第26話 尋問

 リサオレの尋問が始まった。


「すぐに再生するそうね」

「そうさ、どんなに痛めつけたって無駄な事さ」

「あらあら、素敵。まずはどんなものかみせて頂戴」


リサは取り出したダガーで躊躇いなく男の指を次々と切り落としていく。サクサクと切られた指が床に落ちていくが血はまだ出てこない。男も切られた事が解っていないようだ。


このダガー、俺のスキルで魔改造されたもので切れ味抜群、刺し身にされたのが解っていない活き造りされた魚の様なのだろうね、きっと。


数拍の間の後に男が叫び声をあげた。血も吹き出ている。


「い、痛え~!」

「あらあら、痛みは感じるのね」


「く、くそっ!覚えていやがれ」


男が悪態をつくと指の再生が始まった。


「あらあら、見事なものね」


「ざまあみろ」

「あらあら、それじゃ例の物を試そうかしら」


そう言いながら出したのは美夢が薬の精製の為に作った道具の1つ、ゴムチューブだ。まだこの世界にゴム製品は無いのでエルフの森で見つけた木の樹液から作ったものだ。


「全部溶けてしまったらお話が訊けないものね」


そう言って男の手首の上辺りをゴムチューブをきつく縛り付ける。


「な、何をする気だ?」


変な物を付けたれて男もビビっている。


「あらあら、心配?何でも喋りたくなっちゃうわよん」

「ふ、巫山戯るな」



リサの手にはいつの間にか注射器が握られている。中の薬はもちろん美夢が作った魔人判定薬だ。


この世界の者にはこれまた奇妙な道具で、その先に付いているのは針だというのは一目瞭然だ。


それが再生された綺麗な指に迫って来るのだ、言いようの無い恐怖なのかもしれない。


「止めろ!やめてくれ~」

「あらあら、注射を怖がる子供みたい」


リサは潤んだ瞳で、男の人差し指の爪と皮膚の間に針を刺す。


おお~、痛そう。


「うぎゃ~」

「あらあら、大袈裟ね」



直ぐに効果が現れる。男の人差し指がサラサラと粉になって消えて行く。


「何かと思えば驚かせやがって。こんなもの直ぐに再生するさ」


男の強がりを聴いて益々リサの瞳は潤んで行く。やっぱりちょっと危ない性格なのかも?


男の意に反して他の指も消え手の甲も半分無くなった。再生の気配は全く無い、男の顔がひきつる。


ダメを押すようにリサが男の耳元で囁く。


『これ、私の友人が作った"魔人"だけを溶かしちゃう薬なの。再生しないわよん』


"魔人"と聞いて男の顔が真っ青になった。


リサは『私の質問に答えないと次はここに注射しようかしら?』と言って男の股間をキュッと握った。


傍から見ると人の目には、きっと変態として映っているんだろうな、俺。


「よせ、よしてくれ。どこまで知ってる?あんたら何者なんだ?な、何が訊きたいんだよ?」


「あらあら、解ってくれて嬉しいわ。でも質問するのはワ・タ・シ、良いかしらん?」


「わ、分かった」


「あなた達のトップは誰?あなた達の国はどこかしら?」


「ふん、俺達に国は無い。この世界が俺達の国の様なものさ」


「あらあら、大きく出たわね。それでトップは?」


「だから国王なんて者は居ないのさ。7つの一族が仕切ってる」


やっぱりか。


「7つの一族のお話、もっと詳しくよ」


「フータル、ザルワ、グェーバ、マナフ、ゾートス、アベブ、テューボ家の7家だ」


「それぞれの拠点みたいな物は有るのかしら?」

「それは……」



『ヘイシロウ様、何か巨大なエネルギーみたいな物が来ます』


「あらあら、どうしましょう」


『パシーリ、やっと見つけましたよ』

「コルリー様、お助けください」


『ええ、貴方にはもっと働いてもらわなければいけませんからね』


油断したな、本当に助けが来るとは。


空間に直径1mくらいのブラックホールの様な黒い穴が空いていく。


その中に壁に繋がっている部分から男が全て引き込まれて行く。


「ヘイシロウ、不味いわよ。あの男を取られたらこっちの情報が漏れるかもしれない」


「あらあら、確かにそうね。ならば『消去!』」



閉じて行くブラックホールの穴は、1mmまでになっていたが男の消去は実行された。俺には判る。



そして穴は完全に塞がった。


『………………私の亜空間の中の物を消すとは、貴方はどこのどなた様なのでしょう?……ふむ、時間ですか残念です。また貴方にお会いするのを楽しみにしていますよ。では、ご機嫌よう』



穴は完全に消え気配も無くなった。何処から操作しているのか?……厄介なスキルだな、しかし攻撃して来なかった所をみると制限もそれなりに有るようだ。


「始末出来たの?」


「ええ、もちろん」


おっと、リサ、お疲れ様。戻ってくれ。あらあら、仕方ないわねという雰囲気を醸し出してリサは離れて行った。


「やはり魔人は侮れないな」

「ホントね」

「もう少し話を訊きたかったけれど」

「そうだけど、凄く前進したわよ」

「そうかなぁ」


「あのう……事情を説明してもらえると助かるのですが」


「おっと……」


顔を見合わせた俺とセシリア。どうする?


「ヘイシロウ、国王にはお会いする予定だし知ってもらっておいた方が良いと思うのだけれど?」


仲間は増えた事にこした事はないか。巻き込んで申し訳ないが、いずれは皆が戦わなければならない時が来る……か。



ーーーー



「な、なんと、この世がそんな事になっているとは」


「この事は国王にもお話しするつもりですが、各国の足並みが揃うまではご内密に」


「畏まりました」


「でもヘイシロウ、ここの位置がバレてしまったのだから危険よね?」


「そうだね、魔人の襲撃には気をつけた方がいいかも」


「それでしたら信用のおける者達で組織を作ります」


「そうですね。国王にも其辺の事はお話ししておきます」


「ありがとう御座います」





ーー



いよいよ明日はこの国のお偉いさん達と話し合いだが、エルフ国王の親書も有る事だしきっと上手く行くでしょ。




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定年退職爺の異世界転生、スキルが無いのですぐ終了〜覚醒した超ユニークスキルを使って訳あり伯爵令嬢と共に俺を殺した奴らを1人残らず消去します 主水 @321155ma

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