第6話 天国の竹トンボ修業



 竹葉は考えた。山田をいかにして矯正するかを。中学校の授業中も、教室の後ろで山田を監視しながら考え、家に帰ってからも考え続けた。


 そして、思いついた。


――竹葉の思い描く、理想の竹トンボと触れ合える1日を体験してもらおう、と。


 竹トンボが大好きになれば、竹トンボに対して愛着も生まれ、壊すなんてことも、竹トンボバトルのルールを遵守しようという気持ちも芽生える筈だ。


――そうだ。山田が竹トンボが大好きになれば、全ては解決する。


 よし。そうと決まれば、すぐに動かなければ。

  

 山田は中学生。丸一日空いているとしたら、それは土曜日か日曜日かのどちらかだろう。

 竹葉も、竹トンボ協会に作成して送らなければならない調査書や資料等もあるが……徹夜で一日全力でやれば、なんとかなりそうではある。山田に土曜日と日曜日の用事の有無を聞いて、その結果次第でスケジュールを調整することにしよう。


  

 後日、山田に問い詰めた所、今週の祝日は両方とも空いているということを聞き出すことが出来た。山田は、「何故……そんなことを熱心に聞いてくるんです? ……既に嫌な予感がするんですが」と、ぶつくさ言っていたが、笑顔で誤魔化した。


 予定としては、なるべく早い方がいいということで、土曜日に竹葉がプロデュースする「理想の竹トンボ生活」を行うことにする。

 

 竹葉は、土曜日の天気も考えて、タイムスケジュールを作り――――完成した。

 会心の出来だ。竹トンボバトラーなら、誰もが楽しそうだと参加したがることだろう。

 試しに、竹トンボ協会の竹葉の先輩達にこのタイムスケジュールを送って見た所、「ずるい」「ウラヤマシイ」「俺と代わってくれ」etc.

 全員が羨ましがっていた。


 これは、もう成功間違いなしだ。帰る頃には、山田も竹トンボが大好きになって、竹トンボを売ったことを泣きながら後悔することだろう。



――そんなタイムスケジュールがこれだ!

 

 

 竹葉作  「理想の竹トンボ生活」


 

・7:00~12:00


 外で気持ちのよい、朝の空気を吸いながら、昼ご飯まで竹トンボバトル!


・12:00~12:30


 竹葉による竹トンボの扱い方についての注意を聞かせながら、ぱぱっと昼ご飯。


・12:30~16:00


 午後は雨が降る予報なので、駅前にあるショッピングモール内の竹トンボバトルアリーナでひたすらに竹トンボバトル!


・16:00~18:00


 天気予報では、そろそろ雨が止むらしいので、気分転換にショッピングモールから外に出て、夕焼け空と共に、竹トンボバトル!


・18:00~


 夜も、夜空を美しく舞う竹トンボを見ながら、バトル…………と、言いたいところだが…………さすがに家に帰すべきかもしれない。

 まぁ、これは追々考えれば、良いだろう。山田が「もっと竹トンボバトルやりたい!!」、と懇願したのなら、一時間ぐらい延長するのもありかもしれない。


 

 竹トンボバトルが出来る時間は、合計で10時間30分。10時間以上、竹トンボが出来るとは……なんて幸せな日なのだろうか。どんなに心が邪悪でも、これだけやれば竹トンボの魅力に気付き、心を洗われることだろう。

 問題は、山田が既に協会からプレゼントされた竹トンボを既に売ったことだ。……思い出すだけでも腹立たしいが、兎にも角にも山田は今は、竹トンボが手元にない。だが、それも竹トンボ協会から使われていない竹トンボを一つ借りて、それを渡すということを思いつき、解決した。



 ラインで友達登録しておいたさせた山田に、土曜日に「理想の竹トンボ生活」を行う旨を伝え、ついでに、タイムスケジュールも送っておく。


 さぁ――土曜日が楽しみだ。



 

