第4話

「橋姫とあろう者が、あんな小娘に情けをおかけになるのですか」

「ただの気まぐれじゃ」

「同族の情け、ではなくて?」

「我が身が血の通う人の子であったのは遠い昔のことだ」

 この気まぐれの橋姫に、童はため息をついた。

「莉子ちゃん、ちゃんとお姉さんと仲良く出来ていますかね」

「ここまでしてやったのだ、上手くいっておらねば、呪ってやらねばならぬ」

 そう言いながら、橋姫は空を見上げた。

 ただ、暗闇しか広がらない空を、見上げ続ける。



『滝ちゃん。あのね、温泉出た』

『知ってるわ! ちょ、お前これどうするんだ。ホントどうするんだ!?』


『滝ちゃん。あのね、‥‥‥』

『お前はな! 自覚があるか知らんが、自分でどうにもなくなると、わたしに言うのも大概にしろ。何時までも何とかはしてやれないんだから』

『そんなことより、滝ちゃん。あのね、』

『言ってるそばから!』


『滝ちゃん。あのね、』


『滝ちゃん。あのね、』


『滝ちゃん』


『‥‥‥たき、』



『滝夜叉。あのね、自分じゃどうにもならないのに、‥‥‥お前がどこにもいないんだ。どうしたらいい?』



 いくら待っても、来なかった。

 未練がましく、こんな場所でずっと待ち続けている自分は愚かだと橋姫は思った。

「きっともう、帰ってこないだろう。もうずっと昔のお話だからねェ」

 そう呟いた橋姫の背中は、少し、寂しそうだった。




 その橋は不思議の橋。

 ひとたび渡れば、帰り来る者はない。

 およそ人の身にはたどり着くのことのできない、遠い果てにあるという。

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宇治の橋姫 小槌彩綾 @825

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