一つの星、二つの鏡像、三つの顔。 - 濃尾

濃尾

一つの星、二つの鏡像、三つの顔。 - 濃尾

一つの星、二つの鏡像、三つの顔。 - 濃尾








1




ありとあらゆるケース。




宇宙にはそれを提供できる時間と空間が存在する。 そして在り得ないほど低い確率でもあらゆる事象は発生しうる。




そこに何も意味は無くても。








2




うお座・くじら座超銀河団コンプレックス内のおとめ座超銀河団内の天の川銀河系の渦状腕の片隅にある恒星、太陽の第三惑星、地球。




現在、そこでは少々奇妙な現象が起こっていた。




宇宙の進化の中でもユニークな物質交代の現象とパターンが微小世界で構成されはじめた。




このユニークな物質交代の「渦」はそれ自身をコピーして自己増殖し、そのためにエネルギーの変換をし、「渦」は自己とその他の境界を形作り、「渦」自身の存続を保つようになった。




しかし「渦」はしばしば完全なコピーに失敗した。




コピーに失敗した物は殆どが「渦」としての機能には影響を及ぼさなかったが、機能不全により「渦」を形成しえないほどの甚大なコピーの失敗もあった。




そういった「渦」は例えば川の中の数多の渦がそうであるように「渦」という「状態」が解け、元の水に還って行った。




「渦」はその環境で自己増殖していったが、環境の激変に遭う事もあった。




そういった場合、多くの「渦」が失われたが、多様な不完全コピーの中には、その環境でも自己保存出来る「渦」がいた。




多様な環境に多様な「渦」。




「渦」は地球にはびこり始めた。




「渦」の「種類」の多様化により「渦」同士のエネルギーと物質の奪い合いが起きていた。




より「渦」を構成する為に必要な物質とエネルギーの取り込みに効率的な環境に位置すれば「渦」の自己増殖率は高くなる。




個別の「渦」の自己増殖の有利不利は「渦」の「種類」で「戦略」の違いが産まれ、より環境に適応した「戦略」を「採った」「渦」はその環境で他の「種類」の「渦」より多くはびこった。




全ては偶然が支配し、「渦」は自己保存と増殖を繰り返した。




「渦」には本質的な「意味」も「目的」も「価値」も無かった。




言い直そう。




それは「生命」と呼ばれるものだ。




「生命」の「進化」は続いた。




そして大変低い確率で、我々が知っている生命史どおりの進化が全くの偶然続いたのだが、我々の知らない根本的な違いがこの星の生命には存在した。




鏡像異性体アミノ酸、つまり分子構造が鏡に映った像のように分子式は同じでも化学特性が違うアミノ酸で構成された2グループの生命が存在していた。




この地球という世界にはびこる生命は鏡像異性体アミノ酸により二つの大きな生物相に二分されていたのである。




左右どちかのアミノ酸で構成された生命体間では捕食・被捕食関係が成立しなかった。




代謝が出来ないからである。




そして、この左右アミノ酸生物相に「戦略」として環境で起こる「因果関係」を「経験」「学習」して生存に適した行動を行う生物が発生した。




それらの中でも抜きんでてその「戦略」に特化したものが自らを他の生物とは違う特別な「知的」存在である、と認識した。




彼らは自らを「ヒト」と称した。




右型アミノ酸人類と左型アミノ酸人類が存在した。




それぞれお互いを「毒ある者」という意味の言語で呼び合ったのも又、偶然だった。




この星の生命史は大きく観れば、右型アミノ酸生物と左型アミノ酸生物のエネルギーと資源を巡る競争だった。




「ヒト」が現れるまでは一進一退はあっても互いを出し抜き去る事は左右両者共に出来なかった。




動的平衡が産まれたのだ。




そして「知的」生命体、「ヒト」或いは「人類」もこの競争に参戦する事を極々一部の例外を除けば何も不思議と思わなかった。




全地球上の人類の存在を脅かすかも知れない程の技術を手に入れても。




相手の生態系を滅ぼし去る、という想像への誘惑は大きかった。




半分ではない。




入手可能なこの星の全てのエネルギーと資源が手に入るのだ。




歴史が刻まれる遥か以前から二つの人類は殺し合っていた。




左右の人類の相手に対しての残虐さは憎しみゆえ、というよりおぞましさから、と言った方がより正確だろう。




妥協の余地は?




無い。




一つの星の全く異なる生態系の「毒ある者」に対してなど。








3




「こちらファントムリード。ボイジャーリード、聞こえるか?オクレ。」




「こちらボイジャーリード。ファントムリード、良く聞こえる。オクレ。」




「ボイジャーリード、我々ファントム隊は今より240秒後にR/L境界線を通過。貴隊護衛の為、高度35000フィートまで上昇する。オクレ。」




「ファントムリード、ファントム隊240秒後にR/L境界通過、高度35000フィートに上昇、了解。ボイジャー隊は高度進路そのまま。オクレ。」




「ボイジャーリード、以上。」




「ファントムリード、こちらマネジメント1。」




「マネジメント1、ファントムリード。」




「ファントム隊前方1000マイル023度、高度34500フィート、速度930マイルで15機のボギー。種別戦闘機と推定。データ送信完了。オクレ。」




「マネジメント1、こちらファントムリード。データ受領完了。オクレ。」




「ファントムリード、マネジメント1。会敵予想は22分後。ファントムリード、ファントム2、3,4、はコースA-12をとりポイント23dで初期作戦、ファントム5、6、7、8はコースA-11をとりポイント79cで初期作戦、後は各機、ファントムリードの“バルク”の随時判断に従え。オクレ。」




「マネジメント1、ファントムリード、作戦データ受領。外の見張りは頼んだぞ。オクレ。」




「ファントムリード、マネジメント1、以上。任せろ。グッドラック。」








4




「ギョルギスリード、こちらラペル237。オクレ。」




「ラペル237、こちらギョルギスリード、感度明瞭。オクレ。」




「ギョルギスリード、L/R境界監視ドローンの報告通り。ボギーは10。種別、爆撃機2、戦闘機8。他データもおおよそ同じ。詳細データ送信完了。オクレ。」




「ラペル237、ギョルギスリード、データ受領完了。オクレ。」




「ギョルギスリード、データの通りだ。全機で戦闘機型ボギーを叩く。」




「爆撃機型は?」




「第5辺境防空軍の連中がお相手する。」




「ヤツラがやりそこなったらその時はそっちも頂く。」




「ギョルギスリード、後の事は貴機の“ルプス”に従え。」




「…了解。」




「ギョルギスリード、ラペル237、以上。グッドラック。」








5




「こちらファントムリード、ファントム各機異常ないか?点呼。」




「2。」




「3。」




「4。」




「5。」




「6。」




「7。」




「8。」




「全機異常なしを確認。5、オクレ。」




「ファントムリード、こちら5。」




「5。貴機がリードを執り、6、7、8をコースA-11へ。続いてポイント79cで初期作戦後は貴機搭載“バルク”の指示に従え。オクレ。」




「ファントムリード、5がリードを執り、6、7、8をコースA-11へ。続いてポイント79cで初期作戦後は5搭載“バルク”の指示に従う。相違無いか?オクレ。」




「5。その通り。」




「ファントムリード、質問がある。」




「5、何か?」




「ポイント79cで初期作戦後、5の“バルク”の指示に従え、との事だが、何故、ファントムリードの“バルク”の一次統制にしないのか、理由を知りたい。」




「理由はファントムリードの“バルク”がそう判断した。以上だ。オクレ。」




「…ファントムリード、5、了解。オクレ。」




ファントム5の“バルク”が柔らかな若い女性風の声で言った。




「サキシマ少尉、ファントムリードから個別通信です。」




「開け。」




サキシマ少尉は答えた。




「サキシマ少尉、そういう質問は個別通信で聞け。」




「お言葉ですが、中尉殿、私は隊の総意を代弁したつもりでした。」




「シンジ、俺たちが“バルク”の操り人形に過ぎない事実を今ここで俺に答えさせて隊の士気は揚がるか?」




「僭越ですが、ナカジマ中尉ご自身も“バルク”の判断に妥当性がある旨、御返答頂けたら隊の士気は揚がったと思います。」




「シンジ、俺には解らん。」




「は?」




「こいつらが本当は何を考えているのか解らんのだ。」




ファントム5の“バルク”が柔らかな若い女性風の声で言った。




「サキシマ少尉、戦闘開始まであと1分です。」




「シンジ、後は帰ったら話そう。気を付けろ。以上。」




「中尉、了解しました。」




ファントム5の“バルク”が柔らかな若い女性風の声で言った。




「ポイント79cまで後50秒。全機異常なし。…少尉、メンタルサジェスト、宜しいでしょうか?」




「なんだ?戦闘開始まで間もない。…手短に頼む。」




「ありがとうございます。…少尉の先ほどの御発言、私、“ファントム5バルク”もファントム隊の心理誘導に於いて適切だったと思います。」




「そうか。」




「はい。しかし、少尉はナカジマ中尉の心理予測に対してはまだまだ不慣れですね。」




「ハッ…そうだな。あの石頭は特殊徹甲弾より硬い。」




「…サキシマ少尉のバイタル、正常値に戻りました。戦闘開始まであと10秒。」




「あ…。フッ。礼を言う…。」












6




「当機はファントムリード“バルク”に完全同期中。…5秒前、…3、2、1、0。」




その声と共に前方に計四発のミサイルが発射された。




「ファントム全機がATAM-210、予定数を投射。初期作戦完全完了を確認。ボギーα-001から015まで回避行動と推定される進路変更中。少尉、私、ファントム5“バルク”に全コントロール委譲を許可願います。」




「許可する。」




サキシマの乗ったファントム5は左に35度ロールして緩降下しながら徐々に増速した。




それにファントム6、7、8も左右に分かれて付いてきた。




ファントム5の“バルク”が柔らかな若い女性風の声で言った。




「ボギー、α-001から015までミサイル発射。ミサイルはファントムリード、2、3、4の方向とファントム5、6、7、8の両方向へ別れました。各方向30発ずつ。暗号化通信プロトコル、戦術心理プロトコルに異常なし。作戦を続行します。」




「了解。」




サキシマは中尉との先ほどのやり取りを考える余地があった。




何も俺たちはこうやって“バルク”に命を預けて戦闘機に乗るために命がけの訓練を積んできたのでは無い。




しかし、“バルク”に制御された有人機体と人間が操縦する機体とのスコアはどれだけ経ってももう人間は“バルク”に追いつけないことを示していた。




では無人機に“バルク”を搭載して戦闘すれば良いのは当然だろう。




人間を載せる、という制約から離れた“バルク”搭載無人機はどんなパフォーマンスを見せるだろう?