――――――――――――――――――――




 

 山田に送った、竹葉が考え抜いて作った「理想の竹トンボ生活」だが、既読はついたが、何の返答も無い。何かしらのリアクションをとってもらわなれれば、竹葉も反応に困る。


 そうして――とうとう計画の実行日である土曜日となった。

 竹葉は山田の家に行き、少し早めの6:30には、家の前には着いた。早いが、ピンポンを押そうか竹葉は迷う。この家には山田だけで、ご両親がいない。一人で暮らしていると資料で見たが、山田はもう起きているのだろうか。

 山田の家庭環境は複雑だ。父親も母親も家にはまったく帰らず、お金だけを渡しているらしい。

 さり気なく前に聞いてみたが、山田は「まぁ、ホビアニの世界って家族がいないんじゃないかって子供なんて普通にいるし」、という訳の分からない返答が返ってきた。山田の性格が歪んだのには、こうした事も関わっているのかもしれない。

 

 悩んだ末に、竹葉は山田家のピンポンを押した。

――出てこない。


 もう一度、押す。

――出てこない。



 やはり寝ているのか?、と竹葉は考え…………とりあえず7:00まで待ってみよう、とスマホの今の時間を確認した。すると、一つのラインが返ってきていた。

 山田からだった。

 内容は――「本当に来たんですか? 流石に冗談だと思ってました。あぁ、あと今日は体調が悪いのでパスで」


 …………。


「…………」


 竹葉は、山田の家のピンポンを無言で連打した。ラインには、「早く出て来い!」と怒りのスタンプも添えて送った。

 それから10分が経った頃、状況は動いた。


「あなたですね。無理矢理ラインの登録をさせ、怪文書を送って来たり、朝から家の前に居座って、騒ぐ変な女というのは」


 その言葉に竹葉はイラッとして、後ろを振り返って、文句を言ってやろうとした。

 だが、その言葉の主の格好を見て、何も言えなくなった。


「――――――なんで?

  ……なんでがいるのよ」


「そりゃ通報を受けたんですよ、この家の人からね」


「ッ――――――!!

 私は怪しい人間じゃないわ!!」

  

「はいはい、続きは警察署で聞きますよ」


「いや、本当に違うの! 私は竹トンボ協会に勤めている人間なのよ!」


「あの……嘘つくのやめてもらっていいですか? 反抗するつもりなら、制圧しますよ」


 警察官は竹トンボを腰のホルスターの様なケースから取り出すと、構えた。

 ……仕方ない。こちらも竹トンボを構える。

 竹トンボバトルだ。



 

 勝負は一瞬だった。竹葉の竹トンボが警察官の竹トンボを瞬殺し、呆然と固まる警察官に竹葉は、「もう一度言います。私は竹トンボ協会の人間なの。これで信じて貰えましたか?」と言った。警察官は「この強さ……まさか本当に……」と呟いた後に、こくこくと頷いて、ようやく竹葉の言うことを信じてくれた。


 その後、警察官は帰ろうとしたが、竹葉は呼び止め、ある頼み事をした。

 

「警察官であるあなたが、私の代わりにピンポンしてくれませんか。中にいるクソガキに、家の外に出てくる様伝えて欲しいんです」


「は、はい……」


 そうして――警察がピンポンを押すと、山田は意外にも、すぐに扉を開いて出てきた。沈黙して、俯いているが、山田だ。

 竹葉は、そんな山田の腕をガシリと掴むと、連行した。時間を食ったが、早めに着いていたので、丁度、予定通りの時間だ。

 山田は「たすけて……」と警察官に手を伸ばしたが、警察官は見てみぬ振りをして、帰っていった。


 幸先が悪い。あと――誰が変な女だ。

 本当に、このクソガキは早くどうにかしなければならない。

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ホビアニのような世界に転生した転生者さん、タブーを犯してしまいました 出来立てホヤホヤの鯛焼き @20232023

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