8 幕間、誰だって自分の人生の主人公なのだ




 わたくしの名前はクーリント・アマルカ。クーリント家の次女。


 帝国立学習院高等部の『学生会』会長。

 皇太子の花嫁候補、【小帝区】の"姫"。

 クーリント家の副産物。


 わたくしには様々な肩書がある。


 会長、会長先輩、会長さま、マルちゃん先輩、お姉さま……その他もろもろ。


 中でもわたくしが気に入っているのは、『学生会会長』という役割なまえですの。


 それは前会長であり、現皇帝の甥にあたるカグラギ・ハント元会長の推薦があって、生徒たち大多数の後押しがあって得られた、わたくしの人生においてもっとも誇りある役割なのだから。


 ……わたくしは内心、期待していました。


 他家を差し置いて【小帝区】からの花嫁候補に選ばれ、皇太子の住まう『桔花邸』に挨拶に赴いた、あの日。


 ……あの御簾の向こうには、ハント元会長が座っておられるのでは、と。


 それは何も、都合の良い夢まぼろしではなかった。事実としてハント元会長は皇族の血筋であり、『桔花邸』にも住まわれている。「現皇帝の甥」というのは偽りの身分、本当はあの人こそ真の皇太子なのではないか、と――


 しかし、わたくしの希望は打ち砕かれた。


 どころか、磨り潰して粉にして、風に吹かれて消えていった。


 姿を見せた皇太子、それはわたくしもよく知る人物だった。


 ハント先輩の推薦で「学生会」に加わることとなった、わたくしと同い年であるにもかかわらず学年が下の男子生徒、二学年生のオミクリ・イツセその人だったから。


 あの、地味で冴えない目立たない、影が薄いのだが陰影が濃いのだか、とにもかくにも鬱々じめじめした根暗で猫背なあの青年が――あろうことか、ハント先輩を脇に従え、わたくしを、そして他の姫君たちを見下ろしていた。


 ……最初はさすがに、何かの間違いなのではないか、と思いましたわ。実際、ハント先輩がそばにいましたから……。


 だけど、はっきり「違う」と。「そうだ」と。


 あれはまさしく、皇族の人なのだと。

 正体を表すとはまさにこのことなのだと、わたくしは身をもって知りました。


 ……認めざるを得ませんでした。


 あの陰気な後輩が、わたくしの未来の夫になるのだ、と……。


 あの日、新学期の初日もそうでした。わたくしは登壇する皇太子殿下を見送りながら思いました。覚悟を決めたのです。これから、わたくしが未来の皇后となることを、殿下が宣言なされるのだ、と――


 にもかかわらず、あろうことか!


 ……もう! なんて踏んだり蹴ったり!



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