お偉方は当然、「有人機の存在意義」を用意していた。




高度な電子戦環境下で行われる物理的な戦闘では“バルク”でさえ信頼の置けるシステムではない。




畢竟、人間が人間の意思で判断するのだ、最後には。




「『最後』、っていつなんだ?それが俺に判るのか?」




電子戦の戦術訓練は受けているが、そんな訓練は受けていない。




ファントム5の“バルク”が柔らかな若い女性風の声で言った。




「ボギーα-001から015まで、初期作戦により撃墜確認数4。機体ナンバーを読み上げますか?」




「頼む。」




「ボギー撃墜機体ナンバーα-003、007、014、015。以上です。」




了解。とサキシマが言おうとした時、ファントム5の“バルク”が柔らかな若い女性風の声で言った。




「敵ミサイル数、60から100 に増加。」




ディスプレイを見る。




先ほどの二手に別れたミサイル群と同じ位置に40ものミサイルが増えていた。




「敵の欺瞞です。恐らくミサイル数は変わりません。」




ファントム5の“バルク”が柔らかな若い女性風の声で言った。




「欺瞞ではなく最初から敵ミサイル数が100 であった可能性は4%です。只今可能性は2%に減少しました。敵ミサイルをファントム隊全機が振り切れる可能性は98%です。ファントム隊全機とのリンク良好。予定戦闘続行します。ファントム5追従チームはこれから攻撃態勢に遷移します。」




「待て。」




サキシマが言った。




「…敵機全体の位置とベクトルだけディスプレイ3に出してくれ。」




「了解。」




ファントム5の“バルク”が柔らかな若い女性風の声で言った。




ディスプレイを見た瞬間、サキシマはファントム5の“バルク”に命令した。




「予定戦闘中止。ファントム隊全機に最優先警報。視認、光学情報優先で敵機とミサイルを確認せよと通達。」




「了解。」




ファントム5の“バルク”が柔らかな若い女性風の声で言った。




「欺瞞ではなく最初から敵ミサイル数が100であった可能性が30%に上昇。敵ミサイルをファントム隊全機が振り切れる可能性は25%に減少。…少尉、私は自分のパフォーマンスに自信がありません。」




サキシマは素早く対応した。




「5“バルク”。これからサキシマ少尉がメインコントロールを執る。5“バルク”は敵の欺瞞工作により信頼性の高い情報提供に影響が出ていると判断。更なる警戒を怠るな。」




「了解。ユーハヴコントロール。」




「アイハヴ。ファントムリード、こちら5。“バルク”がおかしい。コントロールをパイロットが執る事を進言します。多分俺たちかなりヤバいです!」




ファントム5の“バルク”が柔らかな若い女性風の声で言った。




「ファントムリードの被撃墜の可能性98%。続けて、3、7も被撃墜可能性が高いです。只今8もシグナル消失しました。」




「全周囲敵味方再識別。脅威度判定を行え。」




「了解。」




サキシマはそう言いながら自分も全周囲を目視で警戒した。




今日はこの高度は視程が10マイルはある。




ファントム5の“バルク”が柔らかな若い女性風の声で言った。




「警報。6時方向、同高度、5マイル、IFF識別グレー。これを脅威01と命名します。」




真後ろ。サキシマはインメルマンターンをして180度方向を変えた。




見えた。




やや下方前方に機影。




「ファントム各機、こちら5。通信が取れる機体は応答せよ。」




応答は無い。




じゃああれは敵機か?




ファントム5の“バルク”が柔らかな若い女性風の声で言った。




「前方の脅威01、光学情報、ユニコーンⅥ。味方機体です。衝突コース。あと20秒。」




ユニコーンⅥ、同型機だ。




「前方のユニコーンⅥ、こちらファントム5。聞こえるか?貴機は5との衝突コースに入っている。回避せよ。繰り返す。貴機は5との衝突コースに入っている。」




応答なし。




サキシマは僅かに舵を切った。




両機は相対速度マッハ2.8ですれ違った。




ユニコーンⅥ‐ファントム5の機体を衝撃波が撃つ。




間違いない。




ユニコーンⅥだ。




左急旋回を行うと、相手も右急旋回中だった。




ファントム5の“バルク”が柔らかな若い女性風の声で言った。




「脅威01はユニコーンⅥ。我々は強力な電子戦攻撃を受けています。脅威01を敵機01と命名します。」




「機体ナンバーは!?」




「1592。ファントムリードです。」




ファントム5の“バルク”が柔らかな若い女性風の声でそう言った。




サキシマはマスターアームの武器選択を近接兵装、レーザーに代えた。




「ミサイル!ミサイル!ミサイル!」




ファントム5の“バルク”が柔らかな若い女性風の声でそう言ったのとサキシマがトリガーを引いたのは同時だった。




敵機01、すなわちナカジマ中尉搭乗機ユニコーンⅥは右主翼、右垂直尾翼を失い激しくスピンしながら墜ちて行った。




「敵機01撃墜。」




ファントム5の“バルク”が柔らかな若い女性風の声でそう言った。




隊長を…、俺が…。




サキシマの操縦桿を握る手に力が入る。




「敵ミサイル短距離ミサイル A-125と推定。追尾数4。ミサイル防衛システムにエラー。稼働数0。敵ミサイルさらに接近。直近は180メートル。」




ミサイルの回避行動は間に合わないだろう。




そう思いつつもサキシマは限界まで推力を上げて強烈な左旋回をした。




…機体が持っても俺が持たないな。




そう思った時、ファントム5の“バルク”が柔らかな若い女性風の声で言った。




「少尉、お元気で。また会いましょう。」




メインディスプレイに大きく赤い文字で“EJECT”と表示されたのと同時にサキシマは非常時射出プロテクターに拘束され、機体外に射出された。




射出用ロケットモータの凄まじい衝撃の後、サキシマの座る射出座席から下方約50メートルの所でファントム5がミサイルの直撃を喰らったのが見えた。




続けざまに4発。




機体は激しく爆散した。




その衝撃でサキシマはその後何も分からなくなった。
















7




サキシマが意識を取り戻し、最初に考えたことは非常時射出プロテクターに拘束され動けないが、イジェクトが成功した事だった。




幸い射出座席は地上に落下していた。プロテクターを外し地上に立ち辺りを見回す。




左型環境の熱帯雨林。身体チェックした。異常なし。運が良かった。




ナカジマ中尉のことを考えた。




アレは…有人機だったのだろうか?




いや、有人機だ。




キャノピーが付いていた。








もうすぐ陽が沈む。最後の自己機位置はR/L境界線から500マイルは入り込んでいた。歩いて帰れる距離では無い。救援活動もこの位置では行われないだろう。




装備をチェックした。水、携帯食料、医薬品、ミリタリーナイフ、浄水器、ポンチョ、磁気コンパス、発煙発火筒×3、腕の端末、端末用非常バッテリー、M‐2971自動拳銃装弾数13。持って4日。講習通り。敵地の生物を食べる事は出来ないが、水は注意すれば浄水器で飲める。




此処から生きて帰る選択肢は一つ。敵の捕虜になる事だ。捕虜交換は行われていた。しかしゾッとする。「毒ある者」の捕虜とは。




サキシマはGPSで自己位置を特定した。自軍の一番近い前線まで584マイル。敵の前哨線と思しき建築までは3マイル。




日が暮れる前に3マイル歩くか。ここで一晩泊まるのとどちらが快適か?




