主人公の『わたし』は、カフェで同じテーブルに着いている『彼』のことを「悪くない」と言う。
その理由がだんだん明かされていく感覚が、ミステリアスな『わたし』の独白のような淡々とした地の文によって読み手にもたらされる。
私はまず、それを楽しいと思った。
犯人を見つけ出す、トリックを暴き出すようなミステリーではない。
が、『わたし』が失ったものは何なのか早く知りたいと、目がページをめくる手を急かす。
登場人物は多くない。
おじいさんとの思い出を含め、切ないシーンが多い。
それなのに、時々はっとするような美しさを見せる文章が私は楽しいと思うし、とても好きだ。
『わたし』と『彼』のその後を想像してしまうことを、私に許してほしい。
また、応援コメントを書かずにこのレビューコメントを書き始めてしまったことも許してほしい。
それだけのおもしろさがある作品だと、このコメントを読んだ方々には、わかってほしい。