第22話 8年前-るるぽーと.1
車で二十分。るるぽーとへやってきた。
店内は平日のせいもあってかいつもより人が少ないように感じた。子供連れのお母さんがちらほら見受けられる程度だった。家電量販店の電化製品たちの賑わいがえらく目立って見えた。
「おっ先っーー」
声を上げるなり快晴は走り出して行った。
ちかちかちかちかと騒々しく、何かを訴えてくる大きな液晶テレビたちに気を取られたせいで、私はまたノリ遅れた。
「おーい、快晴走るなーー。危ないぞーー」
お父さんの声は届くこともなく、快晴は目の前のエスカレーターを一直線に走って行く。
私は必死に追いかけたけど、さすがに快晴の足には勝てない。というより、かけっこは苦手だ。——いや、見栄を張った。運動全般、得意ではなかった。
「七海ー、気をつけろよー。石屋さんだからなー」
私は、はーい! と、出せるだけの声を張り上げ、振り返ることなく慎重に出来るかぎりの速さで足を進めた。
けれども……
やっとの思いで、石の店にきたのに快晴の姿は無かった。
辺りを見る限り、同年代の子が一人、二人お母さんと一緒にいるくらいだった。私は周囲を何度もキョロキョロとするけど、やっぱり人影はなかった。不安はつのるばかりだった。
そんなとき、聞き覚えのある声がした。「七ちゃん?」
私は反射的に後ろを見た。
すると小春が立っていた。驚いた顔をしている。
当然、私も驚いて振り返った勢いそのままに言葉が出た。
「小春ちゃん! なにしてるのー?」
「パパといっしょにお買い物ー。七ちゃんはー?」
「七は快晴のお買い物についてきたー」
夏休みで顔を合わせてないせいだろうか。私の気持ちは弾んだ。小春からも伝わってきた。
「ねー一緒にあそぼーよー」小春は私の手を引っ張って行く。
「いこー!」引く力と駆け出す速さに、私の気持ちも引っ張られていった。
「どこにいたのー?」
私の問いかけに快晴は見向きもしなかった。
『石ころハウス』の看板がかかった店内は、すぐに全体を見渡すことができ、快晴を見つけることも簡単だった。でも、ずいぶんと道草を食った気もするけど……
私たちは、石ころハウスに来る前に、二件隣のおもちゃ売り場を経由してきていた。
ピンク色のキラキラドレスを体に当てみたり、頭にティアラをのせたりと、私たちはすっかりプリンセス気分を堪能してからやってきた。キラキラかわいいー、と言う小春の言葉で、はっとして、慌てて石の店へやってきた次第だった。
「ねー快晴ー、探したよー」
私はもう一度しらじらしく問い詰めた。
しかし快晴は「わるい、ちょっとゲーム見てた」とだけ悪びれることなく応え、熱心に直視を続ける。
なにを見てるんだろ? 私も同じように視線を移した。
ただの石ころ……
覗き込んだ先の棚には、隙間なく並べられたたくさんの石と、『こちらは原石コーナーです!!』とややラフな文字体で書かれたPOPの紙に目がついた。
いくつか手で触れてみるけど、どれもごつごつとしていて手触りいいとは言えなかった。輝きも周囲にある石と比べて輝きは見劣しているし、形も不恰好な物ばかりだった。
私ならもっと宝石みたく光輝く石がほしい、と思った。
現に店の中はキラキラした天然石やパワーストーンのアクセサリーが店いっぱいに溢れていたし、足元にある、石ころすくい、と書かれた籠の中にあるたくさんの小さな石でさえキラキラとしていた。
私なら絶対こっちだ。
「快くん、なに見てるの?」
小春も訊いて一緒に覗き込んでいる。
「どれにしようか悩むんだよなー」
なんだろこの感じ……
変にお兄ちゃんぶった感じに振る舞う快晴が、私には何だか鼻についた。
「まじかっ。これなんか激レアだぞ⁈」
そんなお兄ちゃんを見て、私は恥ずかしい思いに駆られる。いちいち大袈裟なんだって……
そのへんに落っこちてる、ただの石ころじゃんか、と私は思った。
すると小春は、五百円玉くらいの石を一つ手にする。
「小春はこれがいいー」
ごろごろとした石で色は黒色。質感はややマットな感じだろうか。やっぱり私には道端で転がっている石ころにしか見えなかった。
でも意外だな、とは思った。理由は小春の普段の装いからは想像つかなかったからだった。
小春の今日の装いも、薄いピンクのワンピースに、頭にはお花の髪飾りと可愛らしいかった。
「ガチか! モリオンかよー! それ黒水晶だぜ! ガチでチートやん」
快晴お兄ちゃんは興奮している。
なんでだろ?
身内がはしゃぐと恥ずかしくなるのは。
おそらくモリオンと黒水晶は、同一の物を指しているのだろう。私はこれ以上火に油を注がぬように、少しずつ距離を取っていった。
しかしこの場はもっと熱を増すこととなるのであった。
次の更新予定
星とぼくの出会いのきずな〜魔女の猫と光る石〜 Y.Itoda @jtmxtkp1
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