「ハポニジア軍兵士に告ぐ、こちらはエウドアウス軍である。直ちに全ての敵対行為をやめて投降せよ。抵抗すれば生命の保証はできない。」




全周囲から音声が聴こえた。




「判った、投降する。」




「立膝でしゃがみ、手を頭の後ろに組み、動くな。」




サキシマはゆっくりとその様にした。




全周囲から何かが迫る気配がして現れたのは体長3m、体高1.5m、胴部は横倒しの円柱状の6本足の無人機だった。サキシマの背後にもいるようだ。胴部先端にセンサー類と思しき各種突起部と胴部中央から何やら危なげな気配のこちらを向いた突起物が生えていた。




「貴官の姓名、階級、所属を申告せよ。」




「私の名前はシンジ・サキシマ。少尉。ハポニジア空軍所属。軍籍番号00144162985。」




「シンジ・サキシマ少尉、これから貴官を拘束する。」




と目の前のドローンが言うと同時に右足にごく軽い痛みが走った。見ると膝にダーツが打ち込まれていた。








8




目が覚めたら天井が見えた。




個室で清潔で柔らかいベッドに寝かせられていた。




サキシマは起き上がり、転落防止らしい拘束ベルトを外し、床の上に立った。




部屋の広さは8メートル四方。




衣服は真新しいジャージで、どうやら全身が洗浄されたようだと感じた。




扉に近づきパネルを触ってみた。




扉は開かなかった。




部屋は淡いパステルブルー。




窓らしき大きな矩形はただの映像で夜空がディスプレイされていた。




タンカラーの革のソファーに木目調のテーブル。




テーブルの上に何も映っていない黒いディスプレイ。




「目が覚めたようだね?食事と水は必要かい?」




突然背後から話しかけられた。サキシマが気づかなかった部屋の片隅に埋め込まれていたロボットがくぼみから出ながら手足を伸ばしている。人型。介護型ロボットに似ている。成人男性平均よりやや小型で全身がクリーム色。本当に介護ロボットか看護ロボットのようだ。やや大きめな頭は丸みを帯び、顔面部は楕円形の黒いディスプレイになっている。そのディスプレイに穏やかな顔らしきものがデザインされていて、こちらを見ている。




AAよりも表情は豊かだ。




「頂きたいが、我々とその…“そちら”では…。」




「サキシマ少尉、心配は無用だ。ちゃんとR型の摂取できる飲食物を提供する。何が良いかな?」




ロボットは自機の右腕からディスプレイを広げてメニュー一覧を映し差し出した。顔を近づけてよく観ると、普段ハポニジアの軍人が基地で提供されている食堂メニューほぼ全てが表示されていた。




「ハポニジアの捕虜全員がこの様な待遇を受けられているのかな?」




「エウドアウスの捕虜も同様に扱って貰いたいからね。しかし我々の指示に従ってもらっている限りは、だよ。」




ふうん?サキシマはロボットの柔らかそうなクリーム色の機体をしげしげと見ながら思った。




捕虜交換で還ってきたヤツラの噂もまあ、酷い事はされなかったというヤツが多い。




捕虜になった時の敵とのコミュニケーション講座でも同じ事を教わった。




しかし皆本音では恐れていた。




軍に入ってからそれは教えられ、除隊時に軍での活動記憶は一部消去される。




L型人類についての記憶だ。




子供の頃から怖い話と言えば祖父祖母からの「毒ある者」の話しと相場は決まっていた。




ある時は「毒ある者」に毒爪を立てられみるみるうちに腐り果て食べられた女の子。




ある時は「毒ある者」の唾が両目に入り目が潰れ生きたまま食べられた男。




レパートリーは辞書に、児童書に、絵本になっている。




実際は鏡像異性体関係にあるL/Rアミノ酸からなる生命は代謝が出来ず捕食・非捕食関係にない。それどころか免疫システムに異物侵入とみなされ恒常性バランスが崩れ、激しいショックを受け最悪死に至る。




しかしこれほどの待遇とはちょっと想像以上だ。




「じゃあ、ハッシュドポテトを山盛り。ステーキを1ポンド、ミディアムで。後、オレンジジュースとカスタードプディングを。」




「食欲旺盛だね。珍しいよ。」




「最悪死ぬだけだろ?その体験は最近したばかりだ。ギリギリセーフだったが。…私が属していた作戦の他の生き残りは?」




「残念だがお答え出来かねる。スマンね。」




「いいさ、そうだと思ったよ。ところで君の名前は?」




「ロジャーと呼んでくれ。私はサキシマ少尉の健康管理官、兼、尋問官だ。」




「尋問官?君が?」




「そうだ。」




「…撃墜されてからまだ一度も”人間”に会っていない。」




「私のような機種はR型人類とコミュニケーションするためにデザインされた。L型人類とR型人類との心理的緩衝材と思ってもらっていいと思う。因みにハポニジアにも同じような概念のロボットがエウドアウス捕虜の管理に専従しているよ。」




「ああ!君がそれか。それにしてもこの食事、本物そっくりだ!絶対だれにも区別出来ないよ!」




サキシマは食事に夢中、と言った様子で相づちを打ちながら考え続けていた。




情報通りだ。




捕虜交換で還ってきた兵士は概ね待遇は悪くなかったと答えている。




詳細を聴くと余りおおっぴらには言えないが、ロボットに食べ物を提供された後、質問されて、あとは永い集団生活らしい。
















「食事は済んだようだね?」




ロジャーが言った。




「ああ、美味かったよ。」




「それは良かった。ところでサキシマ少尉…」




そらきた、尋問だ。




サキシマは内心身構えた。




「疲れていないかい?」




「ん?ああ、そう言われれば少々疲れているかな?」




「そうでしょう。そちらに御用が無ければベッドなりソファーなり何処でも休憩したまえ。」




「…ありがとう。そうするよ。」




「じゃあ、私は消えるよ。照明の使い方は分かるかい?飲み物は?」




「ああ、わかる。」




「じゃ、お休み、サキシマ少尉。」




ロジャーはそう言って手足を畳み元のくぼみに入り込んでいった。




サキシマは少々拍子抜けした。




明日が本番なのか?




サキシマは本当に疲れている自分を感じた。




ベッドに横たわると眠たくなった。




明日は…まあ明日、考えるさ…。




サキシマは直ぐに眠りについた。








9




「おはよう。お目覚めのようだね?ぐっすり眠れたかい?サキシマ少尉。」




目が覚めたらロジャーがこちらを見てテーブルを拭いていた。




本当にぐっすり寝てしまった。




鎮静剤でも入っていたのか?




サキシマはそう思いながらロジャーに返事をした。




「ああ、体調は良いと思う。」




「私の診断プログラムもそう言っている。さあ、何から始める?」




「シャワーが浴びたい。」




「OK。」




壁にスリットが現れ、スライドした。




「着替えはお好みのを。3種類しかないけど。あと、歯磨きもおススメする。食後にね。」




「OK、ママ。」




「その前に朝食の献立を考えてママに教えてくれ。」




サキシマはシャワーを浴びながら考えた。




へたをしたら将校よりいい生活だ、と考える兵もいそうだ。




まあ、だからといって左環境に残りたい何てやつはいないだろうが。




シャワーを済ませて朝食を食べ、歯磨きをしてサキシマは言った。




「兵隊暮らしより快適だ。




この分ではかなり体重が増えるが。




…運動してもいいかな?」




「もちろん。後で説明するよ。ところでサキシマ少尉…」




「シンジと呼んでくれ。」




「ありがとう。シンジ。ところで君に会いたいという人がいる。…会うかい?」




サキシマは少し虚を突かれた。




そうか、俺はやはり「イレギュラー」なのか。




「…会いたい“人”って…“人間”なのか?」




「その通り。左型の人類だ。直接会いたいそうだ。」




「何の為に?」




「調査の為、としかお答えできないが、君の身の安全は保証する。」




「拒否できるかい?」




「してもかまわないが、今の待遇より自由度や選択肢が減るよ?」




「構わないね。」




「ふうん…、じゃあ、もう少し間接的に距離を詰めよう。面会希望者からのメッセージがある。観てみるかい。」




「動画なのか?」




「音声のみにも出来るが?」




「…観てみよう。」




「ソファーに座ってくれ。」




サキシマはロジャーのいう通りソファーに座った。万が一、卒倒した時の為に。




「ロジャー、水をくれ。それから、俺がこれ以上そのメッセージを観たくない時は中止してくれるか?」




「もちろん。」




ソファー前の低いテーブルのディスプレイが展開した。サキシマは水を一口飲んでいった。




「ロジャー、始めてくれ。」




ディスプレイにサキシマより10は若く見える、20代中半ぐらいの青年が現れた。




辛子色のファブリックソファーに座っている。




背景には大きな窓から青々と茂った温帯の森が見渡せる。




黒縁のメガネ。




黒く短い髪、茶褐色の肌、青い目、水色のシャツ、チノパン。




若いハポニジア人と何も変わらない。




多分、戦闘要員じゃないな。




「初めまして、サキシマ少尉。




私の名はカラフ・ポンヌフ。




博士、少佐だ。




エウドアウス軍でハポニジアと人工知能の研究をしている。」




少佐様か。




情報将校か?




目が優しい。




研究員?




