第15話

 アスファルトの道路を過ぎ、コンクリートで固められた山の裾に辿りつく。ここからまだ、もう少し登らなければならなかった。


「とうちゃーく! おおー! ここまで登ったら眺めいいな!」


「あっ……ほんとに……大丈夫そうですね……」


 案内した萩森のほうが息を切らしている。


「あはは。アイドルは体力ねーとできないからな」


 少しの間、乙女は萩森が息を整えるのを待った。


「ここがあたしの任地?」

「ええ……ようこそ待宵屋敷へ! ははは」


 いささかとってつけたように言い、萩森は入口の鍵を外し始める。厳重に閉じられているようで、手間取っているようだった。


「おお、広いなあ」


 建物の中の空気は心なしかひんやりしている気がする。


「今電気付けるんで、待ってくださいね。暗い中歩き回ったら危ないですよ……おかしいな。電気はきてるはずなんだけど……」


 ぶつぶつ言いながら、萩森はその辺をまさぐっている。


「お、点いた……。うわあ……」


 中は、乙女が想像していたよりもずっと傷んでおり、老朽化が進んでいるようだった。


「ずっとほったらかしでしたからね……。まあ、だから武音さんに来てもらったわけなんですが」


「おう」


 乙女の頼もしげな返事を聞き、萩森は嬉しそうに顔をほころばせる。


「もうご存じかと思いますが、一応ここの説明聞きます?」

「忘れてるとこあるかもしんないから、お願い」


「わかりました。ここ、待宵屋敷は明治後期、地元の実業家・西城寺宗吉氏が居宅として建てた擬洋風建築の建造物です」


 おそらく暗記しているのだろう萩森は、スラスラと説明を続ける。


「西城寺家は後年、政治の世界にも進出し、斧馬の地で繁栄していたのですが、およそ十年前西城寺家最後の当主・西城寺兼吉氏が他界して後、跡取りがいなかったため、本家は断絶してしまいます。その後すったもんだあって、この待宵屋敷は保存されることになりました。南二名市の公の施設となり管理されることになったのです」


「で、この建物を使ってなんとかして儲かるようにすりゃいいんだよな?」


「儲かるといいますか……まあ収益化出来れば理想ではあるのですが……」


 萩森は、何事か思案しているようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年9月20日 12:00
2024年9月21日 12:00
2024年9月22日 12:00

夏花 八花月 @hatikagetu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画