マリアンヌ編 中

第18話 フユリン、壊れる

※まえがき

一人称です。

おもしろほのぼのギャグ回です。


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 フェイトが仲間に加わったことで、一匹の馬だけでは移動が困難となってしまった。

 適当に野生の馬を調教しようかとも考えたが、そもそもフェイトは馬に乗れないらしい。


 乗馬は悪役令嬢のたしなみだと聞いていたが。


 仕方ないので、たまたま立ち寄った村で簡易的な荷車を買うことにした。

 馬に取り付けて、フェイトにはそこに座ってもらう。


 待てよ? ラミュをこの村に置いてけぼりにすればいいのでは?


「とかなんとか考えてるんじゃないですかフユリンさん!!」


「どうだろう」


「そんなの許しませんよっ!! たとえ両手両足を潰されようが、噛みついてでも離れません!! お尻にかじりついちゃいます!! おしりかじりむし〜!!」


 ちっ。


 というわけで荷車を買い、ついでに宿を取ることにした。


「フユリンさん、ラミュちゃん、すみません。ご迷惑をおかけして」


「気にするなフェイト。どうせ悪役令嬢から盗んだ金だし」


「なーんかフェイトさんにだけ優しくありませんかぁ!?」


「お前に対してだけ冷たいんだ」


 ついでに食料も買い、部屋を借りた。

 一人用の部屋なので、ラミュとフェイトには床で寝てもらう。


「で、フェイト。なぜお前は記憶障害になってしまったのだ? 性格も悪役令嬢っぽくないし、誰かの魔法か?」


 フェイトが視線を落とす。


「えっと、信じてもらえないでしょうけど、私、前世の記憶が蘇ったんです」


「ゼンセ? なんだそれは」


「うーん、ここらへんの国の宗教にはそういう概念ないですもんね。難しいな、えっと、つまり別の人間の記憶と人格が、本来のフェイトに乗り移ったのです」


「その別の人間というのが、お前」


「はい。詳しいことは説明しづらいんですけど、とにかく、そうなんです。そのせいで、本来のフェイトの記憶が、朧げになってしまいました」


「ふーん」


 まだ少ししか時間を共にしていないが、フェイトは嘘が苦手だ。

 おそらく、本当なのだろう。


 不思議な話だ。

 つまり、私が潰すべき悪役令嬢フェイトは、もういないことになる。

 かといって、フェイトにかけたパニッシュメント・カラーを解く気はないが。

 もしかすると嘘の可能性もあるし、いまのフェイトも実は極悪人かもしれない。


「さっさと本来のフェイトの記憶をすべて思い出して、マリアンヌの手がかりを教えてほしいものだ」


「が、がんばりますっ!!」


「ちなみに、いまのお前の、本当の名前は?」


「私の本名はーー」




「そーんなことどうでもいいじゃないですかぁ!! フェイトさんはフェイトさんですよぉ。そ・れ・よ・り、それよりー!! 食べ物も飲み物もあるんですからパーっとやりましょうよパーっと!!」


「黙れ」


「嫌です!!」


 お、反抗してきた。


「旅に出て数日、そろそろマトモなご飯が食べたいですっ!! 私、甘えん坊なのでぇ!!」


「自分で言うな」


 まぁ、調子に乗って買いすぎてしまったし、少しくらい消費しても問題ないだろう。

 荷物が重くなって馬が疲れやすくなっては困るし。


 フェイトが中身の入ったビンを手に取った。

 赤い飲み物だった。


「ラミュちゃん、これは? 水じゃないみたいだけど……」


「トメイトジュースですよフェイトさん。トメイトという野菜から作った飲み物で、健康に良いのですぅ」


「へー」


 そんなもの買ってたのか、こいつ。


「悪いがそれは今のうちに飲み干してくれ」


「なんでですかーっ!!」


「私はトメイトを摂取すると気を失う。アレルギーなんだ」


「えぇー!! そんな人いるんですね」


「ていうか今日のお前、いつにも増してうるさいな」


「フェイトさんと区別がつくようにぃ!!」


 なんじゃそりゃ。

 それから私たちは、ささやかなパーティーをした後、眠りについた。


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 空が白みがかってきたころ、目を覚ました。

 肌寒い。

 あれ? 服を着ていない。なんで裸になっているんだ?