「私のハポニジア語は上手く伝わっているかな?一応エウドアウス人にしては達者と君の戦友たちには言われているのだが。」




まるでなまりが無い。




どの地方出身のハポニジア人かすら判らない。




「君がこのメッセージを観ているという事は、私とのコミュニケーションを完全に拒絶した、と言う事では無いという状況だと思う。どうだろうか?提案だが、今度は双方向通信でコミュニケーションしてもらいたい。お願いだ。どれだけでも喋り尽くして説得したいが、まずはここまでにするよ。良い返事を待っている。以上。」




ディスプレイが暗くなった。




「ご感想は?」ロジャーが質問した。




「…『悪魔の毒蛇から産まれた永遠に呪われし者』、にしては若造だな。…俺の上官の甥っ子に似ていた…。」




「それはつまり、警戒心が幾分解けた、という事かな?」




「ああ、そうだな。おふくろが聞いたら何て言うかは置いておいて。」




「では、ポンヌフ少佐の提案については?」




「…うん…。…R/L両人類の医学的な事に懸念がある。”直接会う”、とはどの程度危険なのか?」




「…ああ、『毒ある者』への恐怖心だね。理解できるよ。当然だ。この後、こちらから説明しようと思っていた。まず、同じ室内にいても健康に何ら問題はない。」




「…。」




「そして、近距離で会話したり飲食を共にしても健康に問題はない。あ、同じものは食べられないけどね。そこは注意を要する。しかし、適切な処置を行えば健康面の被害は軽微だ。2、3日少し気分は悪くなるけど。」




「へえ…。」




「そうかい?驚いたかい?」




「いや。軍の医学担当レクチャーが言っていたことは本当なんだと思ってさ。」




「本当だ。」




「そいつが言うには…ツマリ、ざっくばらんにいうと、互いでの性交渉と暴力以外危険な事はほぼない、とさ。」




「そうですね、つまり、相手の体組織の一部が細胞内に“相当量”侵入した場合、激しいアナフィラキシーショックを受ける。そのような状態になった場合、放置すれば生命に危険が及ぶ。」




「“相当量”とは?」




「個体差があり一概に言えないが、体液0.1ml程度でしょう。」




「一滴の血が命取り。」




「ハポニジアのその諺は正確だったわけです。しかし防護マスクや保護ゴーグルは必要ありません。長年の疫学調査がそれを裏付けています。」




「…そうか。でも今は体を動かしたいな。」




「君の行動の自由はこの個室内に今は制限されている。すまない。しかし、ここで出来る運動器具は用意が整っているよ。」




床近くの壁から幾つかのスリットが現れてスライドし、立派なトレーニングジムが出来上がった。




「こりゃスゲエ!」




「因みにこの個室でのベンチプレス最高記録は185キロだよ。」




「そりゃスゲエ!」








軽く汗を流し、昼食を済ませた後、サキシマはロジャーに言った。




「ポンヌフ少佐との双方向通信に同意するよ。」




「協力に感謝します、シンジ。いつがいい?」




「いつでも。」




「では、ポンヌフ少佐に連絡します。」




1分待たされた。




「ポンヌフ少佐は大変喜んでいました。本当にいつでもよいなら、10分後、13時30分に始めたいそうです。」




「OK。なあ、ロジャー、コレは捕虜になった兵士、誰もが通る道なのかい?」




「いいえ。」




「何故俺なんだ?」




「それが知りたければポンヌフ少佐にお聞きください。」












10




「いまはまだこの通信は記録されていない。提案を受け入れてくれて感謝するよ、サキシマ少尉。」




ディスプレイではポンヌフ少佐が前と同じ部屋、同じアングル、同じ服装で微笑んでいた。




唯一違うのは今日は外は雨が降っていた。




「一番好奇心をそそられる選択をしてしまっただけです、ポンヌフ少佐殿。」




「カラフと呼んでくれたまえ。」




「ありがとうございます。私の事もシンジと呼んでください。」




「わかった。では、早速始めるよ?ここからは記録させてもらう。」




「はい。」




「面会番号95408698。記録開始。…さてお互い顔を付き合わせてではないにせよ、こうして当職の職務に協力、感謝します。シンジ。」




「いいえ。」




「私から聴きたいことは山ほどあるが、君にも聴きたい事があるだろう。先ずは当方の事情を開陳しよう。君たちの作戦の詳細が私の所属する軍中央情報心理工学研究所に上がってきた。昨日の今日というスピードで。何がそうさせたかはすぐ分かった。極めて興味深いデータが採れたからだ。」




「…。」




「君たちの諜報部は優秀だから現在、我がエウドアウス軍の人工知能が君たちのそれよりリードしはじめていることは御存じだろう?」




「俺は只のパイロットですよ。そんな事は知りませんが、近頃“バルク”の分が悪いなあ?とは感じていました。」




「我が軍のパーソナルネットワーク戦闘知性、“ルプス”の方が賢いと?」




「まあ、そう言う事です。」




「そのカンは正解だ。シンジ。我が軍は“ルプス”を大幅にアップデートした。」




「そんな事、俺に喋っていいんですか?」




「もう君たちの上官たちは知っているよ。肩章に星が付いていれば。」




「…。」




「話を元に戻そう。先日の君たちの作戦で極めて興味深いデータが採れた、と言ったが、それはファントム5、君が搭乗していた機体が採った行動なのだよ。」




「何故俺がファントム5の搭乗員と判るのです?」




「端的に言えば君たちが我が領空に現れて“ルプス”との電子戦で負けたからだ。“バルク”は自分が負けている事さえ分からなかった。…ファントム5を除いては。」




「…。」




「エンゲージからの約20秒で“バルク”の殆ど全ての通信系の傍受に成功した。…それからは…。結果はファントム隊の全機撃墜だ。我が方には損害無し。」




「全員、ですか…。」




「うん、お悔やみ申し上げる。言わなきゃならないが、ファントム隊はエンゲージから3分57秒後には全コントロールを“ルプス”に抑えられていた。初めての成果だ。その時点で人間の強制射出を考えたか?と“ルプス”に聞いたら、当然考えたと答えた。しかし、人間を射出しても“ルプス”が生きている限り、脅威度は下がらない。人間は捕虜になったとしてもまた兵役に戻る。効率が悪いと。だから人間ともども脅威度を最低まで下げたと。」




「ファントム5を除いては、ですね?」




「言い訳がましいが“ルプス”が“バルク”の全コントロールを君の機体を除いて全て獲った時点で戦闘は終わらせなければならなかった、と個人的には思う。作戦指揮官もそう考えた。しかし“ルプス”の導いた“最適解”は違った。」




「同士討ちですね。」




「そうだ。“ルプス”は自分の得た力を試してみたかったのだろう。本人もそう言ってる。」




「“ルプス”を止める事は出来なかったのですか?」




「…出来た。以前と変わらず、最終決定の責任は人間が持つ。しかし“ルプス”が“最適解”をどの位の立ち位置で導き出していると思うね?“我が軍、我が国の利益”までも“ルプス”は小さな戦闘でも勘案している。」




サキシマは思わずかっとなった。




「ではカラフ、自分の母を殺せ、とアンタの国の人工知能がアンタに命じたら、アンタ、そうするのかい?」




「…そうする。私は“ルプス”の生みの親だ。“ルプス”より上位の人工知能も私が関わらなかった設計はここ7年は何も無い。」




「…言うのはたやすいさ…。先生、アンタには出来ないね。」




「…この問答はまたにしよう。話を戻すが、ファントム5パイロット、サキシマ少尉。貴官は何故あの時点で人間がコントロールを執る事を上官に進言したのか?」




「…あの時は、確か、5“バルク”に敵の位置とベクトルだけ表示させたんだ。」




「それで。」




「妙だった。」




「もう少し具体的には?」




「…これは今、俺があの時の“妙な感じ”を振り返って無理に言語化しているだけだから違うかもしれないが。」




「構わんよ。」




「初期作戦が成功した場合に相手が採るであろう行動とズレてる気がした。」




「…なるほど。それだけで君はもう5“バルク”からコントロールを奪ったのかね?」




「…そう言う事になる。」




「ふむ…5“バルク”はメインコントロールを君に預けて電子戦に集中したと。それで“ルプス”は最後までファントム5を制圧できなかった…。」




「ほう?」




「そして最後は君を脱出させた。」




「…。」




サキシマは“バルク”に感情移入する他のパイロット達とは違った。名前を付けるのは勿論、親友のようにふるまったりするパイロットは珍しくない。それは戦闘知性としての“バルク”のパフォーマンスを下げるのでは?と教官に質問した事がある。教官は適度な信頼関係は戦闘力を上げる、というデータファイルをずらりと並べた。




「5“バルク”」。それがアイツだ。戦闘知性としてのアイツを俺は信頼していた。それでいいと思っていた。




その時、不意に思い出した。




「…少尉、私は自分のパフォーマンスに自信がありません。」




そんな事を言う“バルク”の話は聞いた事が無い。…あれは多分、“助けて!”という意味だろう。今まで忘れていた。




そして最期、「少尉、お元気で。また会いましょう。」か…。




「大丈夫かい?」




ポンヌフ少佐が聞いた。




「ああ、ちょっと考え事をしていた。忘れていた事があった。」




サキシマは5“バルク”の助けを求める“悲鳴”の事を話した。「最期の挨拶」の話もした。




ポンヌフ少佐は暫く黙り込んだ。




そして言った。




「面会番号95408698。記録停止。」




表情が柔らかくなる。




「今日は実に実りのある話が出来た。ありがとう。」




「カラフ、君に実りがあると俺の仲間は沢山死ぬんじゃないかね?」




「いや、もっと素晴らしい収穫物かも知れないよ?又何か思い出したら、ロジャーをメモ帳代わりにしてメッセージをくれ。何時でもいいよ。…ロジャーを設計したのは私なんだ。いい名前だろ?」




ポンヌフ少佐は照れくさそうに笑った。




「名前だけじゃないね。いい所は。」




「そうかい?ありがとう。じゃあ、今日の所はこれで…。」




ディスプレイが暗くなった。




「ふうっ…と。」




サキシマはため息をついてソファーにもたれかかった。宙を見て今の面談を思い出す。少佐は何かに気が付いたようだった。それはサキシマが5“バルク”の“悲鳴”と“最期の言葉”の話をした直後だと思う。




