こんにちは、僕は窓です。

真衣 優夢

たぶん、ここは楽屋のようなところ。



どうも、いつもお世話になっております。

窓です。



え?比喩じゃないですよ。

窓です。

ええ、それで合ってます。あなたの想像通りの、窓です。



ああ、ちょっと仕事が入ったので、失礼します。




ガシャーーーーン!!!




いたたた。

なかなか派手に破壊されました。

あ、平気です。すぐ元に戻ります。



今回の仕事は、ヤンキー系の喧嘩シーンでした。

学校の椅子で敵役が主人公を殴ろうとして、主人公が避けて、僕が破壊されます。

僕は割れた破片をキラキラさせて周囲を彩り、主人公がカウンターキックを決める重要なシーンです。

破片の角度とか、絶妙に頬にかすり傷だけ入れるとか、なかなか難しいんですよ。



はい、復活です。

え、早いって?

だって僕、窓ですから。

小説では一行、漫画では次のコマで復活するのもざらですよ。

都合に合わせて、破損を保ったり、直ったりするのは必須スキルです。



あ、次の仕事が来たので、行ってきますね。




………

…………

……………




お、お待たせ、しました…。

ちょっと長かったです。

8年も傷まず曇らず、冷遇されたご令嬢が景色を見て癒しにする窓、という役どころでした。

忍耐も窓には必要です。



7年目にようやく、僕越しに王太子に出会って互いに恋に落ちる、というシーンがあるので、何がなんでも透明度を失ってはいけません。

ご令嬢が食事も満足にもらえない環境でも、僕はピッカピカでないといけません。

もちろん、違和感が出ないように、窓枠とか周囲とかにはさりげに埃つけますよ。

時折ご令嬢が、僕にはあーって息をかけちゃうんで、僕は曇り止めクリーナーも常備です。指紋も困ります。定期的にきれいにします。

いやあ、長丁場の仕事は、達成感がありますね。



おや、また次の仕事です。




びしゃあっっ!!




………はい、終わりました。

サスペンスにおいて、僕はよく血みどろになります。

跳ねた血が、美しくいい感じに僕を彩ってこそなので、かなり緊張します。

破壊されることは、昔ほど多くないですよ。

山奥の別荘とかでない限り、殺人現場ででかい物音出したら、バレるでしょう?



破壊がなくなった代わりに、捜査員や科捜研が僕を念入りにごにょごにょするので、ちょっとくすぐったいです。

でも、それも僕のお仕事です。

僕に引っ掛かった繊維片とかが、犯人の手がかりになるのであれば、僕は気合いと根性で繊維片をキャッチしないといけませんからね。

キャッチさえすれば、科捜研の人は魔法みたいに見つけてくれるので、細部にこだわらなくていいのは安心です。



おや、また仕事が入ったようです。行ってきます。




ひいいいいいい

ひいいいいいいいいいい

ああああああああああああ

あああああああああああーーーー終わりました、うわあああああ。



苦手です。

ホラーは苦手です。

いや、ふつうに怖いですし。

めちゃくちゃくっついてくるんですよ!?



手だけでも怖いです。覗き込まれるのも怖いです。

主人公たちは悲鳴をあげてますが、もっと至近距離にいるの、僕ですから。

べたあっ、ってされると、悲鳴を圧し殺すのに必死です。

時折我慢できず、ガタガタ震えちゃうんですが、この現場ではなぜかNGにならないんですよね。

ありがたいです。あんなの何度もテイクしたくありません。

いっそ破壊してください。潔く破壊されたい。引っつかれるの、ほんとダメなんです。



ゾンビさんとかは、手だけ出す、覗く、引っ付く、破壊と、フルコンボしてくれます。それはそれでものすごく嫌です。

そういえば、最近のゾンビさん、病原菌が原因というのがデフォになってきましたね。

僕、そんなに密閉性高くないんですが、僕でいいのか不安になります。

僕はしょせん、ガラス窓ですからね。




どうも、仕事から戻りました。

今回は楽な仕事でした。

マフィアのボスさんが、ワインを飲みながら夜景を眺めるところに立つお仕事です。

高級なビルの高層階という設定ですから、僕一人ではできません。

窓チームで打ち合わせして配置を決め、光反射場所、透過場所、意味深な影の場所などなど、綿密に役割分担します。

時折、ライフルで狙撃されて割られることもありますが、大勢のうちの運悪い誰かです。

僕はあまり当たりません。運がいいみたいです。

マフィアさんが出てくるお仕事は楽ですね。こういうのが毎回だと嬉しいです。



さて、次の仕事はなんでしょう。




…………。

………………はあ。



ゆっくりお話しできるのは、ここまでのようです。

僕は破壊されてもすぐ直るというスキルがありますが、今回ばかりは命がけです。

次の仕事は、




魔法学園。




この現場では、僕は、次になにが起こるか教えてもらえません。

あるがままであれ、と指示されます。

いや、無理ですって。

人がなんか唱えたら急に鏡にされたり、僕越しにバトルが始まったり、僕がいきなり形状変化して、ムニュンとなって異次元の扉にされたりします。

予測不可能です。怖いです。

それでも、そこまではまだよくて。



なんか特大魔法が出た場合、僕は




時空の彼方




にすっ飛ばされて、




存在が消滅




あるいは、全部なかったことになる




とか、人間ならバッドエンド中のバッドエンドになっちゃうことも、わりとあります。

高頻度であります。



来てほしくなかったなあ。魔法学園の窓なんて仕事。

生きて帰ってこれたらいいなあ。



でも、僕がいなくなっても、きっと大丈夫です。





だってほら、

窓はたくさんありますから。



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こんにちは、僕は窓です。 真衣 優夢 @yurayurahituji

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