エピローグ

 それから――半年ほどのち。


 国王夫妻の御前に、あたしとエリオットは二人並んで跪いていた。

 国王と王妃、両陛下の視線は鋭い。その目は主に、あたしではなく息子……王太子エリオットに向けられていた。

 陛下が重々しく口を開く。


「その娘が、おまえが選んだ妃だというのか、エリオット」


 ひえっ……。その圧倒的な迫力に、思わず「ちがいますあたしじゃないです」と言って逃げたくなる。実際半分腰を浮かしていたあたしの手を掴み、エリオットは自身のほうへと抱き寄せた。


「はい」


 はっきりと、強い声で言う。

 ……彼がそうしてくれるなら、あたしも逃げない。彼の隣で、黙って頷いた。

 とたんに、王妃様が頭を抱えた。彼女はエリオットにとっての義母だけど、さすがジュリアンの母だけあって、前妃に遜色なく美しい。純白のかんばせに汗をにじませ、王妃は溜息を吐いていた。


「……一応、先に言っておきます。わたしは、あなたがたの結婚に反対……ではありません。国王陛下が是と言い、エリオットの決意が揺るがぬならば、わたしは反対できる立場にありませんので」


 それ心の中では大反対っていってませんかね王妃様。

 しかしあたしもこの半年でふてぶてしくなった。反対しないというならそれでよしとする。黙ってニコニコ笑っておいた。


「しかし、義母としてなんというか……未来の義理娘となる女性について、きちんと知っておきたいと考えています。……エリオット。彼女の何を、何処を見初めたのか。彼女のどこがそんなに好きなのか、義母(はは)に教えてください」


 あっ王妃様、それはちょっと。あたしが止める間も無くエリオットは目をきらきらさせて立ち上がった。


「はい! 畏まりました義母上!」

「え、エリオット、あのさあ」

「聞かれたからには語らせていただきます! 嬉しいです! ふだんこれをひとに話そうとすると、ジーナが止めるので!」

「えっ、なに、あんまり人に言えないようなこと?」

「その地味顔娘に秘めたる魅力が?」


 前のめりになってくる王妃様と、国王陛下。

 あああいますぐ両陛下の御耳を塞ぎに行きたい。もしくは王宮爆破して鼓膜破りたい。

 目をきらきらさせている両陛下と、同じく楽しそうな顔をした王太子。

 なんなんだ、王族ってのは大体馬鹿なのか?

 そんな馬鹿な……と思いつつ、あたしはもう諦めていた。

 語らないで、と言えば、優しいエリオットは何も言わなくなる。だけどそれで何の解決にもなりはしないのだ。たとえ口に出さなくても、誰に何と批判されようとも、エリオットの想いが変わることはないのだから。


「本当に言っていいのですね? 父上、気持ち悪かったり、ドン引きしたりしませんね? 母上、途中で聞くに堪えないと言って逃げだしたりしませんね?」

「……え。ええ、まあ」

「ジーナも、後になってから怒らないね? そんなところまで人に話すのかとか、それいつ見てたのかとか、このストーカー野郎とか、おまわりさんこちらですとか、衛兵に通報したりしないよな?」

「えっ、ちょっと待ってなんか想定外のこと言おうとしてる?」

「儂も、あんまり慎重に確認されて今すごく怖くなってきてるんじゃが」

「あの、エリオットや。聞いておいてなんですけれどもわたしももう結構です。なんか大体分かったような気もしますし」

「いや、ここまで来たらいっそ言いたい。言わせてください」


 ――と。こっそり逃げかけていたあたしの肩をガシッと掴んで引き戻してから、すでに引いてる両親の前で、エリオットは息を吸い込んだ。自分の胸にあたしをぎゅっと抱き寄せ、がっちり拘束するように抱きしめて、はっきりきっぱり、大きな声でこう言った。



「まず第一に、顔っ!!」



 ――完――

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「突然だが、貴女との婚約を破棄させてもらう!」と言われました。人違いです。 とびらの@アニメ化決定! @tobira

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