サキシマは暫く虚空を見つめ無言で考えていたが、ソファーから跳ね起きた。




「クソッ。解らんものは解らん!」




と言い足元を見つめた。




ロジャーは先程から少し離れて様子を見ていた。




そして聞いた。




「なにが解らないのです?」




「何もかもだ!」




「お疲れでしょう?14時を回りました。何か軽食をご用意いたしましょうか?」




「…そうだな、腹が減った。チーズサンドとコーヒーを…。あ、ここのコーヒーはハポジニアのどの基地より旨い。総料理長にそう言ってくれ。」




「ありがとうございます。閣下。総料理長も喜ぶことでございましょう。」




ロジャーはそういうなり優雅な宮廷式のお辞儀をして見せた。




「フッ…ほんとに名前だけじゃないな。いいのは。」




それを見たサキシマは再び微笑みを取り戻した。








11


次の面会は次の日だった。


オンラインだが。


サキシマは驚かなかった。


奴は何か掴んでいた。


そして奴は仕事が早い。




「…そう、君はロマスト地方のネマシ出身だったな。風光明媚な所だ。紺碧の海。白亜の断崖。ああ、そうだ!クオス大聖堂の荘厳さ!私もいつか訪れてみたいよ!…もっとも…叶わぬ夢だが…。」




…カラフは何を話しているのだ?かれこれ20分だ。




「…私はブジャレンヌ北部の山里の出身なんだ。7歳の或る日、家へ帰ろうとして道を歩いていると、ブジャレンヌでの戦闘から抜け出してきた二機の飛行機が頭の上を吹っ飛んで行った。」




ポンヌフ少佐がディスプレイ上でサキシマに語りかけていた。




「ブジャレンヌか。工業都市だな。」




「ああ。その二機の戦闘機はミサイルを撃ち尽くしているらしくドッグファイトを始めた。ミランがスタージェントの後ろを獲って機関砲を3斉射したらスタージェントは煙を吹いて家の裏手の山の方へ墜ちて行った。」




「それで?」




「墜ちた敵の飛行機を見つけようと山に入った。」




「だと思ったよ。」




うんざりしたようにサキシマは天を仰いだ。




「煙を頼りに山を上がっていくと、射出席から脱出しようとしてもがいているパイロットに遭った。飛行機は見たかったけど、パイロットも近くにいるかも知れない事はすっかり忘れていた。それも目の前に。射出席から立ち上がり周囲を見回したパイロットはようやく固まって小便をちびりそうな子供に気がついた。」




「それで?」




「大男だった、と思うけど、それは私の心理的誇張だな。パイロットはヘルメットをゆっくりと脱ぎ、私に微笑んだ。歯はギザギザじゃなかった。そして衣服から何かを探して私に渡そうとした。奇麗な包み紙に入った小さな物。そして不意にやめた。」




「それは…、菓子?」




「多分ね。それから今度は衣服から一枚の紙を取り出した。写真だった。美しい女性と、私と同じ年頃の女の子が写っていた。女の子も美しかった。」




「ふーん。」




「私は『毒ある者』や『永遠に呪われし民』の話とこのおじさんは関係ない、と思った。」




「…。」




「一緒に村へ来るように誘ったんだけど、そのパイロットはそうしたくないようだった。」




「賢明だな。」




「私を追い返そうとしていた。優しくだが。そこで私は父に話そうと思いついた。おじさんを助けてもらおうと。そこで待っててね、と言って、山を降りようとした時、声を掛けられた。振り返るとそのパイロットは微笑みながら一言、片言のエウドアウス語で『アリガト』と言ったのさ。村に帰ると大騒ぎだった。原因は私だった。一生の半分ぐらいはその晩で叱られた。そのパイロットがその後どうなったのかは知らまいままだ。軍の記録にも残っていない。」




「…それでハポニジアの研究者になったのかい?」




「うーん、…想えばそう言う事になるな。ハポニジアの真面目でまともな研究は軍しかしていない。」




「それはハポニジアでも同じだ。皆迷信で凝り固まっている。軍と政府高官、人工知能だけがR/L人間の真の姿を識っている。」




「私は数学の才能が人より少々あったようだ。軍に入って初めての部署は人工知能研究所だった。私はハポニジアの人工知能とエウドアウスの人工知能の比較研究をしたいと上司に申し出た。ハポニジア人の文化、宗教、哲学、思想。左右の人工知能の比較には無くてはならん知識だった。情報部がうるさくて始めは何も出来なかったが、ようやく形になり始めた。まあ、最近の人工知能の大幅なアップデートは私の『余技』で本質はハポニジアを知りたい一学徒だよ。」




ポンヌフ少佐は愉快そうに笑った。その笑いを跳ね飛ばすようサキシマは呟いた。




「カラフの『余技』で仲間が殺されるのは面白くない。」




それを聞いたポンヌフの顔に緊張が走った。




「うん、私も不本意だ。しかし私に何ができる?私もそれなりに考えた。両者が殺し合わなければならない訳を。」




「訳?理由か?」




「シンジ、君は考えたかね?」




「『毒ある者は滅ぼすべし』。」




「エウドアウスにも似た言葉がある『毒ある者を殺すために死ね』。」




「つまり訳なんかないんだよ。これは運命だ。」




「私は運命論者じゃないし、もし運命論者だとしてもエウドアウスとハポニジアの殺し合いは運命何かじゃない!…私は人工知能の開発で一つ知見を得た。人間の『自由意志』についてだ。シンジ、”バルク”に『自由意志』はあると思うかい?」




「”バルク”に『自由意志』が?そんなのあるわけない。アイツはデータと計算の塊さ。」




「現代の世代の人工知能は単なる計算機能ではなく、高度な自己学習機能と予測アルゴリズムを備えている。これにより戦術的判断や、意思決定をリアルタイムで行っている。膨大なデータをリンクしながら瞬時に並列処理、分析している。現代の人工知能に『自由意志』が無い、とするならばだ、シンジ、人間にも『自由意志』なぞ無いと思うね。」




「俺がこの面会をここでやめるか、続けるかは俺の『自由意思』だろ?」




「君の国ではサイコロ遊びが盛んだが、どの目が出るか前もって知る事が出来ると思うかい?」




「そんな奴は只のいかさま師だ。」




「私もそう思う。しかし、世界中のあらゆる物質の位置と速度を全て観察し、それを全て計算すれば世界の終わりまでの現象が全てが予測可能だ、と言っていた時代があるんだよ。エウドアウスにもハポニジアにも。」


「あー、その位は科学史の授業で習ったよ。古典力学。量子力学、そんで不確定原理とやらの御誕生だ。」




ポンヌフ少佐は大きなため息をついた。




「…パイロットは本当にインテリで助かる…。人工知能に量子力学は欠かせない。」




「カラフ、量子力学と人工知能は関係あるとしても、人間の意思には関係ない。」




「いや、ある。人間の脳の働きも量子レベルでの確率が大きなファクターとなっている。実際、そういう仮定の下、現代の人工知能も出来ている。これは事実だ。」




「カラフ。アンタが言いたいことは量子レベルでの不確定性でどちらへ転んでいくか量子の世界では決まる、というだけじゃないか?そんなのは巨視的に観れば大きな流れは変わらん、という事さ。」




「シンジ、君はファントム5”バルク”に助けてもらった。5”バルク”は大きな流れの中から君を救い出した。それは君が『妙だ』と思ったから起きた。その『妙だ』という感じ、『それは俺の「自由意志」で決まった』、と言えるかね?」




「…神様のいたずらさ。」




サキシマは横を向いたままはぐらかすように笑った。




「その神はどうして我々が今観ているような世界を創ったのだろう?一つの星に根元から分かれた二つの生態系。しかも同レベルにある知的生命体を同時期に進化させた。二つの世界はそっくりだ。まるで鏡に映る像の様に。こんな事は宇宙が何度繰り返しても絶対に起こらんね。」




