SF世界の重い閉塞感に咲く色は

何もかもが管理されている世界、計画降雨、三毛猫型のロボット。
序盤からこれでもかと未来を想像させる仕掛けが満載だ。
だが、
「この世界にいない人間」
「エラー通知」
――主人公は、無機質に表現される。

役所の担当者だけは人間らしいセリフで場を取り繕う。
本当は困った時の眉はつり上げられるのに、建前として八の字の下がり眉をしてみせたり。
ストーリー上の横幅だけでなく、立体的な空間を見せられるようだ。

広がりそうで広がらず、かえって狭まっていく世界に読み手が窒息してしまわないうちにラストを迎える手腕は、本当に素晴らしい。
「空席」のある世界や主人公はモノトーンに見えるのに、夢見心地でうたい、バスの中で飛び跳ねる「アリ」だけは、私の心にカラフルに刺さった。