第14話
「いや~武音さんが話しやすい人で本当によかったですよ」
萩森の言葉を聞いて乙女は、快活に笑った。
「まーな。元アイドルだし歳も若いし、で、どんなのが来るのかと思うよな」
「いえいえ! そういう偏見は全然無かったんですけどね。その……」
萩森は少し言い淀んだが、
「もう一人のおたすけし隊の方が……なんというか、ものすごく話しにくい人なので」
と、結局すんなりと喋ってしまった。
隠してもいずれわかることだと思ったのだろう。聞いている乙女も、特に大袈裟に反応することなく、へぇ、と軽く返事をした。
「この仕事長いの?」
「えっ?」
「いや、なんつうのかな。こう、町おこしみたいな」
「ああ、いえ、僕臨時職員なんですよ。ついこの間採用されまして。色々あって、係の者の補助みたいなことをすることになったんです」
とはいうものの、ノーネクタイではあるが白のYシャツにスラックスと一応カチッとした格好はしていた。
「そうなの?」
乙女は意想外の声を出す。
「ああ、そういえばあたしの担当の人、女だって聞いてたな」
「ええ、山名雅樂って人ですよ。なんか今日は体調が悪いらしくて」
萩森は軽くため息をつきながら言った。
「……もしかしてあんまりやる気ない感じの人?」
さっき市役所の中で会った人間を思い出してみても、それらしき人物はいなかった。
萩森の態度や初日から休んでいることなどを考え合わせ、乙女は勘ぐってしまったのだが、
「いえ、やる気はある人です。なんか色々事情があるみたいで……やる気がありすぎるっていうか……」
彼は即座に否定した。しかしなんとなく要領を得ない話し方である。
「あら、
「ああ、こんにちは」
萩森に話しかけてきた老婦人がいる。二人は既に商店街に差し掛かっており、ほぼシャッター街と化しているものの、他よりは多少人通りが多いのだ。
「こちらのかたは、今度地方振興おたすけし隊で斧馬に来られた武音さんです」
「よろしくお願いします。武音乙女と言います」
「へえぇ……おたすけし隊の……」
挨拶した乙女を、老婦人は目を大きくして眺めまわす。
「じゃああんたが、あの待宵屋敷に……はあぁ。へえー……」
聞いていてもどかしくなるような声の出し方であった。
「まあ、なんか変わったこととか困ったこととかあったら、すぐ誰かに言いなはいよ。市役所の人間でも近所の人でも誰でもええけんなあ……なんなら警察でも……」
「ちょっと! 山本さん!」
萩森が慌てて制止すると、老婦人は〝ああ、ごめんごめん〟と言いつつ、去っていく。
「すいません、変なこと言ってましたけど、あんまり気にしないでもらえると……」
「ああ、いいよ。あたしの心配してくれてたんだろ。いい人じゃん」
「いやあ……そう言ってもらえると助かります」
萩森はほっと胸を撫で下ろしたようだった。
広い敷地を持つ小学校の横を通ると、坂道である。
「ここからちょっときついかもしれませんが」
「へーきへーき」
視界を遮る物は何もないので、かなり傾斜のキツい坂道は全て下から丸見えだったが、乙女は意に介した様子はない。
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