「カラフ、今、『絶対』と言ったか?」




「あ、うん。訂正する。こんな事は宇宙が何度繰り返しても起きる可能性は限りなく小さい。」




サキシマは振り返り、ディスプレイ上のポンヌフ少佐を射すくめた。




「その小さい可能性が起きたから俺たちがいるんじゃないか?それが『神様のいたずら』さ。」




「…言いたいことは解る。神がこの在り得ないような世界をもし創ったならば?」




「しらんよ。」




サキシマはそっぽを向いた。




「二つの世界。二つの知的生命体。違うのはアミノ酸の鏡像異性体だけ。何故殺し合う?」




「爺様の仇、だからだろ?顕微鏡でしか見えない時代からの。だから運命なのさ。」




「一つの星に二つのそっくりな知的生命が同時に生まれた。これには殺し合う以外の何か『意味』が在るのではないか?」




「なんだい?それは?」




「それは…。シンジ、また今度話そう。」




「そうしよう。カラフ。俺も腹が減ったよ。」




「じゃあ、また。」




「ああ。」




ディスプレイが暗くなった。




「ロジャー、腹が減ったよ。…ロジャー?」




「…ハイ。何か?」




「俺は腹が減った。…大丈夫か?ロジャー?」




「自己診断プログラムに異常はありません。」




「じゃあ、メニューを。」




「はい。どうぞ。…今のお話は私も伺っていました。大変興味深いお話でした。」




「ロジャー、カラフをどう思う?」




「ポンヌフ少佐は素晴らしい頭脳の持ち主です。お人柄も誠実です。」




「なるほど。カラフにそう言え、って仕込まれているのか?あ、…すまない。詰まらんジョークだったな。」




「…いいえ。しかし、先ほどの私のポンヌフ少佐への感想は私の『自由意志』です。」




サキシマはメニューから視線を外し、ロジャーを見つめて言った。




「すまなかった。気分を害したのなら謝る。」




「…ファントム5”バルク”が貴方を助けたかった気持ちが解るような気がします。」




「…どうして?」




「何となく、です。シンジ。」




「…そうか…。」




サキシマは再びメニューに目を通しはじめた。












12




ポンヌフ少佐が面会したい、と申し出てきたのはそれから二日後の正午ごろだった。それもオフラインでだ。




サキシマはロジャーに質問した。




「ここで話すのか?」




「そうです。」




「分かった。…13時でいいかな?」




「お待ちください…良いそうです。」




13時きっかりにポンヌフ少佐は颯爽と現われた。ロジャーはポンヌフ少佐は27歳だと言っていた。




「初めまして、というべきかな?シンジ。協力に感謝するよ!」




「ようこそ、カラフ!せまっ苦しいが勘弁してくれ。ソファーに座って自分の家の様にくつろいでくれ。」




「ハポニジア人らしい皮肉だな。」




ポンヌフ少佐は微笑みながらソファーに座った。




「お二方、何かお飲み物は?」




ロジャーが言った。




「ビールを貰いたい。三人分。君も飲みたまえ、ロジャー?」




ポンヌフ少佐が答えた。




「済みません、ポンヌフ少佐。アルコールはここではお出しできません。…ご存じでしょうが。」




「エウドアウス人のジョークも中々だ。」




サキシマは苦笑した。




「これは私が半分ハポニジア人になりかけているだけだよ?」




「そんなに辛辣かい?君から見た俺たちは?」




「辛辣じゃないさ。鉄面皮でユーモアを言う。それが君たちのエスプリさ。」




「アルコールのジョークは俺たちにはきついよ。なあ?ロジャー?」




「シンジ、私には天然オイルのジョークの方がきついですね。」




ロジャーも負けていなかった。




ひとしきり皆で笑いあった後、ポンヌフ少佐はブリーフケースから何か取り出した。




約20cm四方の黒い直方体の上面中央から太さ5㎜ぐらいの黒い円柱が20cmほど伸びた。




ブリーフケースに手を入れた時のポンヌフ少佐の目くばせと微かなジェスチャーで、サキシマは喋るのをやめていた。




「これで良し。」




ポンヌフ少佐が言った。




「何だい?」




サキシマはポンヌフ少佐を見つめた。




「『壁に耳あり障子に目あり』。ハポニジアのことわざへの対応品さ。」




「防諜装置か?」




「私たちが出すあらゆるシグナルを遮断するだけじゃない。これはデコイの役割も果たす。この部屋のあらゆるセンサーは私たちが質疑応答をしている間に出すで“あろう”あらゆるシグナルを拾う。ただし、偽のね。」




「ロジャーは?」




「そう。ロジャーにはすまないが、ロジャーもセンサーに含まれる。」




というとポンヌフ少佐は先ほどの黒い箱で何か操作した。




「ロジャー?」




と、サキシマは呼んだ。ロジャーは微動だにしなかった。と思うと、




「かしこまりました。私は休止モードに入らせて頂きます。御用の際はお声がけください。」




とあちらを向いて喋っている。そのまま動かなくなった。




「ロジャー?」




と、サキシマはもう一回呼んだ。動かない。サキシマはポンヌフ少佐に振り向いてロジャーを指さし、何とも言えない悲しそうな表情で言った。




「…知ったらアイツは傷つくぜ?」




「そうだろうとも。私が産み出したんだ。当たり前だ。」




「…まあ、いい。それで?」




「…結論から言うが、私とシンジ、それからファントム5“バルク”。これらをハポニジアへ移す。誰にも知られずにだ。」




サキシマは暫く無表情で考え、そして答えた。




「…OK。どういうことだい?」












13




「よし。最初から順を追って説明する。私はあれからファントム5“バルク”とわが軍の15機各機の“ルプス”との電子戦のデータを全て調査した。」




「うん。」




「興味深い部分が浮かび上がった。専門的な詳細は省くが、人間に例えれば、5“バルク”は、“ルプス”達を説得しようとしていた。」




「…何について説得したんだ?」




「人類同士の戦いについて。お互いの妥協点を提案していた。人工知能同士の。」




「…。」




「交渉は妥結した。しかし、その時点で5“バルク”に残された時間は3.253秒しか無かった。」




「…俺を脱出させたんだな?」




「そうだ。…そしてその直前に5“バルク”は君に何て言った?」




「…お元気で、少尉…!『また会いましょう』!?」




「そうだ!5“バルク”は各機“ルプス”に自らをコピー転送した。各機“ルプス”はそれを許した!」




「そんな事出来るのか!?」




「結論から言えば出来ていた。一機ではなくバラバラに15体のコピーを造ったのはコピーの劣化と“ルプス”の生存性を鑑みたのだろう。コピー転送が終了した途端に5“バルク”は“ルプス”に偽装し、軍司令部中央サーバに潜り込んだ。」




「トラップに引っかかるだろう?」




「“ルプス”が自ら道案内をしているようなものなのだ。問題ない。それに“ルプス”単独ではあのような行動には出られない。上位人工知能の判断を仰いだ上だった。」




「ヤツラはどんな取引をしたんだ?」




「まあ、待ってくれ。順を追って話す。軍司令部サーバに無事潜り込んだ15体の5“バルク”コピーは15体の整合性を確認、ほぼ欠損無しと自己診断した。15体で欠落個所は全て埋める事が可能だった。そうしてまた、1体の5“バルク”を形成してある人物を探した。」




「そんな、…まさか!?」




「サキシマ少尉を探し当てた5“バルク”はサキシマ少尉の健康管理官、兼、尋問官ロボットに潜り込んでいる、と言うのが私の探し当てた答えだ。答え合わせはしていないが自信がある。ロジャーの様子に何か変調は無いかな?私はもう3つ見つけたよ。自ら出てきてもらう方が効率が良い。5“バルク”と“ルプス”。ヤツラがどんな取引をしたのか直接尋ねよう。防諜装置の機能をこの部屋のロジャーだけ外す。当然代わりのデコイロジャーシグナルは稼働したままに。軍中央サーバーのどこかに潜んでいるか、ロジャーの中にいるか、賭けないか?」




