバタと動かす
「誰か帰ってきた!? ねぇ、帰ってきたの!? お兄ちゃん? 白奏? どっちでもいいから早く助けて! もう10分以上はこの状態なの~!」
この声の少女を私は知っていた。というか、こんな状況に陥れる人物を私は1人しか知らない
ちなみに私は16歳で、Pは18歳だ。若いでしょ
「先輩! 今助けます!」
私は最後の力を振り絞り、荷物の山を退けにはいる
幸い、食器などの割れ物は巻き込まれておらず、大抵が服やタオルなどの衣類であるため、退けることは容易…
おや? なんか布の中からダンベルが出てきたぞ。たまたま混ざっていたのだろうか
「よいしょっと」
おや? 布の中から本格的なジュークボックスが出てきたぞ、まあ、そんなこともあるのかな
「よっこいしょっと」
おや? 布の中からPが貰った、海外の無駄に重い『よくわからない何か』が出てきた
「これ、普通にダンベルよりも重いんですよね…まっ、余裕ですけど」
そんな風なことを呟きながら、理強先輩のことを掘り起こしていく
そして、それなりに掘り起こしたタイミングで限界がきた。腹が減っては行動できぬ…
「お腹…空いた…」
バタンッと布の上に倒れる。そして、お腹がギュ~と鳴る。もう立ち上がる元気もない…
「白奏? 白奏?! このタイミングでいつものやつ?!」
目の前の山が震える、先輩が力一杯動いて脱出しようとしているのだろうか?
「うん! これならリキョウちゃんだけで崩せそう」
そして、何度か布の山が震える。そのたびに上の布が滑り落ちていき、衝撃で山が崩れていく
「いっっけぇ~」
バァーン! と布の山が弾けとび、中から赤黒い髪に赤のインナーを入れている、うっとりとした顔の少女が現れる
「リキョウちゃん、復活ぅ~」
そう言って、誰に見せる訳でもなくウィンクを決める。アイドルとしての癖なのか、はたまた素でやっているのか…とにかく、早く助けて欲しい
「てっ! 白奏ちゃんに餌をあげないと…」
「私は…ペット…ですか!…?」
そんな突っ込みが限界だった。しかし、ここで1つ問題に気がついた
この部屋には今日引っ越してきた。つまり、この家の冷蔵庫は空っぽなのでは?
最悪、食材や食べ物があったとしても、目の前にいるのは、カップラーメンを作ろうとしてキッチンを爆発させたことのある、料理界の『天災』だ
先輩は地獄と化している部屋の中から、お菓子を見つけようと奮起しているが…
「きゃっ?!」
再度転んで山に埋もれた。流石…なのだろうか?
こうして状況はカオスを極めた。今の部屋の状態では、先輩はまともに動けない。私も飢えでもう限界…最後の希望はPに託された
大丈夫…担当プロデューサーを信じられなくて何がアイドルだ。あの人なら、きっとこの状況を予見しているはず。そういうことを、する人だ
少しすると扉が開く音が聞こえ、それと同時に食欲をそそってくる匂いを感知した
「ただ…」
ただいま、と言いきる前に全てを察したPが、死体をしていた私に近づいてきた。それにあわせて、良い匂いも近づいてくる
そして、私の前にドサッと何かが置かれた
私はヨロヨロになりながらも顔を上げて、それが何かを確認する…
「あぁ…っ!」
そこにあったのは重なった3つの円形の箱…私はそれを見た瞬間に涙が出た…
あぁ…ピザだ…
Pが箱を開けて、ピザを1切れ私の口元に運んでくれた。私はそれを、ハムっ、と食べる…
体力が即座に回復し、起き上がる。そして、そのままPの持っていたピザを食べ進めた
少しだけPの指に唇が触れてしまったが、緊急事態だ仕方ない。悶々とするのは未来の私に任せよう
「やっぱり、早く戻ってきて正解だったな」
そう言って、Pはピザ3箱のうちの1箱を私に渡した。残り2箱は自分と先輩の分だろう…食べたい…
そう思いながら、私は止まることなく次々とピザを口へと運んでいった
Pは先輩の方を助けにいった。この状況ではどれだけ先輩を引っ張り出してもすぐ埋もれてしまうので、最初に周囲の整理整頓から始めている
その後、10分程で無事先輩は助けられたのでした
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