第14話 この世界に魔王がいたんですか?
「あの、魔王様って……この世界に魔王がいたんですか?」
私は何故か”魔王”が気になった。きーくんのあだ名と同じだからかな……?
「ええ、そうですよ。それはもう立派な魔導士で、見た目もとても美しかったと」
「……え? 魔導士? 魔物の王、とかじゃなく?」
キョトン、とする私を見たミシェレさんが、面白そうに笑う。
「うふふっ、違いますよ。”魔王”という称号は、魔法使いの王という意味から来ているのです」
「魔法使いの王……!?」
ミシェレさんに言われて納得した。確かに略したら魔王になるよね。
ちなみに最上級の魔法使いに与えられる称号が”魔導師”で、その魔導師の頂点が”魔王”なのだと、ミシェレさんが教えてくれた。
「あの、その魔王様は今どこにいらっしゃるんですか?」
「魔王様は大聖女様がお亡くなりになった三ヶ月後に、お亡くなりになったと伝えられておりますよ」
「……あっ。そうなんですね……」
魔王はもう亡くなっているのか……と思うと、少し寂しい気分になる。
「そう言えば、もうすぐ感謝祭がありますよ。今年は大聖女様が世界を救ってから百年目ですから、盛大に行われるんじゃないでしょうか」
「ひゃ、百年?! え?! そんなに経つんですか?!」
「ええ。百年経ってもこの世界の者はみんな、大聖女様と魔王様に感謝しているのです」
まさか、リーディアが亡くなってそんなに時間が過ぎているとは思わなかった。
せいぜい五年か十年ぐらいだと思っていた。
「……あれ? だとしたら、オリヴェルさ……神官長様は今おいくつなんですか?」
「神官長は御年百五十歳になられるかと」
「ひゃ、百五十、ですか?! え、でもどう見ても二十代後半にしか……」
オリヴェルさんが百五十歳だなんて……! あまりにも衝撃的すぎる。
こういう場合は美魔女じゃなくて、何て言うんだろう……? 美悪魔?
「神聖力や魔力を多く持つ者はその分、寿命も長いのですよ。だから比較的魔力が高いエルフも長寿なのです」
「ええ〜〜?! じゃあ、リーディアや魔王様も……」
「ええ。確かお二人とも二百歳は余裕で超えていらしたかと。それでも魔力賞に比べれば、早くにお亡くなりになった方ですけどね」
「…………」
私は驚き過ぎて、もう声が出なかった。
そんなに寿命が長かっただなんて! しかも寿命で亡くなった訳じゃない……?
あまりの事実に驚いていると、突然図書室の扉が開かれた。
「えっ、オリヴェル様……?」
現れたのはオリヴェルさんで、珍しく焦っているらしく、険しい表情をしている。
「ミシェレ書記官。何故貴女がここに……?」
オリヴェルさんはそう言うと、ミシェレさんに鋭い視線を投げる。
何だか怒りを抑えているように見えるのは、気のせいではなさそうで。
「あのっ! 私がヘリヤさんにお願いして連れて来ていただいたんです! この世界のことや神聖力のことを詳しく聞きたくて……!」
私はミシェレさんを庇うように、オリヴェルさんの間に立った。
「そう言う時は、私に聞いてくださいとあれほど……っ、」
オリヴェルさんが、どうして自分に、と言いかけたけど、私が頼らなかった理由を思い出したのか、そのまま無言になった。
──やっぱり、ここの会話は盗聴されている──!
まさかここにミシェレさんが来るとは思わなかったから、会話を聞いて慌ててやって来たのかもしれない。
「失礼ながら神官長。私はヒナタ様の質問にお答えしていただけですよ。業務も怠っておりません」
「……っ、それは、そうだが……っ」
ミシェレさんがビシッとオリヴェルさんに言った。
堂々としているミシェレさんカッコイイ!
「あの、オリヴェル様。私、ミシェレさんに私の教師になって貰いたいんです! 本来の業務のお邪魔をしない範囲でいいので……! ダメ、ですか……?」
「それは……っ」
私は何とかミシェレさんから教えて貰いたい、とお願いする。
だってこの人なら、偏った内容じゃなく、正しく公平な目線で世界を見ていると思ったから。
私はお祈りポーズのまま、じっとオリヴェルさんを見つめ続ける。
こうなりゃ持久戦だ。
そうしている内に、私の視線に耐えられなくなったのか、オリヴェルさんが両手を胸の辺りまで上げて、降参のポーズをとった。
「……わかりました。リーディア様がそこまで仰るのなら、ミシェレ書記官に担当して貰いましょう。ミシェレ書記官はそれで良いですか?」
「ええ、ヒナタ様をお教え出来るなんてとても名誉なことですもの! 喜んでお受けしますわ!」
私はミシェレさんが教師役を引き受けてくれたことに感激する。
「有り難うございます! 一生懸命頑張りますので、よろしくお願いします!」
「ふふ、こちらこそよろしくお願いしますね」
「あ、オリヴェル様にも無理なお願いを聞いていただき有り難うございます。ミシェレさんのお仕事の邪魔にならないように気をつけますから」
「いえ、喜んでいただけたのなら結構です。では、私はこれで」
オリヴェルさんはそう言うと、図書室から退出して行った。
……何だか機嫌が悪そうに感じたけど、気のせいかな?