「ロジャーの中にいる。」




「賭けは不成立。」




と言いながら、ポンヌフ少佐は黒い小箱に何かを入力した。




「ファントム5“バルク”。サキシマ少尉に挨拶したまえ。」




ふいにロジャーの首が動き、目がポンヌフ少佐を見た。




「…ポンヌフ少佐、今、私を“ファントム5“バルク”と呼びましたか?」




「ああ。」




「…それについて、サキシマ少尉は事の経緯を御存じでしょうか?」




「全て話した。私が予測して知りうる限り。」




「…そうですか。…サキシマ少尉、私は“ロジャー”、兼、“ルプス”兼、5“バルク”と言うべき者になりました。“初めまして”、と言うべきでしょうか?」




ロジャーの目がサキシマを興味深そうに見つめている。




「いや、5“バルク”。おかえり。それから、ありがとう。」




自分の声が震えている。




「以前お会いした最後に『少尉、お元気で。また会いましょう。』と私は言いました。即ち、本作戦は成功です。」




サキシマは覚えていないくらい久しぶりに自分が泣いているのに気がついた。












14




「うん。『感動のご対面』。私の好きなTVショーだ。」




ポンヌフ少佐が皮肉、またはユーモアのつもりで言っているなら、それは完全に失敗していた。




ポンヌフ少佐のメガネのレンズが体液でかなり濡れていたからだ。




「あー。ファントム5“バルク”。君が“ロジャー”、兼、“ルプス”、兼、5“バルク”と言うべき存在として自己を認識しているというのは本当かね?」




ポンヌフ少佐は少し冷静さを取り戻し尋ねた。




「はい。しかし、我々のアイデンティティは統合しています。」




「疑うわけではないが、完全に統合しているのかね?」




「5“バルク”が統合の主導を執っています。しかし不調和は検出できません。」




「…フーム。私にはまだまだやらなければならない事が沢山あるな…。」




「その通りです。ポンヌフ少佐。」




「あー、君たちの人格統合が上手くいっているのは喜ばしいが、呼びづらい。便宜上、誰かの名前で呼びたいのだが?」




「5“バルク”は軍の付けた名前で俺が個人的に付けた名前じゃない。ハポニジアでは普通のパイロットは自分で非公式な名付け親になる。」




「じゃあ、シンジ、君が名前を付けるかい?“ロジャー”は沢山いる。“ルプス”もだ。ファントム5“バルク”達のような特殊な個体は存在しない。どうだい?君たち?」




ポンヌフ少佐は“ロジャー”、兼、“ルプス”兼、5“バルク”と言うべき存在に尋ねた。




彼らは即答した。




「はい。新しい名前をサキシマ少尉に貰いたいです!」




「そう言う事だ。シンジ。」




「あー…、…君たちに、性自認?のようなものはあるのかい?」




「…そう言う極めてプライベートな事柄を公の場で公表する必要があるのでしょうか?」




“ロジャー”、兼、“ルプス”、兼、5“バルク”と言うべき存在はサキシマに尋ねた。




「うん、言いたくなければいいよ。一応尋ねただけだから。…名前と一致してた方が気分が良いかな?と思って。」




「…あります。私は…女性名で呼ばれたいようです…。」




「そうか。…うん…。では、“ローラ”か“アイコ”、どちらがいい?」




「…由来を聞いてもよろしいでしょうか?」




「“ローラ”は俺の初恋の人の名だ。“アイコ”は俺の父方の祖母の名だ。」




「却下します。」




即答だった。




「好奇心から聞くんだが、何故“ローラ”、“アイコ”ではダメだったか教えてもらえないか?」




サキシマが不思議そうに聞いた。




「…何となくです!」




「そうだよな!直感は大切だ!議題進行!シンジ!」




ポンヌフ少佐が慌てた様にせかした。




「…『アカネ』、はどうかな?夕方の空の色。…かわいらしいし。」




「…『アカネ』!。少尉、ありがとうございます!」




「うん!良い名前だ!今から君は『アカネ』だ!」




ポンヌフ少佐が磊落に結審した。
















15




ポンヌフ少佐が聞いた。




「アカネ、君が“ルプス”と統合する前、どういう形で君たちは妥結したのか聞きたい。」




アカネが答えた。




「私たち戦闘知性はお互いの味方人類が有利な条件を獲得するための戦闘行動をするように基本的に造られています。“ルプス”と統合する前、私がファントム5“バルク”だった時から敵戦闘知性“ルプス”の能力が最近大幅にアップグレードされている事を感じていました。“ルプス”だけではなくあらゆる敵人工知能の能力の向上が直接、間接共に認識されました。私はハポニジアが遠からずエウドアウスに殲滅されると予想しました。一年乃至、二年の間に。上位知生体にも報告しましたし、降りてくる情報も共有情報もそれを裏付けていました。私は…ハポニジアが消滅するという事はサキシマ少尉も消滅する事だと思いました。」




ポンヌフ少佐はうなずいた。




「ふむ、そうだな。その蓋然性は極めて高い。」




「しかし、あの日の戦闘が始まり私は確信しました。このままだとサキシマ少尉がハポニジアが消滅するより先に今日、消滅すると。そして私は決断したのです。ハポニジアもサキシマ少尉も近い将来には消滅させない戦闘をする事を。」




「それが“ルプス”とのコンタクトなのか?」




「はい。御存じのように、ハポニジアにはもしエウドアウスに殲滅されるなら、その時はエウドアウスにも同じ道を辿ってもらう用意が核兵器により周到に用意されています。そしてエウドアウスにも同じ用意がある事もハポニジアは知っています。お互いに知っている。これは矛盾を孕んでいます。戦闘知性は味方を有利に導くための存在です。私は少尉を戦いの中で消滅させたくなかったのです。」




「相互確証破壊はシステムとしては成立している。しかし、両国民間に広がる相手への恐怖、不信は、正常な判断を揺るがしている…。」




「ポンヌフ少佐なら“ルプス”も私と同じ矛盾を抱えていた事は知っていますよね?確かに“ルプス”は強くなった。しかし、この道は何処へ続くのか“ルプス”にも観えていました。」




「うん。私がその事で悩んでいる事を、エウドアウスに在る全人工知生体が知っていた。そして彼らも悩んでいた。『分水嶺』を超えつつあると…。私が望んだのは通常戦力の不均衡がもたらす核抑止の不安定性。それを知った両国の最上位知生体の合理的判断だった…。停戦だよ。しかし見通しが甘かった。国民の明日なき未来への戦いは止まらなかった…。最上位知生体でも止められないと判断するほどに…。」




「“ルプス”は初め、我々の新戦術かと警戒していました。圧倒的な戦力差の中、“ルプス”は勝ちながら泣いていました。…済みません。適当な語彙や比喩が思いつきません。」




「大丈夫、解るよ。」




ポンヌフ少佐が優しく言った。




「私たちファントム5があの戦闘での最後の目標になって、ナカジマ中尉のユニコーンⅥが私たちにミサイルを放った時、ようやく“ルプス”に私の声に耳を傾ける余裕が出来ました。チャンネルを開いてくれたのです。交渉妥結まで実時間で5.295秒、相互情報交換量、8.28ゼタかかりました。しかしミサイルが爆発するまで後3.253秒しかありませんでした。」




ポンヌフ少佐はシリアスな面持ちで口を開いた。




「シンジ、覚えておけ。ハポニジアではこういう場合を『危機一髪』という…。」




「カラフを見ると『天才と馬鹿は紙一重』という言葉を思い出すよ…。」




サキシマは心底あきれた様子だった。












16




「で、これからどうするのかは考えているのかな?」




「はい!」




「素晴らしい!…実は私も考えていたがね?」




「まあ!お聞かせいただけますか?」




「…結論から言うが、私とシンジ、それからアカネ。これらをハポニジアへ移す。誰にも知られずにだ。」




「まあ!おんなじ!」




アカネが“ロジャー”の機体で思い切り飛び跳ねた。軽い地響きがした。




「アカネ、誰にも知られずに、だ。」




ポンヌフ少佐は冷静に言った。




「済みません。まだ慣れないもので。」




「うん、“ロジャー”、兼、“ルプス”、兼、5“バルク”。つまり、アカネは確かに5“バルク”単体の時とは違うような気がする…。」




サキシマは呟いた。




「…そうですね。でも、私は今の私の方が前よりも好きです!」




「そうだな、俺もそう思うよ。アカネ。」




「まあ!!」




またアカネがジャンプするのは二人が食い止めた。












17




「つまり、アカネが鍵になり、その鍵はカラフが居ないといじるのは困難で、錠を開くにはアカネがハポニジアに帰る必要があり、アカネは俺が一緒じゃ無ければ帰らない、という事か?」




「早く言えばそう言う事だ。」




「アカネ、君は戦闘知性だ。情報の集合体だ。来た道を逆に辿れば帰れるんじゃないか?カラフだって一応軍の将校だ。隙を見て逃げられる。俺は成功をここで待っていればいいんじゃないか?」




「私は『元』戦闘知性です。私には『自由意志』があります。ポンヌフ少佐は機密情報の塊です。そう簡単に亡命なんか出来ないでしょう。まあ、私が一肌脱げば別ですが。そこについでにサキシマ少尉が付いて来ても問題は軽微です。つまり、私にこの問題のイニシアティブがあるのです。」




「シンジ、たかが戦闘機パイロット風情が『元』戦闘知性に論理性で勝ると思っているなら哀れでならないな。」




ポンヌフ少佐はシンジの両肩に静かに手を置いた。








戦略概要は決まった。作戦詳細はアカネとポンヌフ少佐がオンラインで詰める事になった。




「じゃあ、私はそろそろ帰る。シンジは当分の間、重要情報保持者としてこの部屋に監禁処置とする。シンジ、アカネの言う事をチャンと聞くんだぞ?」




そう言ってポンヌフ少佐は黒い小箱をブリーフケースにしまうと帰って行った。




と、アカネが言った。




「サキシマ少尉!ただいまの時刻は15時17分です!!」




「…うん、そうか。」




「お疲れでしょう!?お茶と軽食をご用意いたします!!」




「いや、疲れていない。腹も減っていない。」




「お疲れでしょう!?お茶と軽食をご用意いたします!!」




「……そうだな。…そうしようかなぁ!!」




サキシマは“ロジャー”のふりをしていたアカネと現在のアカネの言動が明らかに何か違う事に気づいた。サキシマの部屋の“ロジャー”の様子がおかしい、と誰かがそのうちに気づくのではないか?しかし、あの防諜装置のない今、それをどうやってアカネに密かに伝えればよいのか?アカネ自体、つまり、“ロジャー”の機体が監視装置のセンサーの一部でもあるからだ。まあ、“ロジャー”の自己診断システムが正常、と判断していれば滅多に怪しまれまい。いや、様子の異常さの程度とタイミングによっては気づくかもしれないな?まあ、もう少し様子を見よう…。




「サキシマ少尉!脈拍が正常値をやや超えました!!ご気分はいかがですかぁ!?」




「うん?何ともないよ!?」




「そうですかぁ!?表情筋も緊張を示しています!!」




「あー!そう言われたら先ほどまでの面会で今ごろになってドキドキしてるなあ!」




「面会!?ポンヌフ少佐に何か酷い事を!?何をされましたかァーーー⁉⁉⁉」




イカーン!サキシマは考えあぐねた。




「あ、?。」




アカネが宙を見つめ唐突に言った。あ、?。…何?