 まさかラミュのやつがイタズラをして……。


「うわっ!!」


 私の隣で、全裸のフェイトが眠っていた。

 おかしい、フェイトは床で寝たはずなのに。


「起きたようですねぇ、フユリンさん」


 ラミュも裸だった。

 床に座って、こっちを睨んでいた。


「い、いったい何をしたんだ、ラミュ」


「私? 私ですかぁ? そうですか、フユリンさん、なにも覚えてないんですね」


「え?」


 ふと床を見渡せば、何本かの空きビンが転がっていた。

 そのなかには、トメイトジュースまである。


「フユリンさん、水平思考クイズでもしますか」


「な、なんだそれは」


「私が通っていた貴族学校で流行っていた遊びですよ。謎を出して、回答者は質問をするんです。私が『はい』か『いいえ』で答え、何度かそれを繰り返して、真実に近づくゲームです」


「そ、そうか」


 そんなことよりこの状況を説明してほしい。


 思い出せ、昨晩私は……そうだ、三人ではしゃいでいるとき、喉が渇いて、ついうっかりトメイトジュースを飲んでしまったんだ。


 それで頭がクラクラして……。


「では、いきます。……ある女にはとっても仲良しで可愛い可愛い仲間がいました。だけど、女はその子の大事なものを奪ってしまいました。なぜでしょう」


「え? えーっと。その大事なものは、お金か?」


「いいえ」


「物理的なものか?」


「いいえ」


「その仲間にとって特別なもの?」


「はい」


「……身体的な?」


「はい」


 嫌な予感がしてきた。


「女は、強引だった?」


「はい」


「無理やり服を脱がせてきた?」


「はい」


「……女は、普段と違った?」


「はい」


「女は……この部屋にいる?」


「……はい」


 まずいまずいまずい。


「ずいぶん勘が鋭いですねぇ、フユリンさぁん」


「その仲間にとって、はじめてだった?」


「はい」


 ラミュの頬が赤くなった。

 嘘だろ嘘だろ嘘だろ。


「答えを言っていいか?」


「どうぞどうぞ」


「女は、暴走して仲間のファーストキスを奪った」


「半分正解ですね」


「半分!?」


「正確には、トメイトジュースを飲んで酔っ払った女が、私を押し倒して服を脱がせた挙句、キスしまくってきた。です」


「…………すまん」


「すまんで済むなら警察はいらないんですよぉ!!」


 嫌な汗がダラダラ出てきた。

 そういえば、幼い頃トメイトジュースを飲んでしまったあと、リシオン姉さんに『もう飲むな』とキツく忠告されていた。

 確かあのときの姉さんも、裸だった。


「第二問」


「二問目もあるのか!?」


「女は、普段クールなのに、その夜だけは赤ちゃんみたいに甘えて、知り合ったばかりの仲間の豊満ムチムチおっぱいを吸いました。なぜ?」


「うわああああああ!!!!」


 フェイトが目を覚ました。


「あ、おはようございます、フユリンさん」


「う、あ、えっと」


「あの、私、気にしませんから、昨日のこと」


「……」


 フェイトも頬を赤くした。


「ちょっぴり怖かったですけど、優しくて、少し……よかったです」


「頼むから私を殺してくれ!!」


 く、くそっ!!

 だから姉さんはアレルギーだと嘘をついてまで、私にトメイトジュースを飲ませなかったのか。

 私が、悪酔いするから。


 性的暴行をしてしまうから!!



 もう、二度とトメイトジュースは飲まない。

 絶対に。


 すべてのトメイト畑は、私が潰す。





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※あとがき


失望しました、フユリンのファンやめます。

パーティーに男がいなくて本当によかった。


次回からは元通りの湿っぽいシリアスストーリーでいきます。

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悪役令嬢協会ぶっ飛ばせ!! ーーすべてを失った私は悪女どもをゴブリンに変えるーー いくかいおう @ikuiku-kaiou

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