* * * * * *
──ミシェレさんが私の教師になってくれてから、数日が経った。
ミシェレさん──ミシェレ先生との授業はとても楽しくて、私はこの世界のことについてかなり知ることが出来た。
やっぱり、本だけでは知識が偏ってしまうし、上手く伝わらないことがあるんじゃないかなって。
「では、ヒナタ様。今日は神聖力の実技練習を行いましょう」
「はい! よろしくお願いします!」
私は、ついに神聖力の使い方がわかるんだ、とワクワクする。
今まで私が使ったのは、浄化だけだったから、他にはどんなことが出来るんだろう、とずっと思っていたのだ。
「まず、神聖力で一番有名なのは”治癒”です。この力は怪我や病気を治すことが出来ます。そして次に”浄化”。こちらは毒素や瘴気などの”悪きモノ”を祓い、状態を正常なものに戻す力です。これらの奇跡を起こす方法を聖魔法と呼んでいます」
私はミシェレ先生の言葉を必死に記憶する。
神聖力を使った魔法は聖魔法って言うんだ……。何だかカッコ良いな。
「あの、ミシェレ先生。”悪きモノ”とは何ですか?」
私は手を挙げてミシェレ先生に質問した。
「あの、ミシェレ先生。”悪きモノ”とは何ですか?」
私は手を挙げてミシェレ先生に質問した。
「それは、生きとし生けるものの持つ良くない感情や悪意──悪い想念が溜まって生まれたモノですよ。例えば、苦しみや悲しみ、憎しみに恨み、苦痛、絶望……そんな負の感情が”悪きモノ”となって、人々に害を齎らすのです」
ひゃー! それって怨念とか呪いとかそんな類いのものなのかな……?
ファンタジーの世界なのに、ホラー要素もあるなんて!
「ふふ、ヒナタ様は”悪きモノ”が怖いようですが、それらはここ神殿には入って来れませんから、ご安心ください」
真っ青な顔で怖がっている私を安心させるように、ミシェレ先生が教えてくれた。
「それに、ヒナタ様は”悪きモノ”を浄化出来るじゃありませんか。何も恐れる必要はありませんよ」
「そ、それはそうかもしれませんけど……っ」
出来ればそんなものとの遭遇だけは回避したい。
さっきオリヴェルさんが言っていた神殿の外が危険、という言葉は、”悪きモノ”がいるから危険ってことだったなのかな?
「基本、”悪きモノ”は戦場のような荒廃した場所に顕れます。森の奥地でも時々目撃されていますから、そういう場所に近づかなければ大丈夫ですよ」
「本当ですか?! そうします! 絶対に近づきません!!」
私はミシェレ先生の言葉をしっかりと胸に刻んだ。
それに戦場はともかく、森の奥とか怖いし迷いそうだし……現代っ子の私はそもそも行こうと思わない。
「ただ、何かあった時のために、浄化を始めとした神聖力は使いこなせるようになっていた方が良いでしょう」
以前、市街地の外れにある貧民街に、”悪きモノ”が顕れたことがあるらしい。
その時は、オリヴェルさんを筆頭とした聖騎士団が浄化したと、ミシェレ先生が話してくれた。
「聖騎士団……! 何だかカッコ良さそうですね!」
「ふふ、そうですね。彼らは若い女性たちに大人気ですからね」
「へぇ〜〜。見てみたいなぁ……」
「その内、聖騎士団と会う機会もあるでしょう」
確かに、ここにいればその内見かけることがあるかも! ちょっと楽しみ。
「ささ、話がそれましたが、授業を続けますよ。まず神聖力についてですが、治癒や浄化を行うにはいくつかの方法があります。例えば、聖なる炎”聖火”で”悪きモノ”を浄火したり、聖なる水”聖水”で身体を癒したり、聖なる風で結界を作る”聖域”、そして聖なる力で清められた地である”聖地”などです」
ミシェレ先生が神聖力の使い道について詳しく教えてくれた。
てっきり浄化は対象に触れて行うものだと思っていた私は驚いた。
神聖力をそれぞれの属性に変化させて使う方法があったなんて。
初恋が実る瞬間、異世界召喚に邪魔された私。聖女なんて断固拒否させていただきます! たぬき @santaroh
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