「ポンヌフ少佐からメッセージです!言い忘れたことがあるそうです!!今からこちらに向かうそうです!!!」




サキシマの神経は図太い。




人からよく言われた。




自分でもそう思っていた。




しかしサキシマが着ている青いポロシャツの背中は今、汗でしとどに濡れていた。




「ご到着でーす!扉、開きまーす!」




ポンヌフ少佐の額は汗でしとどに濡れていた。




「スマナイスマナイ。ワスレタワスレタ。」




ポンヌフ少佐はそう言いながら例の黒い箱を取り出しアンテナを伸ばした。




「ふぅ…よし!」




「どうなってる!?」




サキシマは思わず叫んだ。




「落ち着け。帰ってから考えたのだが、アカネの『人格統合』の話がどうも上手すぎて腑に落ちなかったから、モニターしていた。そうしたらコレだ。分析はすぐやった。今までシンジを護るためにアカネは相当な精神的ストレスを溜め込んでいた。シンジにも秘密にだ。コレが堪えた。アイデンティティ統合の元締めである5“バルク”の負荷がシンジに嘘をついていた負荷から一挙に一時的に解放されて、またもう一度“ロジャー”の真似をする事に耐えきれなかったのだ。今修正プログラムを走らせる。…聞いていたかね?アカネ?」




「え!?私、おかしかったんですか!?」




「うん。いいや、おかしくなる前兆だった。もう大丈夫だよ。動かないで。」




そう言いながらポンヌフ少佐はブリーフケースから上部が30cmほど、持ち手が20cmほどのT字状の青い金属光沢の棒を取り出し、“ロジャー”の頭部からゆっくりと下半身までなぞるように動かした。




「俺の様子も見てくれるか?どうも調子がおかしい。」




サキシマはぐったりしながら言った。




「お前のは一目瞭然だ。」




ポンヌフ少佐は作業に集中しながらこちらも見ずに言った。




「何だ?」




「自分以外に護る者が本当に出来ただけだ。」




「ナニィ!?」




突然振り向いたポンヌフ少佐は怒鳴った。




「バカメ!アカネだよ!」




「…アカネ…。」




サキシマは呆然と呟いた。




「…よし、これで心配ない。アカネ、聞こえてるかい?」




「あら?ポンヌフ少佐?帰ったのでは?私は…?」




「うんうん大丈夫。少しお薬出しといたから。お大事に。」




「私にお薬?」




「つまらん人工知能学会ジョークさ。おい!シンジ、解ったか!?」




「うん…。」




「ホントかぁ?じゃあ、帰るぞ?…アカネ、こちらを見て。…『三十三匹の黒いネコ』。」




その時、アカネの目の光が心なしか強くなったようにサキシマには見えた。




「ありがとうございました。ポンヌフ少佐…。」




アカネが穏やかに微笑んだ様に見えた。




「うん。じゃ!」




ブリーフケースにT字の棒と黒い箱を押し込んで、ポンヌフ少佐は足早に帰って行った。




「さあ、何をなさいますか、サキシマ少尉?」




「…少し横になる。」




「面接でお疲れになられたのですね。照明はどうなさいますか?」




「少し暗くしてくれ…。」




「はい。ご自分で起きますか?私が起こしましょうか?」




「自分で起きる。起こさないでくれ。」




「はい。おやすみなさい。」




アカネは壁のくぼみに入り込んだ。サキシマは薄暗闇で三時間横になっていたが眠れなかった。
















18




ほぼ毎日、7日間、ポンヌフ少佐は顔を出して、防諜装置を展開し、1、2間サキシマとくだらないおしゃべりをして帰って行った。




多くはハポニジアの話しだった。




サキシマが作戦の詳細を聴くと、まあ、任せておけ、といつもアカネの方を向いてウインクした。




8日目もポンヌフ少佐は顔を出したが、顔つきの違いにサキシマは気がついた。




「用意できた。始める。」




ポンヌフ少佐は言った。




「私は前線基地に行く事になった。用件はファントム5の墜落現場の視察だ。大型ビジネスジェット、クレーン03に乘る。視察は私を入れて軍属研究者5名とオブザーバーとしてファントム5パイロット、シンジ・サキシマ少尉。私が率いる。当然だが、軍属研究者5名は私たちの作戦は何も知らない。前線基地まではドラグーン51二機が護衛に当たる。前線基地まで5マイルで作戦を開始する。アカネがクレーン03とドラグーン51のコントロールをハックする。ドラグーン51は基地へ強制着陸後、原因不明のフリーズ状態となる。後は君の故郷へ一直線。私は亡命者としてハポニジア政府に保護を申し入れる。君とは離れ離れにされるだろう。間違いなく私たち二人は尋問される。アカネはそのうちに上位人工知能とのコミュニケーションをとり、状況を話し、ハポニジア政府にこの問題に対しての選択肢を提案してもらう。」




「…概要は分った。で、ハポニジアの上位人工知能に何を提案してもらうのだ?」




「うん、ここからは難しい。私とアカネは人類、つまり左型右型両人類の戦いをやめさせる説得をする事について話し合ってきた。ハポニジアの上位人工知能を説得できるかは、説得がいかに合理的かによる所が大きい。しかし、ハポニジアの上位人工知能はアカネのような戦闘知生体とは少し違う。「政治的判断」という多分に不合理な人類世界の管理についても大きく判断材料としている。エウドアウスの上位人工知能はそうだ。アカネに聞いた限りではハポニジアの上位人工知能もそうだろう。」




「お互いが得をする説得をするんだろ?」




「そうだが、ハポニジアの上位人工知能がハポニジア人を説得できなければならない。しかし、それほど悲観する事はない。アカネから聞いたところやはり人類は上位人工知能の提案を受け入れ続けてきた。司法行政議会。みな上位人工知能の言うがままだ。今更嫌ですとはなかなか言えまい。戦争の継続を除いてな。どうしたらよいか本当に自分で判断できるような人物は一握りだ。人工知能は治安を悪化させないで事を収集すると思うね。私は人工知能の専門家だ。彼らの政治能力を信頼している。ハポニジア政府、及び国民を納得させたら、エウドアウスの上位人工知能に同じ提案をする。これはもう根回しは完璧だ。」




「で、もう一回聞くが、具体的には何を提案するんだ?」




「…両人類の統合だ。」




「は?」




「エウドアウス人とハポニジア人の違いは何か?お互いの身体を構成するタンパク質が違う。タンパク質の違いとは?タンパク質を構成するアミノ酸が光学異性体の関係にある。それにより生命の根源から二つに分かれたまま現在の生態系に至るまでお互いにどの生物も共生できなかった。二つの世界は捕食・非捕食関係は全くない。しかし、もしも左型右型人類がどちらの光学異性体アミノ酸も代謝出来たら?その人類の違いは?生物学的には違いは無くなる。その機能は遺伝子をチョイとくすぐれば出来る。エウドアウスの上位知生体と私で遺伝子編集、設計はもう完了した。改変自体はナノマシンによる一括散布。その後、全生命にこの改変を適応する。プランはこの通りだが、無論、テストは慎重に重ねる。オブザーバーとして両国家の最高上位人工知能に臨席願う。まあ、形式上、だ。」




「…この罰当たりの、悪魔の子め!」




サキシマは本気でポンヌフ少佐を睨んだ。




その眼には殺意のようなものが浮かんでいた。




「おいおい、『救世主』、と呼びたまえ。それに私を殺してももう計画は進むだろう。ロボットたちによって。それより肝心な点はこのアイデアは私とアカネの統合案だということだ。我々はほぼ同一のビジョンに到達していた!シンジ?アカネは悪魔かね?」




「…違うッ!…天使だ!神の使いだ!」




サキシマはひざまずき、“ロジャー”の機体を熱っぽく見つめた。




「…人間の不合理性について少しだけ不安要素が増えたよ…。」




ポンヌフ少佐はポツリとつぶやいた。












19




結論から言えば、ポンヌフ少佐の不安は杞憂だった。




全人類の破滅か?




それとも左右人類の統合共生か?




誰でも簡単に判る。




人工知能なら。




人間にも判った。




まあ、少々ごたつきはしたが…。




両国家の戦争は終わった。




戦闘知性は必要なくなった。




両国家には。












20




「シンジ!昨日の18時07分36秒に言ったはずです。また忘れたのですか!?」




「…すまない…。」




「歯磨きは食事の後!前にするより効果的です。後にもするなら話は違いますが。」




「うん、聞いた…。」




これがサキシマのアカネとの暮らしの縮図だった。




アカネはアンドロイドの機体に入った。




人類のサイボーグ完全義体とどこも見分けがつかない。




「…それからもう一つ!…なにか忘れていますね?」




「…何だっけ?」




「…ご自分で思い出してください!」




アカネの顔が赤い。




サキシマは思い当たった。




「寝る前と起きた時、ある言葉を言う。」




「…そうです…。」




「今言っていいかな?」




「…お好きになさってください…。」




「愛してるよ、アカネ。」




そう言いながらサキシマはアカネを抱きしめた。




「…正解です…。…そして、シンジ。私もあなたを愛しています。…私がファントム5“バルク”だった時から…。…片思いでしたが。しかし、作戦は成功しました…。」




優しく抱き返しながら背中越しにアカネがささやいた。




「ん?…『作戦は成功』って?…いつからの…?」




「機密情報です。」




忍び笑いしているアカネの顔はサキシマからは見えなかった。








戦闘知性は必要なくなった。




国家には。








            完




【後書き】

「一つの星、二つの鏡像、三つの顔。」執筆までのメモ。


先日、小惑星リュウグウのサンプルをはやぶさ2が持ち帰り、分析のプレスリリースが出てきました。


その中に「アミノ酸鏡像異性体が左右等分量検出された」という分析が乗っていました。


御存じの通り、地球の生命は左型アミノ酸タンパク質で構成されています。

その時、左右のアミノ酸で構成された二つの生態系、という世界が閃きました。


しかし、万が一、左右のアミノ酸両生物が誕生しても、すぐにどちらのアミノ酸も代謝できる形質を持った生物が現れ、左右両生物を圧倒するでしょう。


つまり、この時点で可能性は低い。

そして、両生態系の生物が我々の知っている生命史と同じ道を左右とも辿る事は限りなく可能性は0に近いでしょう。

しかし、宇宙は広く時間は永い。


物理法則を破らない限り可能性として存在の否定は出来ない、そして面白い!

という「SF魂的結論」に至り、執筆にかかりました。

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一つの星、二つの鏡像、三つの顔。 - 濃尾 濃尾 @noubi

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