第6話 途切れた絆
「へぇ…で、で?結果はどうなったんですか?」
時を重ねて15年。旧バンカスター王国より北に位置する、冬のフロントス王国。ピザ・フォルマッジを堪能しながら、十二剣王のハニービーは尋ねてきた。
「あとは皆さんご存知の通り、この国があるということはハル様が完勝したということです」
上司である彼女と、ピザをシェアしながら昔話を聞く。
「あの時の死闘はすさまじかったですね。私もその場に居ましたが、あのハル様は本当に格好良かったですよ」
そう昔話を語っていたのは、成長したあの少女ユカだった。今は勉強、修行、鍛錬を重ね、100以上の精霊を操る大魔導士にまでなった。
そしてフロントス王国の「最高戦力」と呼ばれるまでに成長した。剣王の国なのに。
物腰柔らかでおっとりしており、とても大魔導士とは思えない。ハキハキしたハニービーとは馬が合うようで、よく食事をちょくちょくつれだってたりしている。
「ハル様やジャンクさんの英雄譚はいつ聞いても飽きないなぁ~」
ハニービーはもちろん、国中の剣士や住人が、ハルバードに敬意を持っている。
「それが今では、書類の虫というのがもったいないですけど…」
「ふふっ、王様とは本来そういうものですよ」
くすくすと笑うユカ。彼との出会いで本当に人生が変わった一人だった。ハルバードは勝利後、北の地にこの国を建国し、現在はジャンクがその知能を活かして大参謀となっていた。
その大剣王は今は書類の山と格闘する毎日。それだけ、この国の治安がいいということだ。
「あいよ、ユカ・オリジナルお待ち」
「ありがとうございますテッペイさん。それでは…いただきます」
焼きたてのピザが運ばれてきて、ユカはそれにありつく。
「あのー、前から気になってたんで、一枚貰っていいですか?」
「いいですけど、辛いですよ…あ」
「~~~~~~!?痛い、痛い、痛い!!痛、痛、痛、痛、痛、痛!!」
「あらあら」
並の辛さと痛みではないピザに、ハニービーはのたうち回った。涙も止まらない。やっぱりこの人も化け物だ。
「これは大変だわ。ウンディちゃん、お水を」
そうユカが告げると、水の精霊ウンディーネが滝のように、ハニービーに水を浴びせる。
「がぼごぼげぼぐぼぐばげべぼぼ!!」
3分後、ユカが手をかざすと水がすぅっと、消えていった。流石に死ぬ寸前のハニービーは、
「お…丘で溺れるわぁ!!限度!!げーんーどっ!!」
「あらあら」
「掃除と後片付けと弁償はしていけよ、あんたら」
テッペイが水圧でボロボロになったテーブルを眺め、冷静に叱る。テッペイもこの気遣いが弟子にできていたら、さぞよかったろうに。
「はいはい」
いたって平静にあしらうユカ。彼女には常識は通じない。
「ったく…」
ぶつくさとつぶやきながらテッペイ親分は、店の奥に消えていった。
平和な空を見上げるユカ。彼女が話していない結末が一つある。
それはランデイズの最期だった。
◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇
戦の終焉。図ったかのように、雨が打ち付ける。無数の傷を受け、その命、燃え尽きんとするランデイズ。もはや声にならない声で、
「お…れ、は死ぬの…か?」
「欲に溺れるからだ、馬鹿野郎…」
あえて厳しい言葉を浴びせるジャンク。
昔はよかった。果たして三人の絆が切れたのはいつだったか。…今ではもう、わからない。
「俺は…どこか…で、嫉妬してたんだな、英雄の…おまえ…に…」
目がかすむ。もはや声もかすかだった。
「生まれ…かわ…るなら、お前、みたいな…おとこ…に………」
ランデイズを抱きかかえるハルバード。彼は既に事切れていた。
「道は違えたが…」
「…お前のことは決して忘れないよ…ランディ…」
◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇
「今年もこの季節が来たか…」
「書類の山の標高は縮んだか?ハルバード殿下」
「ジャンク…その話は辞めておこうよ、この場ではさ」
酒瓶を片手に国王となったハルバードが、無縁仏の墓石の前に座り込んだ。
そこに大参謀ジャンクも駆けつける。山風が冷たい。
…北国であるフロントス王国も冬の豪雪の対策をする時期だ。
「あの時、道は違えたが、お前は間違いなく友だった…」
酒瓶のコルクを抜くと三盃の盃を並べ、なみなみと酒を注ぐ。
「はは…相変わらず安物だな」
「だからこそ意味があるんだろ?」
「…まあな……友に」
「…友に」
ランデイズは、今はフロントス王国の騎士団の墓地にて亡骸が埋葬されている。ハルバードとジャンクは、この時期になると毎年、墓石の前で酒を酌み交わす。
その味は、あの時の別れの盃のように苦々しいながらも、懐かしくもある平和な味がしたという。
英雄王の逃避行 はた @HAtA99
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