今日という日は大切な日らしいよ

咲良喜玖

誕生日

とある一家。

リビングで、三人席のソファーに座る姉弟と一人席のソファーに座る母。

みんなの前に立つ父から始まる。


父「今日は誕生日だぞ」

母「そうなの」

姉「誰の」

弟「俺は来月だよ」

母「そうよね」

姉「梨絵は明日だって」

弟「誰だよ」

姉「友達」

弟「知らねえよ」


「「「「・・・・・・」」」」

家族全員無言の後。


父(涙)「みんな、父さんのだよ」

母「・・・・そ、そうだったわね」

姉「へ~」

弟「そうだったんだ」

父「なんだそっけないな。ケーキは! あるのか。皆の者」

母「あ、あるわよ・・・ね」

姉「知らない」

弟「買ってあるの?」

姉「冷蔵庫にはなかったよ」

父「え?」

母「も、もちろんあるわよ……ね」

弟「聞かれてもな。俺、今日冷蔵庫見てないよ」


席を立った母が冷蔵庫に向かって行った。


父「おお。子供たちよ。本当に知らなかったのか。父の誕生日だよ。何よりも大事じゃないのか。父の誕生日だよ」

姉「わかったから、別に二回も言わなくてもいいじゃん」

弟「二回目いらないよな」

父「父の誕生日だぞ。父の!」

姉「今ので三回目じゃん」

父「三回だって言いたくなるだろ。悲しいぞ。父・・・」

姉「……まあまあ。よかったじゃん。今日生まれて」

弟「おめでとーーー」

父「心が籠ってないぞ。せめて心だけでもくれぇい。ケーキなくてもいいから!」

姉「お誕生日おめでとうございます。お父さん」

弟「生まれて来てくれてありがとうございます。親父」

父「うむ。苦しゅうないぞ・・・って騙されるか!!! 言葉だけに心が籠ってるわ! 気持ちがないわ。気持ちが!!!」


父は被っていた赤い帽子を叩きつけた。


姉「心も籠ってますよ。お父様」

弟「態度も籠ってますよ。父上」

父「うお~ん。言葉だけがもっと丁寧になってるぅ。父の顔見てないし」


姉弟は、携帯をいじっていた。


姉「大丈夫ですよ。お父様。見てますよ」

弟「ちゃんと心の目で」

父「なんでそこだけお前らは協力するんだ! こういう時だけ、仲いいな!」


母が戻ってきた。


母「ほら、ケーキあるわよ」

父「おお!」


コンビニのカットケーキだった。


姉「ケーキ、よかったじゃん」

弟「おいしそーーー」


棒読み姉弟。


父「ああ、よかった・・・・って、ホールケーキじゃないのか! 父の誕生日なのに!?」

姉「別にケーキなんだからいいじゃん。ホットケーキじゃないよ」

父「そうだよな。でも娘よ、最近の名称はパンケーキらしいぞ……」

弟「ないよりはいいじゃん。父さんだけ食べられるよ」

父「そうそう。ないよりはいいぞ。って父さんはね。皆で食べたいの! だからホールケーキがいいの!!!」


父は駄々っ子である。


母「あんた。いいでしょ。これでも」

父「いやだ、いやだ。父さんは、みんなで食べたいの」

娘「駄々っ子じゃん」

父「今日だけでいいの。みんなで食べようよ。買いに行こう!」

家族「「「ええええええ」」」


『ピンポーン』

家のチャイムが鳴った。

ドアの向こうの人「宅配で~す」


弟「父さん。出てよ」

父「なんでだよ。父さんの誕生日だぞ。お前たちが出ろよ」

姉「いいから出てよ」

父「だからなんでだよ。父さん、今日誕生日なんだって!」

母「いいからあなたが出て!」

父「なんだよ。酷いな・・・」


父はしぶしぶ玄関に向かった。

二分後・・・。

戻ってきた父は笑顔だった。


父「これ。お前たち!」


父はテーブルに四角い箱を置いた。


父「ケーキか!」

姉「そうだよ」

弟「よかったね」

母「この子たちが頼んだのよ」

父「おお! 我が子よ。苦しゅうないぞ。父は嬉しいぞよ」

姉「父さん、その服。あたしが選んだんだ」


父は自分の服を見た。


母「あんた気づかないの。そもそも気づきなさいよね。朝、私が服入れ替えた時に」

父「なぬ!? そうだったのか」

弟「その帽子。俺と姉ちゃんが買った」

父「え!? これがか。ああ、叩きつけちゃった。ごめんね」


父は帽子を優しく撫でた。


母「あんた。そろそろ自分が身に着けてるものくらい。覚えておきなさいよ」

父「じゃあ、これドッキリだったのか」

家族「「「そうだよ」」」

父「おおお。俺の家族はいい家族だなぁ。そうだったのか・・・」


父は泣いて喜んだ。


父「じゃあ、箱開けるぞ。ホールケーキだよな」

姉「普通のね」

弟「ショートケーキね」


箱が開き、家族はケーキを上から覗き込んだ。


父「ぬ!?」

母「え?」

姉「なんで???」

弟「どうすんの?」


ホールケーキは五等分であった。


父「一個多いな」

姉「一個多いね」

弟「誰が食うの」

母「ここは私でしょ」

家族「「「なんでだよ」」」

父「俺だろ」

姉「あたしでしょ」

弟「俺だって」

母「なんでよ」


という事で。

仲良し家族は五等分になったケーキを巡る壮絶な戦いをしたのでした。

血と汗と涙の話し合いの果てに、大声が響く。


家族「「「「・・・・最初は・・・グー・・・・じゃんけん・・・・」」」」


仲良し家族の誕生日でした。

めでたしめでたし。


父「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

今日という日は大切な日らしいよ 咲良喜玖 @kikka-ooka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